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夢見る蛇の都 その13

 やはりその日も目的を果たせず、夜になってから、再び拠点として使っている大部屋へと舞い戻った、シュナン少年と仲間たちは、件の部屋に着くと、もう時刻も遅かったので、とりあえず食事を取る事にしました。

まず彼らは、部屋の床に、魔法のエコバッグから取り出した大きな敷布を広げると、その上に車座となって座ります。

そして、車座となって座る仲間たちが作る、敷布の上に出来た輪状のスペースに、同じく魔法のエコバッグから取り出した料理を、次々と並べていきます。

その姿はまるで、野外でピクニックをしているかの様でしたが、彼らは別に、遊んでいるわけではありません。

「黄金の種子」が見つからない以上、彼らは今後どうするかについて、みんなで話し合う必要がありました。

その為に少しでもリラックス出来るよう、食事をしながら、ゆっくりと話し合う事にしたのでした。

そそくさと夕食の支度をし、大きな敷布の上で車座となった彼らは、食べ物の入った皿たちを囲んで、黙々と食事をしながらも、これからの事について話し合います。

車座となって食事をする、旅のメンバーたちの中で、最初に口火を切ったのは、ペガサスの少女レダでした。


「ここまで探しても見つからないんだから、ラピータ宮殿内には、『黄金の種子」は保管されていないと、判断すべきだわ」


そう言った後で彼女は、仲間たちに、更なる提案をしました。


「パロ・メデューサの市街地まで、捜査範囲を広げてみるのはどうかしら。何か、手がかりが、つかめるかもしれないわ」


その言葉を聞いた吟遊詩人デイスが、素っ頓狂な声を上げました。

ちなみに彼は、口の中に食べ物をいっぱいに詰めこんでおり、喋る度にその破片が、飛沫と共にパッパッと飛び散りました。


「あの広大な大都市を、たった5人で調べるんですかい!?下手すると、年単位でかかりますぜ。一体、どれだけの間、ここにいるつもりなんです?」


二人の間で、敷布の上にどっしりと腰を据える大巨人ボボンゴが、重々しい声を発します。


「確かに、すごく大変。でも、それしか、ないか」


悲鳴の様な声を上げる、デイス。


「大変なんてもんじゃ、無いですぜ!!」


車座の中心にいるリーダーのシュナン少年は、そんな仲間たちのやり取りを聞きながらも、どこか上の空といった感じで、どうやらレダの提案にも、今ひとつ乗り気ではない様でした。

彼は、膝の上に置いている師匠の杖を、軽く持ち上げると、静かな口調で尋ねます。


「師匠はどう、思われますか?やはり、捜索範囲を広げた方が良いでしょうか?」


「うーむ、そうだな・・・」


曖昧な返事をする、師匠の杖。

シュナン少年は、そんな師匠の杖に対して違和感を感じたのか、ちょっと首をかしげます。

一方、我らがヒロイン、メデューサはといえば、車座になって座る、他の仲間たちの輪からは、一歩下がった感じで、敷布の上に座っており、ずっと無言で顔を俯かせていました。

そんな彼女の姿を見て、ペガサスの少女レダが、聞きました。


「ちょっと、メデューサ。あんた、ちょっと、おかしいわね。やけに、おとなしくない?いつもは、もっと、騒がしいのに。それに、お腹の辺りを、しょっちゅう押さえてたけど、もしかして、具合でも悪いの?」


しかし、メデューサは、敷布の上で身を縮こまらせたまま体育座りをしており、蛇に覆われた顔を俯かせ、フルフルと首を振ります。


「何でもないわ。ほっといて・・・」


その言葉を聞いたレダは、軽く肩をすくめると、あきれたみたいに溜息をつきました。




シュナン一行は、そんな風にしばらくの間、敷布の上で会食しながら、今後の事について話し合っていましたが、結局、はっきりとした方針を決める事は出来ませんでした。

そこでシュナン少年は、今夜はいったん就寝し、また明日改めて話し合おうと提案し、仲間たちも、それを了承しました。

シュナン一行は食事の後始末をした後で、部屋に広げていた大きな敷布を魔法のエコバッグにしまい、代わりにそこから寝具や寝袋を次々と取り出すと、今まで敷布を広げていた部屋の床に、それらを並べていきます。

そしてそれぞれが、自分の寝具や寝袋に入ると、旅の仲間たちは、今日一日の疲れもあるのか、すぐに深い眠りへと引き込まれていきます。

けれどメデューサだけは、床上に置いた寝袋に身体を突っ込んで腹這いとなり、就寝の姿勢を取りながらも、中々、眠りにつく事が出来ませんでした。

彼女は自分からは、少し離れた床上で、同じく寝袋に入って寝ている、ショナン少年の疲れ切った姿を、横になったまま見つめながら、心の中で思います。


「あたしって、なんて悪い子なんだろう。みんなを騙してー。でも、待ってて、シュナン。明日になったら、ちゃんと、「黄金の種子」を、手渡してあげるから。そうだわ、昨晩じゃなくて、今晩、夢の中で「黄金の種子」を、手に入れた事にすればいい。そうすれば、みんなに嘘をついていた事は、ばれないし、軽蔑されなくて済むはずよ」


メデューサはみんなで「黄金の種子」を探している時も、この部屋で食事をしながら今後の事を話し合っている時も、良心の呵責に苦しめられており、気が気ではありませんでした。

しかし、結局は自分が「黄金の種子」を持っていると、みんなに告白する事は出来ず、とうとうズルズルと、ここまで来てしまったのです。

それはやはり、今更、自分が「黄金の種子」を持っている事をみんなに告げれば、何故もっと早く言わなかったのかと、責められるかもしれない(特にレダに)と恐れたからであり、何よりシュナン少年に、悪く思われるのが嫌だったのです。


「ごめんね、シュナン。でも、わたし、あなたにだけは、軽蔑されたくない」


メデューサは、自分と同じく寝袋に入り、床上に横たわるシュナン少年の姿を、少し離れた場所から見つめていました。

蛇の髪の隙間からかいま見える、彼のそのこんもりとしたシルエットの寝姿を、自分もまた横臥した状態で、じっと凝視するメデューサ。

そんな淋しげな少年の寝姿を見たメデューサは、明日こそ必ず彼に、「黄金の種子」を手渡そうと、固く心に誓うのでした。

最初はなかなか寝付けなかったメデューサですが、彼女たちがいる大きな部屋の明かりは、一体どんな仕組みなのか、気がつくと照度が落ちており、まぶしく明るいそれから、柔らかく仄暗いそれへと、いつの間にか移り変わっていました。

その心やすらぐ、柔らかな黄色い光に包まれたメデューサは、床上に横たわらせたその身体を、寝袋の中でくの字に折り曲げると、徐々に深い眠りへと落ちていきます。

人間の脳波を感知して、照明のレベルを変える仕組みを持つ、メデューサたちがいる、その部屋は、やがて室内にいる全ての者たちが、睡眠に就いたと判断したのか、照明の電源を完全に切ります。

すると、漆黒の闇があたり一帯を包み込み、後はただ疲れ切ったシュナン一行が、それぞれに立てる深い寝息だけが、時折り、その暗い部屋の中に響くのみでした。


[続く]


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