アルテミスの森の魔女 その35
「死と裏切りって、どういう事!?」
マンスリーが放った、予言の言葉を聞いて、メデューサがその声を荒げます。
メデューサは、老魔女の言葉に、ショックを受けていました。
目の前のテーブルに両手をつき、座っている椅子からは腰を浮かし、前のめりの姿勢で、テーブルを挟んだ向かい側に座る、マンスリーに尋ねます。
「もしかして、あたしとシュナンが、誰かに裏切られて、死ぬって事っ!いったい、いつ!?誰にー」
しかし、その言葉に、メデューサの向かい側でテーブル席に着く、魔女マンスリーは、首を振ります。
「いや、そういうわけじゃない。カードは、2枚あるだろう?これは、あんたとシュナンの運命と関係性を、別々に表してるんだよ。二人の共通の未来を示してる訳じゃない。占いの結果を正確に言うと、「一人が相手を裏切り、そして、もう一人は死ぬ」だよ」
「・・・」
マンスリーの言葉に、更に衝撃を受ける、メデューサ。
テーブルの向かい側に座るマンスリーが、こちらに示している、手の中のカードを見ると、片方には、逆さ吊りにされている男性の絵が、そしてもう一枚には、骸骨を背負った男性の絵が、描かれています。
その2枚の、不吉な絵柄のカードを見て、木の椅子に座るメデューサの背中に、悪寒が走りました。
けれど彼女は、やがて肩を落として、ため息をつき、顔をうつ向かせると、正面に座るマンスリーに対し、テーブル越しに声をかけます。
「そう・・・あたしたちの、どちらかが、相手を裏切って、その為に、もう一人が死んじゃうって事ね・・・。だったら、死ぬのは、きっと私ね・・・。だって、あたしがシュナンを裏切るなんて、絶対に、あり得ないもの」
しかし、何故かマンスリーは、メデューサのその言葉にも、首を振ります。
マンスリーは、テーブルを間に挟んで、向かい合って座るメデューサに見せていた、手の中のカードを、元通り、テーブル上に戻すと、両手を組んで椅子に座りながら、考え込むようなポーズを取ります。
そして、彼女には珍しく、少しためらいがちな声で言いました。
「実はね、メデューサ。ここに来る前に、わたしは、あんたに関する、予知夢を見たんだ。歳を取った、あんたの姿が、出てくる夢をね。知ってるかも知れないけど、あたしの予知夢は、今まで一度も、外れた事がない。だから、あんたが若いうちに、早死にする事はあり得ない」
その言葉を聞き、思わず口に手を当てる、メデューサ。
テーブルを挟んでマンスリーと向かい合う、彼女の蛇の髪で覆われた顔には、驚愕の表情が浮かんでいます。
「それって、一体、どう言う事、おばあさん・・・。予知夢ってー」
考え込むようなポーズを崩さずに、自分の見た予知夢について語る、マンスリー。
「あれは、確かに、あんただったよ。もう、髪は真っ白だったから、おそらく、今のあたしと、同じくらいの年齢だろうね。安楽椅子に座って編み物をしながら、床に座っている、二人の子供の相手をしていた。おそらく、あんたの孫だろうね。顔が、そっくりだったから。他の家族も、周りにいたみたいだけど、あたしの視点からは、見えなかった。田舎の大きな家で、暖炉には、赤々と火が燃えていたー」
そこまで聴くとメデューサは、絞り出すような声を出して、マンスリーの話をさえぎりました。
彼女は、テーブル越しにマンスリーを、睨みつけるように見ていました。
「それこそ、あり得ないわ。真っ白な髪?あたしのこの髪が、どうすれば、真っ白になるのよ?この醜い、蛇でできた髪がー」
自分の、蛇で出来た髪の毛を、指て指し示す、メデューサ。
彼女の心は、マンスリーが語った予言の言葉に惑わされ、大混乱に陥っていました。
しかし、そんなメデューサに対してマンスリーは、首を振りながら、更に言いました。
「いや、蛇の髪の毛では、なかったよ。普通の、白髪の老婆だった。おそらく、若い頃は金髪だったんだろうけどー。でも、あれは、間違いなく、お前だった。人間の姿に戻った、お前の姿だった」
「ーっ!!!」
マンスリーの言葉に絶句する、メデューサ。
今、彼女の脳内では、マンスリーから聞いた言葉が、ぐるぐると渦を巻き、心の中では、疑問の嵐が激しく吹き荒れていました。
裏切りと死。
占いと予知夢。
そして、人間に戻った、自分の姿ー。
マンスリーは、そんな風に動揺し、混乱しているメデューサの姿を見て、深いため息をつきます。
それから、自分の手元で広げていたテーブルの上のカードを、両手でかき集めると、一つにまとめて束にして、そっと懐にしまいました。
その後で彼女は、同じテーブルを囲むメデューサに対し、謝罪の言葉を口にします。
「すまなかったね、メデューサ。お前を惑わすつもりは、無かったんだよ。何とか、お前の力になりたいと、思ったんだけどー。でも、やっぱり、藪蛇だったね。でも、メデューサ。あたしが、こんな事を言うのもなんだけど、予言の言葉に、必要以上に惑わされちゃいけないよ。特に占いなんて、解釈次第で。真逆の意味になる事も、あるんだから。さっきのカード占いだって、簡易カードを使ったから、精度は今ひとつだしね」
マンスリーの向かい側で、テーブル席に着くメデューサは、呆然としながらも、魔女のその言葉にコクリとうなずきます。
それを見たマンスリーは、自分もメデューサに対してうなずき返すと、しみじみとした口調で声を発します。
「全く、予言や予知なんて、やっかいな能力だよ。人を苦しませる事もあるからね。でも、メデューサ。もし、お前さえ良ければ、今度は、ちゃんとしたカードで正式に占わせておくれ。さっきみたいな簡易カードじゃない、あたしの家にある、本格的なカードでね。もしかしたら、それで、何かの糸口が、見つかるかもしれないー。運命を切り開くためのね」
そして、老魔女は、気持ちを切り替えるためか、テーブルの上に載っている、自分の分のティーカップを持ち上げて、ゆっくりと口元に運びました。
[続く]




