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兄が連れ込んだ女が悪役令嬢だった。  作者: 京栞


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17/21

#17 悪役令嬢と言われた私は聖女だったー1(ヴィオラ視点)

 せい、じょ?

 ……聖女? 私が?


「聖女というのは、神に愛され人々を癒し魔を撃ち払うという、あの聖女ですか?」


 建国神話の時代から、歴史の合間合間に現れる聖女は、いずれも聖女特有の聖魔法や特殊な知識を使って世界を様々な危機から救っています。

 彼女たちはみな、人の範疇を超えた魔力を持ち、美しい容姿をして人を惹きつけて止まない人物だったと伝わっています。

 魔法を発動できる魔力もない、容姿もさして秀でず、人から慕われることもない私が聖女だなんて俄かには信じがたいことです。


 頭が、割れるように痛い。

 それは不自然なほどに私の中に「聖女であると認めてはならない」という感情として私を支配しました。


 頭の中でかつて義母や異母妹に言われた言葉がフラッシュバックします。


「なんて地味でみすぼらしい子なの? せめて旦那様に似ていたら少しは見れたというのに」

「魔力もない、容姿も悪い、こんなお義姉様が皇族妃だなんてぞっとするわ。どうせ皇子さまにも見捨てられてしまうわよ」


 ……本当に私が聖女だとして、だったらなぜ私はこんな目にばかりあっているのでしょうか。

 聖女であると、自覚を持ってしまえばきっと私は壊れてしまう、そんな予感さえするのです。

 不安と謎の焦燥が入り混じった顔で尋ねた私に向かってレイチェルちゃんはしっかりと頷きました。


「はい、その聖女で概ね合ってますよ。ざっと二百年ぶりの聖女ということになるでしょうか」

「どうして、私が聖女に……」

「女神がお姉様を聖女に選んだ理由は私には分かりません。……が、お姉様が女神に愛されていることだけは確かです」

「……」


 愛されている? 遊ばれているの間違いでは?

 そんな悲観的な自嘲が頭の中で浮かびます。

 頭痛はますます強くなって私の感情を支配しようとします。

 呼吸は荒く、感情は激しく波のように私の理性を浚おうとしてきます。

 対照的にどこまでも冷静な顔を崩さない“目の前の少女”に苛立ちを増していく私は自分自身をもう止められません。


「むしろ、何故今まで誰もそのことに気づかなかったのか不思議なくらいです。女神の加護は目に見えて明らかだというのに」

「! そ、そうです! 私が本当に聖女であるなら、どうして誰もそれを指摘できないのでしょうか? 聖女を認定するのは教会の方だと言いますが、私は今まで何度も教会の方にお会いしていますよ」


 神の子を産む皇室と女神の敬虔な信徒たる教会の関係は深く、皇族費の祭祀教育を教会が担う都合上、私はほとんど毎週教会の司祭様と顔を合わせていました。

 私が聖女であるというならば、教会が気付かないはずがありません。


「それは私も気になりますが……」

「私の傷の治りが異常であることは私にも分かっています。けれど、どうして聖女だなんて話になるのですか? 何の根拠もなくそれを言われても私はどうにもできないんです!」


 衝動的に立ち上がって叫ぶと、レイチェルちゃんも立ち上がり、静かに私の顔の前に手をかざします。


 次の瞬間。

 何かが抜ける感覚と共にガクっと体が崩れ落ちます。

 同時に私を支配していた激情もふっといなくなってしまいました。

 私は何故あそこまで拒否感が大きかったのか分からぬままに呆然としていました。

 レイチェルちゃんは私の隣まで来て手を差し伸べると、そろそろと出された私の手をつかんでぐっと引っ張り上げます。


「少しは楽になりましたか、お姉様?」

「ええと、今の、これは……」


 何が何だか分からなくなってしまった私にレイチェルちゃんが説明してくれます。


「大丈夫ですよ、お姉さまにかかっていた暗示を解いただけなので。私も『久しぶりに』見ましたが、呪術の類でしょう。恐らく、『聖女』という単語を対象者が耳にすると発動するのかと。術者でなくとも解除が出来る簡単なもので助かりました!」

「呪術?」

「はい。現代の人間がこれを知っているとは思えませんから、魔族が介入しているのでしょう。私も術が発動してからしか分からなかったということは、かなり丁寧にかけられていますね。先程までと手足や思考の感覚が違うと感じたりしていませんか?」


 そう言われてみれば、確かに妙なくらい頭がスッキリしているような気がします。


「やはり思考誘導もかけられていましたか。流石に染髪されていることにすら気がついていないのはおかしいと思っていたのです」


 そう言われて自分の髪を触ってみると、確かに今まで違和感を感じなかったことが分かるくらい、私の髪は染めたもの特有のざらざらとした触り心地がします。

 遠い国では違うらしいですが、この国での染髪というのは独特の薬剤を髪に塗り込むことで染めるものなので、至近距離で見たり触ったりするとすぐ分かるようなざらざらとした髪質になるのです。


「しかし聖女であってもその呪術というのは効くのですか?」

「ええ、本人が呪術を認識できれば弾くことも容易ですが、無意識下でとなると、避ける術はなかなかありません。ましてや、これがかけられたのはお姉様も子供の頃のはず。自覚があっても抵抗は難しかったでしょう」


 私が、呪術を賭けられていたというのは突飛な話ではありますが、この状況からすればおかしいとも言いきれない話です。


「そう、ですか。それでは、レイチェルちゃん、教えてくれませんか?」


 あなたがいったい何者で、聖女と何の関係があるのかを。

更新遅れまして申し訳ありません!

次回は何とか、何とか間に合わせます……


次回更新予定 3/4 7:30

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