表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/75

夢見る蛇の都 その10

 さて、そんな風に、徐々に移り変わる、宝物殿内の景色に目を馳せながら、金銀財宝で出来た、道無き道の上を歩いていたメデューサですが、やがて彼女の前に、広大な宝物殿の中心部に屹立する、奇妙な黒い塔がその姿を現します。

その細長い塔は、真っ黒な外観をしており、どうやら特殊な金属で、作られているようでした。

メデューサは、その塔の事が何故か気になり、ゆっくりと、それが立っている方向へと歩き出します。

その時でした。


<< 王よ、お待ちしておりました >>


なんと幽体離脱して、宮殿内を移動していたメデューサを、宝物殿があるこの場所まで導いた、例の頭の中に響く不思議な声が、再びどこからか聞こえて来たのです。

それは先ほどまでとは違って、漠然とした呼びかけではなく、ハッキリとした言葉として、彼女の頭脳に伝わりました。


<< 王よ、夢見る蛇の王よ。どうか、望みをおっしゃって下さい。この場所は、あなたの夢をかなえる為だけに存在しています。あなたの夢は、ここで全てかなえられる。世界さえ、あなたのものー >>


頭の中に響く声に驚いたメデューサは、思わず歩くその足を止めると、声がした方向に、蛇で覆われた顔を振り向かせます。

どうやらその声は、メデューサが歩み寄ろうとしていた、宝物で埋め尽くされた部屋の中にポツンと屹立する、奇妙な黒い塔の方から、聞こえてくるようでした。

そうー。

宝物殿の中央で、宝物の山に埋もれながら屹立する、そののっぺりとした外観の黒い塔は、実は集積回路によって造られた人工物であり、メデューサ族がこの場所の管理をさせる為に設置した、人工頭脳を搭載した機械仕掛けの塔だったのです。

メデューサ族の正統な王位継承者である、ラーナ・メデューサが、このラピータ宮殿に戻って来た事を感知したその塔は、彼女に向けてテレパシーを発して、この宝物殿に来るように誘導したのでした。

そして、その声に感応したメデューサは、王の一族しか入る事の出来ないこの場所に、幽体離脱という特殊な手段を用いて、たどり着いたのです。

再び頭に響くその声を聞いたメデューサは、宝物を踏みしめながら歩いていた足を、ピタリと止めます。

それから、彼女の正面にそびえ立つ、声を発する奇妙な黒い塔を、蛇の前髪の隙間から、疑問と驚きの入り混じった目で、恐る恐る見上げます。


<< 王よ、あなたが欲するものは何ですか?ここには、世界中の宝物が、集められています。あなたの望むものを、おっしゃって下さい。全ては、あなたのものー >>


すると、その声を聞いたメデューサは、眼前に立つ黒い塔を、蛇の前髪の隙間から、キッと睨みつけます。

更に、足元に積まれた宝物たちを強く踏みつけて、両足を踏ん張ると、怒鳴りつけるような口調で、目の前にそびえ立つ黒い塔に向かって叫びます。


「黄金の種子!!わたしが、欲しいのは黄金の種子よっ!!他のものは、要らないわっ!!!」


その時、メデューサの脳裏に浮かんでいたのは、今も遠く離れた部屋で、仲間たちと共に疲れ切って眠りにつく、シュナン少年の淋しげな寝姿でした。

失意の中で眠る、シュナン少年のためにメデューサは、ありったけの勇気を奮い起こして、大声で叫び、「黄金の種子」を、手に入れようとします。


「わたしは欲しいものを、もう持ってる!!でも今度は、わたしの大切な人の夢を、かなえてあげたいの!!だから、お願いっ!わたしに「黄金の種子」をー」


メデューサの声が届いたのか、宝物殿の中に屹立する黒い塔は、ブンブンと音を立てて震え始めます。

そしてー。

ゴゴゴーッという音と共に、メデューサがいる宝物殿は、その全体が鳴動し、広大な床全体にうず高く積まれた金銀財宝の山々も、まるで地震が起こったかのように、大きく波打ちます。


「きゃあっ!!」


足元の宝の山が、宝物殿の鳴動に合わせて、波がうねるように崩れ始め、驚いて悲鳴を上げる、メデューサ。

元々、うず高く積まれた金銀財宝の山々の上を、足元を気にしながら歩いていた彼女ですが、その宝の山で出来た不安定な足場が崩れ始めると、とても立ってはいられず、その場で四つん這いになって、うずくまります。

四つん這いとなった彼女が、おびえながら周りの状況を確認すると、全体が揺れ動く宝物殿の中心に屹立する、黒い塔の足元付近で、床を埋め尽くしている宝の山が、渦を巻くように、大きくうごめいているのが目に入りました。

やがて、その渦を巻くように、大きく波立つ金銀財宝の山々の、ぐるぐるとした動きの中心部から、光に包まれた何かが飛び出ると、空中に向かって、ゆっくりと浮かび上がって来ました。

揺れ動く宝の山の上に、這いつくばるメデューサが見上げる中、その光に包まれた物体は、渦巻く金銀財宝の間から宙に浮かび上がると、宝物殿の高い天井付近にまで上昇し、やがて空中の一点で停止します。

メデューサは、宝物殿の天井の近くまで浮き上がった、その光に包まれた物体を、蛇の前髪の隙間から、目をこらして見上げます。

よく見ると、光に包まれたそれは、どうやら両手に載るくらいの大きさの、何かが中にいっぱいに詰まった、麻製の袋のようでした。


「あれは・・・黄金の種子!!!」


上空に星のように浮かぶ、その口元を紐で茶巾結びにした、麻製の袋を見上げながら、大声で叫ぶ、メデューサ。

その瞬間でしたー。

ガラガラガラーッ!!!

宙空を見上げるメデューサの目が、宝物殿の天井近くに浮かぶ「黄金の種子」を、はっきりととらえたその瞬間に、彼女が四つん這いになってへばりついていた宝の山が、大きく波打ち音を立てて崩れ落ちました。


「きゃああぁーっ!!!」


崩れ落ちる宝の山に、足を取られて、身体を押し流される、メデューサ。

悲鳴を上げた、その瞬間に、彼女の眼前に崩れた金銀財宝が押し寄せ、その視界は、真っ暗な闇に包まれます。

それと同時に彼女は気を失い、その意識もまた、深い闇の底に落ちていきます。

気を失う前の一瞬に、宝物殿の管理者である黒い塔が放つ、ブーンという鳴動音が、宝物たちの崩れ落ちる音とあいまって、少女の耳に低く響きました。


「はっ!!」


その瞬間、メデューサは、寝袋の中で、目を覚ましました。

彼女はゴソゴソ身体を動かすと、寝袋から首を少しだけ出して、周りの状況を確認します。

彼女は大きな部屋の中で、石造りの床の上に寝ており、寝袋にすっぽりと身体を入れていました。

周りを見回すと、他の仲間たちも、毛布にくるまったり、メデューサと同じく寝袋の中に入ったりして、石の床の上で、横になって寝ています。

そこはシュナン一行が、ラピータ宮殿を捜索した後に、彼らが寝所として選んだ広い空き部屋であり、メデューサが幽体離脱して、そこを抜け出す前には、仲間たちと共に、雑魚寝をしていた場所でした。

つまりはメデューサの身体は、夜に就寝してから、今までの間、寝袋に入ったまま、そこから一歩も動いていない状態だったのです。

確かに夜中に部屋を抜け出して、宝物殿を探しに行ったはずなのに、これは一体どういう事なのでしょう。

もっとも昨夜の彼女は、幽体離脱をしていた為に、精神と肉体とが切り離された状態であり、生身の身体の方は、ずっと寝ていたままだったという可能性はありました。

しかしメデューサは、寝袋から半身を出して、床にうつ伏せになりながら、もっと現実的な、もう一つの可能性に思い当たります。


「夢だったのかしら?全部ー」


そう、彼女は、夜の間にこの部屋から抜け出した事や、宝物殿で、「黄金の種子」を見つけ出すまでの記憶は、すべて自分の願望が見せた夢であり、実際の自分は一晩中、部屋の中で、ただ、夢を見ながら、寝ていただけなのだと考えたのでした。


「そうよね・・・。あんな、とんでもない場所、現実にあるわけ無いわよね。本当・・・夢の中以外は」


寝袋の中で反転しながら、思わずため息をつく、メデューサ。

その時、彼女は寝返りしながら、お尻のあたりに、なにやら違和感を感じます。

どうやら自分の身体と、入っている寝袋の内側の布地との間に、何かが挟まっているみたいです。

メデューサは横になって、頭上に伸ばしていた両腕を、再び寝袋の中に突っ込むと、お尻のあたりをまさぐって、違和感の原因である、その丸っこいゴワゴワした何かを、ひっ掴み、外に取り出します。

そして、件の物体を外に取り出したメデューサは、その正体を目の当たりにすると、寝袋の中に半身を突っ込んだまま、思わず床から跳ね起きました。


「こ、これってー」


彼女が寝袋から取り出して、今は震える両手で持っている、その地味な色をした、袋状の物体ー。

それは、宝物殿で彼女が見た、メデューサ族の至宝である、「黄金の種子」の種籾が中に詰まっている、口元を茶巾結びにした、両手サイズの大きさの麻袋だったのです。


[続く]

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ