#19 悪役令嬢と言われた私は聖女だったー3(フェルトリエル視点)
本当にお待たせして申し訳ない……三日遅れ……
かつて、この世界を生み出した神は自分によく似た種族を作り、慈しんだ。
職を与え、衣服を与え、知識と技術を与え……。
神の加護を与えられ、その力の欠片である魔力を自在に使いこなす彼らは、何もない大地に命を芽吹かせ、やがて巨大な文明を築いた。
神は自らの子ともいえるこの種族を、魔族と名付け、より強大な信仰を持つものに加護を与えた。
……いつからだったろうか。
与えられることに慣れ、加護の強さを己の尊さと過信した彼らは、いつしか身内で争い、弱きものを虐げ搾取することでしか己の心を満たすことが出来なくなった。
美しく、往来が活発だった都市は荒廃し、強い力を持って生まれた王侯貴族だけが、城の中で毎夜宴に興じ、堕落と不道徳の限りを尽くした。
しかし、彼らの神はそんな堕落した彼らを見捨てることが出来なかった。
彼らには強き信仰心があったから。
弱きものは、神の加護が強いものに虐げられるがゆえに信仰心を持たない。
強きものは、己の強さが神に由来するものであると知っているがゆえに、どれだけ堕落した行為に走ろうとも、神への信仰心だけは失わない。
次第に神は堕落した強きものの信仰に引っ張られる形で、自身も堕落した存在へと堕ちていった。
困ったのは、神と同じ上位存在たちである。
彼らはそれぞれが管理する世界以外に関わることはまずしない。
それはお互いの存在を否定する行為にも等しいからだ。
しかし、堕落した神はその掟を破り、堕落によって終わりかけたその世界に、他の世界へ侵略させることで、自らの世界を維持しようとしたのである。
上位存在たちは堕落した神を止める術を話し合い、やがて一人の女性が選ばれた。
我々人間族が信仰する女神である。
女神は上位存在の中では比較的年少がゆえに自らの世界を持たぬ。
神々の掟は、世界を持たぬ者の干渉を否定しない。
ゆえに、彼女は神が生み出した世界の新たな女神となることが出来たのだ。
女神は、魔族たちの国から少し離れたところに降り立つと、まず自分の手足となる分身を十四体生み出した。
それから、魔族とよく似ながら、力がより小さく、短命で、しかし強き理性を持った種族を生み出し人間族と名付けた。
女神は人間族を保護しながら、堕落した神と魔族のような結末にならないよう、一つの策を練り出した。
魔族と堕落した神を敵とみなし、人間の中でも人格の優れたものに討伐させる策である。
魔族の非道な行いを許さないという風潮を作ることで、自然と人々が堕落した行いを避けるように誘導しようと考えたのだ。
しかし、堕落した魔族たちは各々が自由行動を好むために、明確な長が存在しなかった。
そんな烏合の衆を倒したところで、女神の望む効果は得られまい。
女神は思案した。
そして、天使の中で最も最初に生まれ、最も女神の権能を強く受け継いだ最初の子に命じた。
「魔族の長となる存在を育て上げ、人間の最も優れた勇者に倒させるのです」
女神の命を受けた天使はその名を失い、歴史から消される形で魔族の国へと向かった。
名もなき天使は、弱きものの中に一人だけ取り残されていた強きものを、魔族の実力者として育て上げ、彼をやがて魔王と名乗らせた。
堕落した神の強き加護を持ちながらも、堕落することのない青年に育った彼の下には、魔族でありながら堕落する前の清き心を保った者たちが多く集った。
名もなき天使は強く悩んだ。
違う神の被造物であるからと、堕落する前の魂を見捨てられるほど、天使の心は冷酷になれなかったのだ。
着々と魔王の勢力の下へ近づく勇者たちを見て、天使は女神に訴えた。
堕落していない魔族らが今世の死を免れないのであれば、せめて、我々の子である人間としての生を与えてやってはくれないかと。
女神は激怒した。
堕落しようがしまいが、世界を脅かす者の眷属を大事な人間たちに生まれ変わらせるなどありえないと。
そして、一時取り上げていただけの天使の名前を完全に捨てるか、魔族を見捨てるかの二択を迫ったのだ。
天使には、見捨てることが出来なかった。
人間も魔族も、同等に尊い命であることを、愛すべき存在であることを、天使は既に理解してしまっていたからである。
天使は、人間の選ばれし勇者と聖女が魔王とその勢力を倒し、堕落した神の力を封印したことを確認すると、堕落していない彼らの魂を、己の存在と引き換えに人間へと転生させたのである。
天使が想定外だったのは、女神が天使を殊の外気に入っていたことと、それでも尚、魔族の存在を許せなかったことである。
女神は天使だけを復活させ、魔族の魂を消し去ることを望んだ。
しかし、幸いなことに名を失えど受け継いだ権能を保っていた天使の使った術は複雑に絡まり合い、一方を消せばもう一方も消えてしまうようになっていた。
女神は、仕方がなく魔族の転生を受け入れ、代わりに名を奪った天使を再び自分の子として迎えるために、天使の魂を消させなかったのである。
女神は、天使の兄弟である十二の天使たちに交代で人間として世界を見守るように命令し、魔王を倒した勇者の一族にその体を産ませることを約束させた。
勇者は、人間の国で一番大きな国の皇帝となり、その周りに大小さまざまな国が生まれた。
そうして女神はこの世界に安寧をもたらし、今に至るまでの数百年を過ごした。
女神は、人々に訪れる危機に際して、かつて魔王を倒した勇者と聖女と同じ力を気まぐれに人間に与えた。
彼らは、必ず人格に優れ、与えられたその力で人間社会の堕落を食い止めてきた。
男であれば勇者、女であれば聖女と呼ばれる彼らが現れるのは、奇跡の前触れであるのと同時に、災厄が迫っているという警告でもある。
そして今、災厄の前触れとも、世界の変化の前触れともいえる事態に陥っている。
魔王の生まれ変わりであるレオナルド・グロッタ、名を奪われた天使の生まれ変わりであるレイチェル・グロッタ、天使の一人であり現在の監視役であるこのフェルトリエル……
……そして、数百年ぶりの本物の聖女、ヴィオラ・リドニクス。
君の存在こそが、この世界の命運を握っていると言っても、差し支えないだろう。
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