間章 ペルセウス王の進軍
その軍勢は、西から東へと、進軍していました。
先頭の軍旗を掲げた歩兵部隊に続いて、重武装の槍隊と、比較的軽装な装備の弓兵隊が後に続き、更にその背後に、この軍の本隊である、いかめしい軍馬にまたがった騎馬兵が、隊列を組んで行進しています。
そして、その騎馬兵たちの先頭を行く馬上の人こそ、この軍勢の総指揮官であり、中心人物である、ペルセウス王13世その人だったのです。
ペルセウス王は、白い髭を、口元とあごにたくわえた、初老の人物で、全身に黄金の鎧をまとい、黒い巨大な軍馬にまたがっています。
彼が率いる軍勢は、西の都を出立して、わずかの間に、地中海の沿岸部を踏破し、別ルートで東の旧都パロ・メデューサを目指すシュナン一行に、早くも追いつきつつありました。
それは、なるべく人目につかないよう、移動する必要があった、シュナンたちに比べて、ペルセウス王は、誰はばかることなく、直線ルートでパロ・メデューサを目指すことが、出来たからでした。
そしてその行軍ルート上の町や村は、ほとんどが彼が支配する地域であり、孤立無援のシュナン一行に比して、物資の補給等も容易だったのです。
ペルセウス王の軍勢は、それらのルート上の町や村で補給と休養を繰り返し、徐々に東の旧都パロ・メデューサへと、近づきつつありました。
そのルート上の町や村の人々は、表面上は自分たちの支配者である、ペルセウス王の軍勢を歓迎していましたが、心からそうしていたのかといえば、やはり内心では、多くの人々が迷惑に思っていました。
軍隊に供出する物資も、かなりの負担でしたし、やはり自分たちの住む場所に、大勢の兵士たちが逗留するのを見るのは、あまり気分のいいものではなく、不安に感じる人も大勢いたのです。
そして、そんな風に感じていた人々を、いっそう不安に陥れたのは、ペルセウス王の軍勢と寄り添うように一緒に歩く、ある巨大な人型の物体でした。
その人型の物体は、まるで積み木細工の人形を、巨大にしたような、外見をしていました。
ずん胴の円筒形の巨大な胴体に、細い木の棒みたいな手足がついており、関節部で折り曲げる事が、出来るようになっています。
そして、ずん胴の胴体から伸びた棒状の細い首の先には、三角錐の帽子をかむった、のっぺりとした、目鼻の無い頭部がついており、その頭の大きさは、胴体の大きさに比べると、随分と小さく感じられます。
顔の部分は、おうとつも目鼻も無く、のっぺりとしていましたが、よく見ると、右目に当たる箇所に、丸い小窓みたいなものがついていて、どうやら内部が空洞になっており、中から、外が覗けるようになっているみたいでした。
実は、そののっぺりとした顔のついた頭部の中は、人が乗り組む仕様になっており、そこに設置された操縦席からは、巨人の全身を、自由自在に操り、動かす事が出来るようになっていました。
そう、その三階建ての建物くらいの高さの背丈を持つ巨人は、「魔神兵」と名付けられた、魔法科学で造られた、機械仕掛けで動く、巨大な人形兵器だったのです。
そして、その魔神兵の頭の内部の操縦席には、この巨大な機械人形の制作者であり、シュナン少年の師匠である、大魔術師レプカール、その人が乗っていました。
彼は、その内部の操縦席から、魔神兵をコントロールしており、その巨大な機械人形を、ペルセウス王の軍列に随伴させる形で、一緒に歩かせていました。
様々な機械に囲まれた、魔神兵の頭部内の操縦席から、巨人の動きをコントロールし、のっぺりとした顔についた、小窓のようなモニターを通じて、外の様子を確認する、魔術師レプカール。
その小窓からは、魔神兵に乗る彼が、随伴して共に移動する、ペルセウス王の兵士たちの長い軍列の様子を、はるか上方から、俯瞰するみたいに見下ろし、確認する事が出来ました。
魔神兵の頭部の操縦席に、身体をうずめるレプカールは、皮肉っぽい笑みを浮かべながら、つぶやきます。
「ククク、人数ばかりで、まるで蟻の群れだな。まぁ、こけおどしくらいには、使えるだろう。せいぜい、利用してやるとしよう」
そんなレプカールの、不遜な考えを知ってか知らずか、大軍勢を率いるペルセウス王は、時折り、自分たちに随伴している、その巨大な機械人形を、馬上からチラチラと見上げています。
王の周りを固める大勢の兵士たちも、自分たちの軍列の横で、影のように歩調を合わせる、その異形の巨人に対しては、どうやら、不安と威圧感を感じているようでした。
そして、もちろん、自分たちの土地を、その長い列をなした軍勢が通過するのを見る、ペルセウス王の支配領域に住む人々も、軍列と共に歩む、レプカールが操縦する巨大な機械人形の、異様な姿を目の当たりにして、一様に、不安げな表情を浮かべていました。
こうしてペルセウス王が率いる軍勢は、レプカールが操縦する魔神兵を随伴させながら、数多くの町や村を通過し、シュナンたちがとったルートからは逆方向から、徐々に、パロ・メデューサに近づきつつあったのです。
それからしばらくして、ペルセウス王の軍勢は、シュナンたちが少し前に立ち寄った、「ジブリ村」にまで、ついにやって来ました。
村の大通りを占拠するペルセウス王の軍勢を、遠巻きにして見つめ、不安げな様子で、コソコソと話し合う「ジブリ村」の村人たち。
ペルセウス王は、この村で数日滞在して、兵士たちを休養させ、更に、物資の補給等を行なうつもりでした。
その為に、村の代表者たちを、部下を通じて、自分の前に呼び出しました。
ペルセウス王によって集められた、村の代表者たちは、萎縮して縮こまりながら、馬上の彼の前に、立ち尽くしています。
ペルセウス王は、村の大通りを埋め尽くすような、精強な軍隊を率いており、また、その軍勢の傍には、見上げるような高さの、木偶みたいな外観の機械仕掛けの巨人も、影の如く付き従っていて、村人たちのおびえるのも、やはり無理からぬ事でした。
おびえる村人たちを前にして、屈強な部下たちを周囲に配置した、馬上のペルセウス王は、重々しい声で命令を下します。
「食料と水などの物資を、至急、供出せよ。それから、この村の宿屋は、全て我らの貸切とする。わしと、わしの側近用にな。他の兵士たちは、広場に野営させるが、その間は、お前たちは、そこに立ち入ってはならぬ。従わねば、命はないぞ」
おびえながら王の前に立ち尽くし、互いの顔を見合わせる、村の代表者たち。
いったい、どうすればいいのかわからず、彼らは戸惑っていました。
麾下の兵士たちに囲まれたペルセウス王は、そんな彼らを、馬上から、射抜く様な冷徹な視線で、見下ろしています。
その時、ペルセウス王の軍勢を遠巻きにしていた、村人たちの列から、一人の人物が前に出て、王の馬前へと、ゆっくりと歩み寄りました。
その人物が現れたのを見て、王の馬前でおびえて立っていた、村人たちの代表の面々は、一斉に、ホッとした表情を浮かべます。
「おお、マンスリー様」
「魔女様ーっ」
「どうか、お助けをー」
そう、村人たちの注視の中、彼らの列から抜き出て、王の馬前にゆっくりと歩み出る、その人物こそ、かつてのペルセウス王の教育係であり、西の都の宮廷魔術団の長だった人物ー。
大魔女マンスリー・グランドーラ、その人だったのです。
[続く]




