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アルテミスの森の魔女 その37

 族長であるレダの、紹介の言葉を受けて、マンスリーやメデューサたちの前に居並んだ、ペガサスの少女たちは、一斉に自己アピールを開始しました。


「白馬坂48のユニットリーダーの、ナリタ・トライアン、通称ナリちゃんで~す。アイドルやってますっ!CDも物販します!頑張るナリ~」


「ティンクル・トゥィンクルです!魔法が得意ですっ!世界最高の魔法使いと言われた、マンスリー様の元で働けるなんて、すごく光栄ですっ!!」


「ミヤネ・トップガンと申しますっ!荷物の宅配は、ペガサス族の中でも最速の、わたくしにお任せですわっ!!」


「これは、神のお導きなのですっ!!このオマチカネ・フクキタルがいる限り、お店の繁盛は、間違い無いのですっ!!ついでに、信者の増加も、間違い無いのですっ!!」


・・・なんか個性的な子ばかりのようです。

ペガサス族の族長であるレダは、そんな彼女たちの挨拶を聞いて、ウンウンと満足そうにうなずくと、目の前に並んでいる少女たちに、更に気合を入れるために檄を飛ばします。


「それじゃ、頑張って働くのよ、みんな。ペガサス族の、名誉がかかってるんだからー」


族長であるレダの言葉に、一列に並んだペガサス族の少女たちは、一斉に返事をします。


「はーい!!!!」


しかし、その中の一人の少女ー。

ナリタ・トライアンと名乗った少女が、自分たちを。腕を組みながら見つめる、レダに向かって、からかうような口調で尋ねます。


「でも、族長。さっき、シュナン君と話したんですけど、彼、まだ童貞みたいじゃないですか。何グズグズしてるんですか?やる気が無いなら、彼が旅に出る前に、わたしがもらっちゃいますよ」


その言葉を聞いた、レダの顔が、真っ赤になりました。

肩をいからせながら、掴みかからんばかりに、カンカンに怒っています。


「うっさいわねっ!!こっちにも、色々と都合があるのよっ!!余計な事を言わずに、黙って働きなさいっ!!」


レダが動揺して怒ったのを見て、彼女の前に並んだペガサスの少女たちは、面白がり、口に手を当てて、クスクスと笑いながら、身体をクネクネさせています。

そんな彼女たちの側でシュナン少年は、自分の話題が出たせいか、恥ずかしそうに顔を伏せながら、杖を片手に立っています。

一方、メデューサは、マンスリーの隣で顔をしかめながら、彼女たちの様子を見ていました。

メデューサの顔を覆っている蛇の髪も、イラついたように、ザワザワと蠢いています。

メデューサも、仲間であるレダを初めとする、ペガサスの少女たちが、明るく優しい心の持ち主である事は、良くわかっていましたが、彼女たちの、まるでギャルのような、男性に対するあけすけな言動だけは、どうしても癪に触るというか、気に食いませんでした。

自分の恋人である、シュナン少年が、標的(ターゲット)になっているとなれば、尚更です。

さて、そんなグダグダな雰囲気を打ち破るように、今度は、ペガサス族ではない一人の少女が、戸惑いの表情を浮かべる、大魔女マンスリーの前に、スッと進み出ました。

彼女の名前はチキといい、数日前に、魔女の家を木陰から盗み見している所を、シュナン少年に声をかけられた、田舎から出て来たばかりの、魔法使いの女の子でした。

今回、彼女は、シュナン少年の誘いで、新装開店した「魔女のお店」で、従業員として働いてみる事にしたのです。

普段は、紺色か黒色の、地味なワンピースを着ている彼女でしたが、今日は、お店の制服である「冥土服」を身にまとっていました。

そして、子供の頃からのトレードマークである、頭に結んだ、大きな赤いリボンを風にゆらしながら、マンスリーの前に立っていたのでした。

彼女はペコリと頭を下げてから、自分の正面にいる伝説の魔女の顔を、真っ直ぐに見つめ、ハキハキとした声で、自分の目的と夢を告げました。


「わたし、見習い魔女のチキです。ビッグになる為に、故郷の田舎から、はるばる、このジブリ村までやって来ました。わたし、マンスリー様の元で、一生懸命に働いて、早く一人前の魔女になりたいんですっ!そいでそいで、故郷に錦を飾って、お母ちゃんに、目一杯。楽をさせたいんですっ!ふつつか者ですが、よろしくお願いします!!!」


顔を紅潮させながら、目の前に立つマンスリーに、挨拶をするチキ。

マンスリーは突如として現れ、自分に深々と頭を下げる少女を、目の当たりにして、老いたその顔に、困惑の表情を浮かべます。

けれどもマンスリーは、すぐに、眼前に立つこの少女が、以前、何度か、自分の家を訪ねて来た事があるのに気付きます。


「あぁー。あんたは確かー」


しばらく前に、この土地にやって来たチキは、森の中に住むという、大魔女マンスリー・グランドーラの名を聞きつけると、様々な理由をつけて、その住処を訪ねたのですが、そのたびに老魔女に門前払いをくらい、追い払われていたのです。

実は当時、マンスリーと村人たちの間には、一触即発の険悪な雰囲気が漂っており、老魔女にはチキをまともに相手にする余裕が無く、またわざと冷たい態度を取ったのは、無関係な争いに、まだうら若い女の子を巻き込むのを恐れたからでした。

そして今再び、自分の前に現れた、この若き魔女を目を細めて見つめながら、マンスリーはどうしたものかと考えを巡らせます。

確かに今なら、以前のような危険は無いでしょうが、年老いた自分に、こんなに若く未熟な若者を、一人前の魔法使いに育て上げる時間と体力が、果たして残されているのかと、彼女は考えたのです。

魔法使いが、魔法使いの面倒を見るとは、即ち、師弟の絆を結ぶという事なのですから。

そんな風に思い悩むマンスリーに対して、彼女の傍らで、杖を構えて立つシュナン少年が、声をかけます。


「マンスリー様。このチキという少女は、幻術師マローンとの戦いの時も、僕を助けてくれました。無益な殺生を避けれたのは、彼女のおかげです。魔法使いとしての力は未知数ですが、頑張り屋なのは確かです。どうか、マンスリー様の弟子の末席に、加えてあげて下さい。もしかしたら、大化けして、マンスリー様の、良き後継者になるかも知れません」


するとマンスリーは、軽く肩をすくめ、やれやれといった調子で、声を発しました。


「わかったよ、シュナンドリック・ドール。あんたがそう言うんなら、仕方ないね。あんたと旅の仲間たちには、ずいぶん世話になったし。人を育てるのは、花を育てるより、ずっと大変だけど、やってみようかねー」


マンスリーはそう言うと、今度は、目の前に緊張した面持ちで立っているチキの方に、あらためて向き直り、その少女の頭のてっぺんから足の先までを、ジロジロと見つめます。

それから、ため息交じりの声で、彼女に告げました。


「言っとくけど、あたしの教えは厳しいよ。それでも、いいのならー」


「はいっ!!!」


その言葉を聞いたとたん、チキは大きな返事をします。

そして、感極まったのか、マンスリーに飛びかかり、彼女の首に手を回すと、そのままギュッと、老いた魔女の身体を抱きしめました。


「ありがとう!!マンスリー様!!!」


いきなり、目の前の少女に、強く抱きしめられ、思わずその目を白黒させる、魔女マンスリー。


「ちょ・・・。あんた、何を・・・。苦しいじゃないかー」


すると、そんな戸惑いの表情を見せる老魔女に対し、彼女に抱きついていたチキは、にっこり笑うと、その身体を離しました。

そして今度は、マンスリーの手を取って、グイグイと引っ張り始めます。


「さぁ、早く、お店に入りましょう、マンスリー様。早く準備をしないと、お客さんが来ちゃいますよっ!」


チキの手に引っ張られ、目の前に立つ魔女のお店へと歩き出す、マンスリー。

その姿は、まるで遊園地へと向かう、親子連れのようです。

周りにいるシュナン少年やメデューサ、それにレダを初めとするペガサス族の少女たちも、それぞれの顔に笑顔を浮かべながら、その後に続きます。

チキに腕を引っ張られながら歩く、魔女マンスリーを先頭に、開業を控えた魔女のお店に向かって、ゾロゾロと歩く、シュナンとその仲間たち。

談笑しながら歩く彼らには、これから店の中に入って、お客さんが来る前に開店準備を整えるという、最後の一仕事が待っているのです。

やがて、昇ったばかりの朝日を浴びる彼らの姿は、鮮やかなパステルカラーに彩られた、真新しいお店の扉口の中へと、吸い込まれるように消えて行きました。

お店の玄関先にぶら下がっている、薔薇の形をした鉄製ベルの、カランカランという音と共にー。


[続く]


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