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兄が連れ込んだ女が悪役令嬢だった。  作者: 京栞


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#1 兄が連れ込んだ女が悪役令嬢だったー1(レイチェル視点)

なろう初投稿です!

どうぞお手柔らかに。

「レイチェルお嬢様、今夜は若様の御寝室には近づかれませんよう」


 自室で本を読みながらお兄様の帰りを待っていた私に、部屋を訪ねてきたジュリアンが告げる。


 お兄様の従僕のジュリアンはお兄様と同い年の18歳だけれど、主人の妹である私にもよく仕えてくれている、優秀な従僕だ。


 そんな彼が私に告げた言葉の意味はつまり、こういうことだ。


「またお兄様は知らない女性をお連れになったんですか? さすがは帝国一の遊び人ですね」


 私、レイチェル・グロッタの兄、レオナルド・グロッタは皇帝陛下の治めるツヴァルフ帝国で一番若い伯爵にして、巷で帝国一の遊び人と名高い(?)貴公子である。

 貴族学園の卒業後、半年で陛下の秘書官に加わり、女性に優しく、顔だちも10人中10人が美しいと太鼓判を押すような、市井風に言うところの「はいすぺっく」?な「いけめん」?だけれど、とある事情から決まったお相手がいない。


 最初の婚約者と破談になってしまってから2年。

 お兄様はその容姿を活かして下は庶民から上は貴族令嬢まで、様々な身分の女性を(たぶら)かし、あっという間に遊び人という不名誉な称号を手に入れた。


 今月も始まってまだ半分なのに、屋敷に女性を連れてくるのはこれで10回目だ。

 お兄様の事情は理解しているけれど、ここまでハイペースでとっ替えひっ替えじゃあ、お相手の女性の方々にも申し訳なさを覚えてしまう。


「お嬢様、流石にそのお言葉は如何なものかと。若様のご苦労も労わって差し上げてください」

「分かっていますよ、ジュリアン。それでも義務のように連れ込んでばかりじゃ、いい加減お兄様自身にも良くないでしょう? いざとなったら私もいるのですから、そう焦らずともよろしいのにねえ」

「それはそうですが、お嬢様にまで苦労をかけたくないお気持ちも汲んで差し上げてくださいよ」


 はあ、とため息をついて読みかけの本にしおりを挟んで閉じる。


「それで? 今日のお相手はどんな方なんですか? 今日は王城で開かれる夜会に参加していたはずですよね。貴族のご令嬢で今更お兄様に引っかかる方がいるとも思えないのですが」


 平民も多く混じっているような貴族屋敷での夜会ならともかく、身分もしっかり確認されてしまうような夜会で抜け出してくるのは、純潔を重視される貴族令嬢にはかなり致命的。

 既にお兄様と釣り合うような年齢で、破談になっても問題ないような格下の家の令嬢のほとんどから婚約は断られている。最近は屋敷中の者が貴族との縁談を諦め、裕福な平民をどこかの養女にする方向で探していたくらいだ。

 上位貴族の令嬢であれば、今後選ばれるであろう王太子殿下の側室を狙っている方か上位貴族同士で婚約を結んでおられる方しかいないので、恐らくそれもないだろう。


 はっきり言ってこの状況でお持ち帰りされる令嬢がいるとしたら、ただの考えなしの愚か者だろう。

 もしくは財産や地位目当ての浅ましい思考の持ち主とか。

 とはいえ、それはお兄様の趣味ではない気がする。あの軽薄そうな見た目と評判でありながら、お兄様はなかなかに純粋な恋愛観の持ち主だから。


「まさか、城勤めの平民に⁉……お兄様もそこまで堕ちましたか……」

「ち、違いますよ、お嬢様! 本日お連れになった方は正真正銘由緒正しき貴族のご令嬢です‼ ……今夜のはいつもと少し事情が異なるのですよ」


 冗談ではあるけれど、少しあり得そうだとも思いながら私が言うと、ジュリアンは慌てて弁解したのちに、息を潜めて小声で告げる。


「異なる、というと?……」

「押し付けられたんですよ、とあるお方に」

「押し付け、ですか。詳しくお願いします」


 どうやら、これは我がお兄様に非はなさそうだ。少しだけ、ホッとしながら続きを促す。


「お嬢様は今、若い貴族の間で流行っている恋愛小説をご存知ですか?」

「ええ、『花の令嬢フロリアーナ』でしょう? ちょうど今読んいでたのがそれですよ。いかにも、規則に縛られるのが嫌な我儘娘と子息たちが夢を見そうな内容でしたね」


 最近流行りの恋愛小説『花の令嬢フロリアーナ』は貴族の私生児として生まれたフロリアーナという娘が王太子と恋に落ち、非道な行いをしていた王太子の婚約者を断罪し、代わりに王太子妃となる物語だ。非道な行いと言うものの、悪役とされる高位貴族の令嬢や当主たちの非道な行いとやらは、貴族社会ではさして問題にならないような軽い皮肉や嫌がらせばかりで、国家転覆をはかるでもなく皇われるなんて、と私はむしろそちらに同情してしまった。


「流石はお嬢様。手厳しいですねえ」

「それで、その小説がどうしたのです?」


 乾いた笑みを浮かべながら、ジュリアンが言うので少しむっとしながら続きを促す。


「ええ、お嬢様の言うところの我儘な貴族子息子女はこの物語を大変お気に召したようでして、貴族学園では今この小説に(のっと)った真実の愛による婚約破棄が流行しているそうでして」

「婚約破棄? 解消ではなくて、ですか⁉」


 思わず、声が大きくなってしまった。解消ではなく、破棄と言われたから。


 貴族同士の婚約は破談になる事はそう多くない。家と家同士の契約だ。場合によっては国の利権も絡む契約を、そう簡単に壊されては(たま)ったものではない。

 しかし、事情があって婚約が続けられない場合も稀にある。主に、相手が不祥事を起こしたり、互いに別の相手が出来てしまった場合だ。そうなった場合は、お互いの家の名誉に傷をつけないために婚約解消するのが一般的だ。

 破棄としてしまうと一方が明確に非を負わせられることになるが、破棄した側も中途半端なことで破棄したとなれば批判を逃れられない。家や派閥の関係を揺るがさないためにも多少のことは、婚約解消の形で終わらせることが穏便な方法なのだ。


「ごめんなさい、取り乱しました。続けてください。まさかとは思いますが王城でも婚約破棄(そんなこと)をする方が? 陛下の顔に泥を塗るような行為をなさる方がいたと? 誰かお止めにならなかったんですか?」


 貴族の婚約は基本的に皇帝陛下の承認のもと交わされる。それなのに、婚約破棄どころか、王城の主催する夜会で騒ぎを起こすだなんて、身分によっては処刑されてもおかしくない。


「いたのですよ。私どもも止められるのであれば、止めたかったのですが。お止めできるようなご身分の方ではなかったのですよ。皇帝陛下もいらっしゃらなかったもので」


 皇帝陛下にしか止められないような身分で婚約者がいる相手はたった一人。


「まさか、第一皇子殿下が?」


 開いた口が塞がらない状態の私に向かってジュリアンがさもありなんとうなずく。私の顔もきっと彼と同じ渋い表情に違いない。


「はい、本日は殿下方のご卒業記念の夜会でしたから、初めは若い貴族たちの時間となっておりました。陛下は遅れてご登場になる予定だったのですが、その前にやらかし下さりやがりまして」

「ジュリアン、本音が漏れています。気持ちは分からなくもありませんが……ちょっと、待ってください」

「はい、お嬢様」


 思わず片手を額にやる。そもそも、私はお兄様の連れ込んだ女人の事を尋ねたはずが、いつの間にか皇家の婚約破棄事件に話がすり替わっている。関係ない話をジュリアンがするはずがなく、連れ込んだ相手は由緒正しい貴族令嬢。

 嫌な予感がする。聞いてしまったら、いや、聞いてしまわなくとも手遅れだと分かっている。それでも、聞いてしまわなくてはならない。


「お兄様の連れて来られた方って、も、もしかして……」


 ジュリアンは神妙な顔で頷いた。


「はい、第一皇子殿下のご婚約者、ヴィオラ・リドニクス公爵令嬢です」


 うわああああ。

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