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夢見る蛇の都 その12

 「メデューサ・・・」


塔から突き出たバルコニーの様な場所で、一人佇んでいたシュナン少年は、自分の背後にメデューサが突然現れ、しかも彼女が、いきなり泣き始めた事に気付くと、とても驚きました。

彼は今まで寄りかかっていた、バルコニーを囲む欄干から身体を離すと、泣きながらバルコニーの床上に立つ、メデューサの方に、慌てて駆け寄ります。

そして杖を片手に、彼女の側まで近づくと、心配そうな声で聞きました。


「どうしたんだい、メデューサ。何か、あったの?」


しかし、メデューサは、自分の元に駆け寄り、今は差し向かいとなって正面に立つ、シュナン少年に声をかけられても、何も答えず、ただ顔を俯かせていました。

そして何故か、蛇に覆われた、その顔を、悲しげにフルフルと振ります。

彼女は、ワンピース風の服のお腹あたりについている、大きなポケットに、両手を重ねるみたいに当てています。


「・・・」


シュナン少年は、その手に掲げた師匠の杖を通して見える、メデューサのおかしな態度に違和感を覚えたのか、少し首を捻ります。

もちろん、メデューサは、シュナン少年に「黄金の種子」を手渡すつもりであり、その為に、わざわざ彼の後を追って、この場所にまで来たのでした。

しかし、意気揚々とこの場所にまでやって来たメデューサは、いざそれを彼に手渡す段になると、急にある事に気づき、何も言えなくなってしまったのです。

一得一失あり。

天の命数、まさに然るべし。

そう、シュナン少年が「黄金の種子」を手に入れる事ー。

それはすなわち、シュナン少年がメデューサの望み通り、人間たちの英雄となる事であり、それと同時に彼が、メデューサには手の届かない、遠い存在になってしまうという事でもありました。

その事に気づいたメデューサは、自分の選択によっては、シュナン少年を失うかもしれないと思い、「黄金の種子」を少年に手渡すのが、急に怖くなってしまったのです。

そう、それは蛇娘にとっては、希望と恐れが相半ばする、実に悩ましい可能性でした。

シュナン少年と、バルコニーの床上で対峙するメデューサは、相変わらず、その蛇で覆われた顔をうつ向かせながら、ずっと押し黙っています。

一方のシュナン少年は、すぐ正面に立つメデューサに、どんな言葉をかければ良いのか解らず、目隠しをしたその顔に、困惑の表情を浮かべていました。

杖持つ盲目の魔法使いの少年シュナンと、蛇の髪で覆われた顔をうつ向かせた、薄倖の魔少女メデューサ。

高い塔から突き出た、バルコニーの様な場所で、差し向かいとなって立つ、二人の間を、湖から吹いてくる風が、冷たく吹き抜けていきます。

結局、メデューサが、その場でシュナン少年に、「黄金の種子」を手渡す事はありませんでした。

シュナン少年は、メデューサの様子を少し不思議に思いましたが、恐らく彼女は自分の事を、本当に心配してくれているのだろうと考えていました。

自身の前途に、死という大きな災厄が、待ち構えているのも知らずにー。



やがて、二人は、塔から突き出たバルコニーの様な場所を後にすると、昨晩、寝所として使用した階下の大きな部屋へと戻り、そこで既に寝床から起き、二人が戻るのを待ち構えていた仲間たちと合流します。

そして、メデューサと共に、仲間たちが待つ大部屋に戻ったシュナン少年は、自分の指示を待っていたであろう彼らに、もう一度、「黄金の種子」を見つける為に、ラピータ宮殿の中を、徹底的に探してみようと提案しました。

そんなシュナン少年に、仲間たちは次々と賛同し、こうして「黄金の種子」を見つける為に、ラピータ宮殿の捜索が、もう一度行われる事になりました。

このまま簡単に諦める事は出来ないと感じていた、シュナン少年の旅の仲間たち、ペガサスのレダ、大巨人ボボンゴ、吟遊詩人のデイスの三人は、今日こそは件の宝物を見つけようと、決意を新たにします。

そんな仲間たちの姿を見て心強く思ったのか、シュナン少年も、その目隠しをした顔を、大きくうなずかせます。

けれど、いつもなら真っ先に、シュナン少年の力になろうと張り切るはずのメデューサは、何も言わず、ただ所在無げに、顔を俯かせていました。

それもそのはずで、メデューサは既に「黄金の種子」を手に入れており、彼女の服についたポケットの中に、その宝物はしっかりと収まっていたからです。

しかし、彼女はその事を、仲間には告げずに、ずっと押し黙っていました。

時折り、お腹のポケットの上に手を重ね、何かの感触を確かめる、仕草をしながらー。

さて、その様な経緯で、気持ちも新たに、「黄金の種子」を見つける為の捜索を再開した、シュナン一行ですが、ラピータ宮殿の内部をあらためて捜したものの、やはり件の宝物は、いっこうに見つかりません。

それでも彼らは、懸命に探しましたが、宮殿内を隅から隅まで探しても、手がかりさえ、全く掴めませんでした。

最初は張り切って探していた、旅の仲間たちも、徐々に、疲労の度を深めていきます。

そしてー。

朝から夜まで探しても、全くそれが見つかる気配も無く、これ以上は時間の無駄だと判断したシュナン少年は、夜遅くになって、ようやく捜索の打ち切りを宣言しました。


[続く]

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