#13 兄の連れて来た令嬢は聖女だったー1(レイチェル視点)
「失礼します、ヴィオラ様。お目覚めになったと聞いたので参りました! 体調はいかがでしょうか?」
ヴィオラ様が目覚めたのは、お兄様が皇城へ出仕した後、もうすぐ正午の鐘が鳴るかという頃だった。
……私は、私の感覚を信じているから、彼女は聖女だと思っている。
ただ、それを信じるかは相手次第であるし、そもそも、実態の分かっていない今の段階で無暗に本人に伝えるべきではない。
というか、安易に私たちの事情を伝えることは、ヴィオラ様を私の義姉にするという目的の邪魔になる可能性も高い。
だから私は、ヴィオラ様が私たちを信頼できるようになるまで、何もないように振舞うことを決めた。
「おはようございます。……昨夜はお見苦しいところをお見せしました、レイチェル様。行く当てのない私を泊めていただいたことも感謝していますわ」
一晩眠り、冷静になったことを示すように、ヴィオラ様の態度は昨夜よりも私たちと距離を取るような態度になった。昨晩よりも物静かな印象の強まったその姿は、流石皇族の婚約者、といったところだ。
私の呼び方も、昨夜は親しい子供に対して呼ぶようなちゃん付けだったのに、今日は貴族令嬢として接するための様付けに変わっている。
「昨日の件に関しては、ヴィオラ様が悪いことは一切ありません。昨夜のように、レイチェルちゃん、とお呼びいただけませんか? 私、ヴィオラ様のようなお姉様に憧れているのです!」
何とか、空いてしまった距離を戻そうとぐいぐい迫ってみる。
ヴィオラ様は少し困ったような、恥ずかしいような顔で私に聞いてくる。
「ええと、流石にあの呼び方は、貴族のご令嬢に対して失礼だったかと思ったのですが、よいのですか?」
「はい、もちろん! できれば、ヴィオラ様のことはヴィオラお姉様とお呼びしたいのですが、いけませんか?」
「……わ、分かりました。レイチェルちゃん、がお望みなら、お好きなように呼んでください」
少し顔を赤らめて恥ずかしがりながら、了承してくれたヴィオラお姉様が可愛らしい。
「これから昼食を取るのですが、ご一緒にいかがですか。ヴィオラお姉様?」
「お誘いありがとうございます、レイチェルちゃん。丁度、お腹が空いてしまったところだったのです。是非ご一緒させてください」
「良かった。嬉しいです!」
取り敢えず、食欲はあるようで安心する。
冷静に振舞っているように見えるが、衆目の前で婚約破棄なんて普通は三日三晩寝込んでもおかしくないような仕打ちだ。
食欲が極端に落ちていたらどうしようかと思っていたのだ。
ヴィオラお姉様を連れて食堂へ向かう。
「あの、レオナルド様は、どちらにいらっしゃるのでしょうか? 昨夜のお礼も言いたいですし……」
言葉を濁した先に続くのは、迷惑をかける前に別れの挨拶をして出ていきたい、とかだろうか?
「お兄様は既に皇城へ出仕しています。昨夜の件も皇帝陛下に説明してくださるそうなので、ヴィオラ様はひとまず体を休めてくださいとお伝えするように言われています」
「そ、そうですか……レオナルド様には、本当にご迷惑を……」
「屋敷までヴィオラお姉様を連れて来たのは兄の責任で、ここに留めているのは我が家の責任です。私たちのほうこそ勝手なお節介をしているのですから、どうか気に病まれないでください」
ヴィオラ様にはどうやら自身を責めすぎる節が見える。
本当にご本人の知らないところで色々と巻き込んでしまっていることを申し訳なく思いながらフォローを入れる。
「そう言ってもらえると、少し気が楽になりますね。……ところで、レイチェルちゃんは、おいくつなのでしょうか? すごく大人びていらっしゃいますよね」
「じゅ、十二歳です。伯爵家の直系は私とお兄様だけですから、お兄様が城勤めの間、領主の仕事を代わりに行っているのです」
中身は十二歳どころではなく、四桁を超えているけれど。
私の中では、むしろ体に引っ張られすぎてかなり衝動的な行動が多くなったことを反省しているのだ。
「まあ。領主のお仕事を、そのお年でですか? 十二歳なら、私の異母弟と同い年ですが、彼はまだ家庭教師から逃げ回っているそうですよ?」
「……弟君というと、公爵家の後継ぎとなる方ですよね? それは、大丈夫なのでしょうか……」
「どうでしょう? 父は義母の血を引く者には甘いですから……あの子自身は悪い子ではないのですが……あの子にも心配をかけてしまっているでしょうね……」
家族全員と仲が悪いのかと思っていたが、どうやらそうでもないようだ。異母弟のことを話すお姉さまの顔は、切なげだけど苦しみはない。
「お姉様がそうおっしゃられる方なら、きっと良い方なのでしょうね。事態が片付いたら是非お二人で我が家にいらしてください」
私的には、もう公爵家は丸ごと潰してやろうかと思っていたけれど、どうやら避けた方が良さそうだ。
彼女が騙されている可能性も含めて、調査をしてもらおう。
この件は後でお兄様に相談、と頭の中でメモを取る。
お姉さまはぱっと顔を輝かせて頷いた。
「是非! 弟とレイチェルちゃんが仲良くしてくれるなら、とっても嬉しいことですね」
「はい、私も楽しみです」
「ところで、その、ミスティからお聞きになったかもしれないのですが、体のことは、レオナルド様には、その……」
「まだ言っていません。ご本人の同意なしに異性に体のことを話すのは失礼ですから。ただ、治療した方が良いとは思ったので、体調の確認と称して、お医者様はこれからお呼びする予定です。我が家のお抱えの医師ですので、勝手に噂が流れたりはさせませんよ」
「そこまでしていただけるなんて! ありがとうございます。流石に殿方には伏せておきたいのです。見るに堪えない傷ですから」
実際に傷を見たわけではないので何とも言えないが、我が家の医師は普通の人間では治せないものまで治せるので、傷跡も綺麗になくなるだろう。
治療の前に虐待の証拠に出来るよう診断書も作らせておかなければ。
頭の中でそんなことを考えつつ、食堂の前につく。
「こちらが食堂です」
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