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夢見る蛇の都 その7

 メデューサは夢を見ていました。

自分が目覚めている夢をー。

それは真夜中過ぎの事でした。

ラピータ宮殿内の大部屋の中で、仲間たちと共に雑魚寝をしていたメデューサは、何故か急にパッチリと目を覚ましました。

彼女が、寝袋に包まれている自分の身体をひねって、周りの状況を確認すると、シュナンを初めとして他の仲間たちは、それぞれが寝息を立てながら宮殿の床の上で、気持ちよさそうに寝ています。

メデューサは周りに合わせて、もう一度眠りに就こうとしましたが、何故か、目が異常に冴えて眠れませんでした。

その時です。

メデューサは何処からか、自分を呼ぶ声が、聞こえたような気がしました。

いや、正確に言うとそれは「声」ではなく、何か名状しがたい「想い」のようなものでした。

なぜなら、その名状しがたい呼びかけは、メデューサの頭の中に直接響いており、耳を通して聞こえていた訳ではありませんでした。

誰かの「想い」が、急に頭の中に伝わり、浮かんでくるー。

そんな感じだったのです。

そしてその自分に対する呼びかけは、メデューサたちが寝ている、大きな部屋の扉の向こうから伝わってきており、どうやら彼女を、室外に誘い出そうとしているようでした。

どうしても、その呼びかけが気になるメデューサは、床に横たえていた身体を起こし、寝袋から抜け出すと、スクッとその場に立ち上がります。

しかしー。

周りで仲間たちが、寝息を立てて雑魚寝をしている、薄暗い室内の中で、ただ一人立ち上がり、キョロキョロと部屋の中を見回すメデューサは、ある事実に気づき愕然とします。

なんと、立ち上がった彼女の足元付近の床には、まだ自分自身が、スーッスーッと寝息を立てながら、寝袋に入って寝ていたのです。


「ーっ!!!」


思わず、悲鳴をあげそうになる口を、両手であわてて押さえる、メデューサ。

一瞬、寝ぼけているのかと思いましたが、寝袋に入って寝るシュナン少年の横で、寄り添うように自身も、寝袋にくるまって、寝息を立てているのは、間違いなくメデューサ本人でした。

足元で寝ている、自分の分身を見下ろして、愕然となるメデューサ。

彼女は、その場でしゃがみ込むと、恐る恐る、部屋の床に横たわって寝ている、自分自身の身体に、手を伸ばします。

するとー。

なんと、彼女の伸ばした手は、床に横たわって寝ている方のメデューサの、寝袋にくるまれた身体に、スーッと、入っていくではありませんか。


「ーっ!!!」


再び、悲鳴を上げそうになる、メデューサ。

試しに、なめらかな石で出来た部屋の床に手を伸ばしても、やはりそこには何も無いように、スーッと手は床に沈み、そのまま中に吸い込まれていきます。


(これは、どういうこと?まるで自分が、幽霊になったみたい)


メデューサはしばしの間、床にしゃがみ込み、足元近くに横たわる、寝袋に入った自分自身を見つめます。

しばらくは、呆然としていた彼女ですが、やがて一つの結論に達します。


(今のあたしは、肉体と精神が、分離した状態なんだわ。つまり、身体から魂が抜け出て、外側から自分自身を見ているー。だから、今ここで、こうしているわたしは、実体が無い、生き霊みたいなものー」


メデューサが考えた通り、今の彼女は、生身の肉体から抜け出た魂だけの状態であり、いわば実体のない影みたいな存在となっていたのです。

ですから、自分がそこから抜け出た肉体を、外側から見たり、何かに触れる際にも、実体が無いその手は、触れようとした対象の中を、まるでそこに何も存在しないかのように、すり抜けてしまっていたのです。

しかし何故、メデューサに、こんな奇怪な現象が起こったのでしょうか?

あまりの事態に困惑するメデューサですが、そんな彼女の頭に、先ほどまで聞こえていた、自分を呼ぶ声が、再び響き渡ります。

そのメデューサを呼ぶ声は、部屋の出入り口である、観音開きの木の扉の向こうから、彼女を外に出るように、繰り返し誘っているようでした。

メデューサはしばらくの間、部屋の床にしゃがみ込んで、その頭に響く奇妙な呼びかけに、耳をかたむけていました。

しかし、やがて意を決すると、しゃがんでいた身体を起こし、薄暗い宮殿の部屋の中で、ただ一人立ち上がります。

彼女の足元付近の床には、シュナンを始めとする旅の仲間たちが、雑魚寝状態で寝ていました。

薄暗い部屋の中で、ただ一人立つメデューサは、そんな仲間たちの寝姿を目上から見回し、最後に一番近くの床上で、寝袋に入っているシュナン少年の方に、その視線を合わせます。

そして、その蛇で覆われた顔をうつ向かせながら、疲れ切って寝ているシュナン少年をじっと見つめ、心の中で、そっと彼に告げます。


(待ってて、シュナン。あたし、今から「黄金の種子」の手がかりを探してくる。このあたしの、頭の中に聞こえる声が導く、その先に、メデューサ族の秘宝のありかへの、大切なヒントがあるような気がするの)


メデューサは幽体離脱した事や、頭の中に聞こえる不思議な声は、それを通じてメデューサ族のご先祖様が、末裔である自分に、何かを伝えようとしている、一種のメッセージだと考えたのです。

そして、その声に従えば、シュナン少年が求めるメデューサ族の秘宝「黄金の種子」に関する手がかりも、つかめると思ったのでした。

それは、この宮殿の主だった王の最後の末裔であるメデューサが、本能的にたどり着いた洞察であり、また、このラピータ宮殿において、不可思議な現象が自分にだけ起こっている事に対する、彼女なりの答えでした。

メデューサはシュナン少年に、心の中で言葉をかけると、自分を呼ぶ声に従い、室外に出るために、部屋の出入り口である、大きな木製の観音扉に向かい、歩き出します。

彼女は、周りで眠る仲間たちを起こさないよう、慎重な足取りで、扉に向かって歩きます。

もっとも、実体の無い状態のメデューサが、いくら乱暴に歩き回っても、床で雑魚寝する仲間たちが眼を覚ますことは、決して無かったでしょう。

メデューサは、床で寝ている仲間たちの隙間を縫うように、部屋の中を歩くと、やがて、外の通路へとつながる出口である、大きな観音扉の前で立ち止まりました。

もしメデューサが、その外開きの大きな扉を手で開ければ、部屋の中で眠る仲間たちは、もしかしたら目を覚ましたかも知れません。

しかし幽体となった彼女は、扉の取っ手を握る事も出来ず、また、その必要もありませんでした。

何故なら、扉の前で立ち止まったメデューサが、更に前に足を踏み出すと、彼女の身体は、目の前に立ちふさがる、ぴったりと閉まった観音扉の中に、まるで吸い込まれるみたいに消えてゆき、そのまま固く閉じられた扉の内部を、何の障害も無く、スーッと通り抜けてしまったからです。

すると、一瞬後には、その小柄な身体は、閉まった扉を背にして、部屋の外側の通路の上に立っていました。

部屋の外に移動したメデューサは、自分を呼ぶ声が、通路の奥から聞こえてくる事を確認すると、踵を返して、そちらの方に向かって歩き始めます。

多数の部屋に通じる扉が居並んだ、宮殿の長い通路を歩く彼女の足元のその先を、高い天井から差し込む照明の淡い光が、どこまでも照らし出していました。


[続く]

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