アルテミスの森の魔女 その36
さて、それから何日かたち、メデューサらによってプロデュースされた魔女の家は、リニューアルが終了し、いよいよ新しいお店として、新装開店する運びとなりました。
リニューアル前は、見る人に陰鬱な印象を与えていた、その家は、すっかり様変わりし、今ではパステルカラーを基調とした、明るい外観を持つ、森の中の瀟洒な一軒家へと、生まれ変わっていました。
この家の主人である、大魔女マンスリーは、少し前から、「家獣」と呼ばれる、移動用の魔獣の背中に建っている家に、その持ち主であるシュナンたちの招待で、長期にわたって滞在しており、ひさびさに自分の家に帰ると、すっかり変貌した、その姿を見て、さすがにビックリしました。
その日、レダの変身したペガサスに、メデューサと共にまたがったマンスリーは、自分の家である魔女の家に帰るために、「家獣」の背に立つ家から飛び立ち、アルテミスの森の上空を、矢のように飛んで行きました。
しかし、魔女の家の近くまで、空から接近すると、メデューサと共に、ペガサスにまたがったマンスリーは、上空から見える景色に、違和感を覚えました。
上空から見る魔女の家の屋根が、マンスリーが留守にする前とは、全く違うカラフルな色に、塗り替えられていたのです。
なんだか家の形状も、以前とは全く違っているように、マンスリーには見えました。
思わずマンスリーは、肩越しに振り返ると、背後から自分にしがみつく、一緒のペガサスに乗った、メデューサの方を、訝しげに見つめます。
しかしマンスリーの後ろで、ペガサスにまたがるメデューサは、蛇の髪の毛に覆われた顔の隙間から、笑顔を浮かべながら、更に強く、老魔女の背中にしがみつくだけで、何も言いません。
やがて、レダのペガサスが空中から舞い降りて、魔女の家の近くに着地すると、マンスリーとメデューサは、その背中から飛び降り、地面の土を踏みしめました。
そして、地面に降り立ったマンスリーは、目の前に建っている「魔女の家」を、真正面から見て、更にその眼を、大きく見開いて驚きます。
なんと言う事でしょうー。
古びた陰気な一軒家だった「魔女の家」は、明るい外観と雰囲気を持つ、真新しい「魔女のお店」へと、すっかり変貌を、とげているではありませんか。
そのパステルカラーのお店の前には、「新装開店」の看板が置かれており、玄関口にはマンスリーの紋章である、バラの花をかたどった、鉄製の呼び出しベルも取り付けられています。
そしてお店の前には、杖を持ったシュナン少年と、その左右には、店のユニフォームである「冥土服」を着た、数人の少女たちが、ずらりと並んでいました。
それを見たマンスリーは、隣に立つメデューサの方を振り返り、その蛇の髪で覆われた顔を、じっと見つめます。
すると蛇娘は、蛇の前髪の隙間からマンスリーの顔を見上げながら、少しオドオドした口調で言いました。
「ごめんぬ、おばあさん。勝手な事をしてー」
しかし大魔女マンスリーは、首を振って、蛇娘に答えます。
「いや、嬉しいよ、メデューサ。こんなに嬉しい事はない。だってお前が、本当にわたしの事を思って、してくれた事なんだからー。その気持ちが、一番嬉しいんだよ。ありがとう、ラーナ・メデューサ」
その言葉を聞いたメデューサは、はにかんだ笑顔を浮かべながら、その蛇で覆われた顔を、恥ずかしそうに伏せました。
やがてそんな二人の方へ、魔女のお店の前に並んでいたシュナン少年や、「冥土服」を着た少女たちが、ゆっくりと近づいて来ました。
彼らは、マンスリーたちの側まで来ると、二人の周りをぐるりと取り囲み、老魔女に対して、次々と挨拶をします。
まず、シュナンの持つ師匠の杖が、マンスリーに対して声を発します。
「差し出がましい事をして、申し訳ありません、師匠。でも、破門された、わたしが言うのもなんですが、我が弟子のシュナンを初めとする、この者たちの気持ちを、どうか、心良く、受け取っていただきたい」
その言葉に合わせて、杖を持つシュナン少年も、マンスリーに、ペコリと頭を下げます。
それを見たマンスリーは、大きく一度うなずくと、杖を持って立つ、シュナン少年に言いました。
「ありがとう、シュナン。あんたは、本当に優しい少年だね。その優しさが、いつか命取りにならなきゃいいけどー。それにレプカール、あんたもシュナンたちと旅をして、ずいぶんマシになったみたいだね。まぁ、本当に変わったのなら、良かったんだけどね・・・」
マンスリーが、シュナンたちにかけた言葉に、隣に立つメデューサは、少し違和感を覚えました。
しかし、それを確かめる間も無く、今度は「冥土服」を着た少女たちの内、何人かが、ぐいっと前に出て来ました。
前に出た少女たちの人数は、全部で四人。
彼女たちは、魔女のお店で働くために、族長であるレダの要請で、はるばるペガサス族の村からやって来た、出稼ぎの少女たちでした。
容姿に優れた彼女たちは、おもに接客と、ペガサスに変身できる特性を生かして、宅急便の業務も担当する予定でした。
彼女たちは、店のユニフォームだと、勝手に吟遊詩人デイスが決めた「冥土服」に身を固め、マンスリーたちの前に居並んで、悩殺ポーズを取ります。
「だっちゅーのっ!!!」
両肩をすぼめ、胸の膨らみを強調する、そのポーズに、彼女たちの側に立っているシュナン少年は、思わず、顔を赤らめました。
そんなシュナン少年を、蛇の前髪の下から、ギロリと横目でにらむ、メデューサ。
彼女は、目の前で居ならび、悩殺ポーズをとる少女たちに、あきれたような口調で声を発します。
「また、あんたらか・・・。どこにでも、出て来るわね。って、いつもとメンバーが、違うじゃない?」
そう、最初、メデューサは、彼女たちが、ペガサス族のアイドルグループ、UMAの少女たちだと思っていたのですが、良く見ると、全然別の、女の子たちでした。
すると、首をかしげるメデューサに、背後から声がかけられます。
その声の主は、ペガサス族の長であり、女の子たちをこの場に呼んだ張本人である、メデューサの旅の仲間でもある、赤毛の少女レダでした。
ペガサスの形態に変身して、マンスリーとメデューサを、この場所まで運んだレダは、人間の姿に戻ると、身なりを整えて、いつのまにか、メデューサの側に立っていたのです。
「UMAの連中は、来年のドーム・コンサートの準備で忙しいからね。他の子たちを呼んだのよ。この子たちもUMAと同じく、最近、アイドルグループを結成したのよ。白馬坂48っていうんだけど、歌と踊りはなかなかのものよ」
ずらりと並んだ、ペガサス族の少女たちを、頼もしげに見つめ、胸をはる、彼女たちのリーダーであるレダ。
「作者の頭が、本当に心配だわ」
メデューサが、ボソッと、つぶやきました。
[続く]




