#15 兄の連れて来た令嬢は聖女だったー3(ヴィオラ視点)
「へ、陛下が、ですか?」
レイチェルちゃんの言葉に、私の顔は思わず引きつりました。
「はい。まあ、今日のご公務を終えてからとのことなので、後三時間はあります。非公式の謁見なのでそれだけあれば十分かと」
「ですが、本来なら私が伺わなければいけないのでは?……」
「通常の謁見でしたらこちらから行くのが筋でしょうが、今回の件は明らかに皇室に非がありますから。人の目の無い場所でなら謝罪も可能ですし、それが狙いだと思いますよ」
現皇帝フェルトリエル陛下は四代ぶりに皇室に生まれた「神の子」で、民からの評価も賢帝と名高いお方。
私も皇族妃教育や公務の際に何度かお話ししましたが、物腰も柔らかく、それでいて為政者としての風格を感じさせるような不思議な雰囲気をまとっています。
陛下は私の実母が亡くなって義母を家に向かえることになった際、私の立場を心配してカリュエン殿下との婚約を斡旋してくださったので、それが結果的にこんな結末となったことに責任を感じておられるのかもしれません。
確かにカリュエン殿下との関係は良くない形で終わってしまいましたが、殿下の婚約者という立場でなければ、今日まで命が保証されていなかったとも思います。定期的に城へ行くことで、屋敷から離れることが出来ましたし、義母の息がかかっていない教師の下で学ぶことが出来ました。
学園で成績を保っていられたのも、公務手伝いの合間に皇城で学習をしていくことを認めていただいたからですし。
ですから陛下には、むしろ感謝しているのですが。
「お姉様がお望みなら拒否しましょうか? 熱を出したと言えば無理には押しかけてきませんでしょうし」
「い、いえ! 陛下もお忙しいでしょうから拒否するわけには! むしろグロッタ家はそれでよいのでしょうか? 負担になるのであれば、やはり私が城へ出向きますから」
「私たちとしてはヴィオラお姉様の安全を考えると、むしろこちらでやっていただいた方が嬉しいですね。流石に城だとミスティを連れて行くのは難しそうですし」
そう言って、レイチェルちゃんはミスティの方をちらりと見やります。
……どうやら、彼女はただのメイドというよりは私の護衛も兼ねているようです。そういえば、私のお世話をしてくれる時も、物音というもの音を立てる様子がありませんでした。かなりの実力者です。
「ですが、謁見をするにしても、私のドレスは、ミスティが回収してしまいましたし、どのようにすればよいのでしょうか?」
健康には悪いドレスでも、今着ているワンピースよりはお金がかかっている分マシに見えるはずです。
私がそう主張すると、レイチェルちゃんが首を横に振ります。
「いえ、あれはお姉さまにはあまり着てほしくないデザインですので、絶対にやめてください。ドレスは心配なさらずともすでに手配してあります」
「え⁉」
「今朝お兄様が屋敷を出る前に、ヴィオラ嬢に必要なものは全て揃えるように、と。折角だからとうちの専任デザイナーは呼びつけてあります。この時間なので既製品にはなりますが、家のお金ではなくお兄様の個人的な予算から出ているので遠慮なく使って構いません!」
「余計使いづらいですよ⁉」
保護していただいたばかりか、身に着けるものまで用意していただくなんて申し訳なさすぎます。
あわあわとしていると、レイチェルちゃんがこう続けます。
「そんなに気になさるなら、後でお兄様とデートでもして差し上げてください」
「そ、そんなことでお礼になるのでしょうか?……」
迷惑をかけてばかりの私と共に時間を過ごすのはかえって迷惑になるのではないかと危惧する私でしたが、レイチェルちゃんは笑って言います。
「もちろんです。なんならそのままお兄様を恋に落としていただいても構いませんよ! ……まあ、もう落ちていらっしゃるわけですが」
「恋だなんてそんな!」
私が、レオナルド様を、恋に? 気が動転したせいか、小さくレイチェルちゃんが続けた言葉は聞き逃してしまいました。
「安心してください、無理強いをするつもりはありませんから。私が言いたいのは、私もお兄様も好きでやっていることなので、お返しは気が向いたらで良いってことです」
「で、では無事謁見が終わったら、その、私と一緒にお出かけしていただけないか、誘ってみることにしますね」
どうせ、私なんかでは断られて終わりだと思いますが。
心の中でそう呟きながらも申し出ると、レイチェルちゃんが心底嬉しそうに笑ってくれます。
「本当ですか⁉ とっても嬉しいです!」
「お待たせしてすみません。とてもおいしい料理でした。料理人の方にもお礼を伝えておいてください」
「きっと、彼らも喜ぶと思いますよ。デザイナーが着いたようなので、そちらの部屋へ行きましょうか、お姉様」
食事を終えて向かった部屋に入ると、既に着席していた女性が立ち上がり私に礼をします。
「初めましてリドニクス公爵令嬢様。わたくし、グロッタ家の専任デザイナーを務めております、ブティック・シュピンネのリアラ・クネル・シュピンネと申します。どうぞ、リアラとお呼びくださいまし。お会いできて光栄ですわ」
「ヴィオラ・リドニクスです。いきなりのお仕事になってしまって本当にすみません。よろしくお願いします」
「リドニクス様に非が無いことは既に伺っておりますので、そう申し訳なさそうになさらずとも大丈夫ですわ。こんなに美しい方の服を作れるのですもの、むしろご褒美ですわ」
「リアラ、急に呼びつけてすみませんね」
「構いませんわ。あの方がお望みになったことであるなら、全て従う。それがわたくしたちの在り方ですわ。……我が主にも春が来たということですのね……」
「ええと……」
何故か分からないけれど誤解をされている気がするのですが。
きらきらとした表情で向けられる視線は何処かくすぐったく感じてしまいます。
「すみません、お姉様。リアラはちょっと空想が好きな方ですが、腕だけは保証しますので」
「任せてくださいな、わたくし、人を美しくすることには最も長けておりますもの!」
「それでは、リドニクス様」
覚悟は、よろしくて?
次回更新予定 2/18 7:30




