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アルテミスの森の魔女 その29

 広場の真ん中で、いきなり現れた魔術師らしき男と向かい合う、デイスとチキ。

広場の中央で対峙する、二人と一人の周りを、道行く人々が通り過ぎて行きます。

デイスは、チキを背中に隠すようにして、路上に立っており、正面で向かい合う魔法使いの男を、睨みつけています。

デイスは普段の、どこか、とぼけた表情とは全く違う、凄みのある形相で、男を睨みながら、低い声で彼に尋ねます。


「お年寄りを、いじめるなんざ、最低の人間のやる事ですぜ。何か言い訳があるなら、言ってみるがいいですぜ。この吟遊詩人デイスが、しかと承りますぜ」


デイスに向かい合っている男は、手に持った樫の木の杖を構え直すと、正面に立つ吟遊詩人を逆に睨み返して、その質問に答えます。


「ふん、聞きたければ、教えてやろう。わたしが何故、マンスリーを憎むのかをな。かつて、わたしは、先代のベルセウス王が統べる西の都において、宮廷魔術師をしていた。そして宮廷魔術師団のリーダーであった、大魔術師モウ様と11人の仲間と共に、ある偉大な計画に、着手したのだ。だが、その計画は頓挫した。同じ宮廷魔術師である、マンスリーの、横槍のせいでな」


杖を、手が白くなるほど強く握りしめ、その顔に憎しみの表情を浮かべる、魔術師マローン。

彼は、くぐもった声で、更に語り続けます。


「お陰で、我らの計画は頓挫し、首謀者とされたモウ様は、へき地での隠棲を余儀なくされ、失意のうちに亡くなられた。わたしを含む仲間たちも、それぞれが国外追放となり、バラバラになってしまった。わたしも妻子と共に、この都から、遠く離れた土地に移り住んだ。最初は苦労したが、何とか、この村で、魔術師としての地位を確立したのだ。だがー、そんなおり、あの憎っくきマンスリーが、この地に移り住んで来たのだ」


昔の事を思い出したのか、歯ぎしりをしながら、デイスたちに話し続けるマローン。

その眼は、憎しみのためか、血走っていました。


「わたしは復讐の、絶好のチャンスだと思った。だから、わたしは、村中に、マンスリーに関する悪い噂を流し、更には町のチンピラ共を洗脳して、マンスリーを迫害するように仕向けた。いずれ機が熟すれば、村人たちを扇動して、あの魔女を、血祭りにあげるつもりだったのだー」


勝ち誇るように、独白を続けるマローンの姿を、彼と向かい合う、吟遊詩人デイスと新米魔女チキは、厳しい視線で睨んでいました。

しかしやがて、チキを背中にかばうように立つデイスは、その視線をマローンから、広場の外れの方に移すと、そちらに向かって大きな声で叫びました。


「そういう訳ですぜ!!シュナンの旦那!出番ですぜっ!!」


するとー。

デイスが叫んだ方角にある、広場のグリーン・スポットの木立の陰から、師匠の杖を構えたシュナン少年が、静かに歩み出て来たのです。

シュナンは、魔女の家の改修工事を行なっている業者たちに指示を出すため、宣伝活動をしているデイスたちとは、別行動を取っていました。

しかし実は彼は、マンスリーを陥れようとしている連中が、デイスたちの活動を邪魔するために、いずれは、のこのこと、その姿を現わすだろうと、予測していました。

そこで魔女の家で、改築作業を見守りながらも、遠視魔法で、デイスたちの様子も確認し、彼らが危機に陥ると見るや、すぐさま駆けつけたのでした。

シュナンが現れたのを見た魔術師マローンは、デイスたちに向けていた目を振り向かせ、奇妙な杖を持った盲目の魔法使いを睨みつけます。

今や広場の真ん中で、等間隔で対峙する、デイスとチキのコンビと、魔術師マローン、そして新たに現れたシュナン少年の三者の間を、道行く人々が、何事もなく通り過ぎて行きます。

マローンは、シュナン少年とは初対面でしたが、大魔女マンスリーの高弟の一人である、魔術師レプカールが育てたという、この特異な出自と外見を持つ若き魔法使いの事は、風の噂で知っていました。

顔に憎しみの表情を浮かべながら、シュナン少年に対して、毒づくように声を発します。


「お前が、(めしい)のシュナンか。事情も知らずに、余計な事に首をつっこみおって。この生意気な小僧が!」


その時、シュナンの持つ師匠の杖が、その先端部分の円板についた、大きな眼をキラリと光らせながら、マーロンに話しかけました。


「事情なら、わしが知っているぞ、幻惑のマーロン。あんな無謀な「太陽塔復活計画」など、反対されて当たり前だ。下手をすれば、全世界が滅びていたわ」


その声を聞いたマーロンは、驚愕の表情で、シュナンの持つ、師匠の杖を見つめます。


「レ・・・レプカール。そうか、言の葉の杖を通じて、喋っているのだな。ここで会ったが、百年目と言いたいところだが、本体が遠くにいるのでは、戦いようがないな」


マーロンを、その光る眼で、冷たく見つめる師匠の杖は、いつもの皮肉っぽい声とは違い、落ち着いた声で、マーロンに告げました。


「逆恨みで、我が師匠を害そうとは、いくら昔の同僚でも許せぬ。わし自ら、戦いたいところだが、杖の身では、そうもいかぬ。今回は、わしの弟子である、このシュナンドリック・ドールが、お相手しよう」


師匠の杖の言葉を受けてシュナンは、一歩前に出ると、マーロンに向かって言いました。


「こんな人混みの中で、戦うわけにはいかない。魔法を撃ち合えば、村人たちが、被害を受けるかもしれない。人気のない場所に、移動しよう」


シュナンとマーロンは、大勢の人々が行き交う村の広場で向かい合って立っており、少し離れた場所にはデイスとチキが並んでたっており、二人の魔法使いが対峙する様子を、固唾を飲んで見守っています。

広場を往来する村人たちは、道の真ん中で立ち止まり、向かい合っている彼らの方を、怪訝そうに一べつしてから、次々と足早に、その間を通り過ぎて行きます。

確かにこんな場所で、魔法使い同士が争えば、一般の村人たちに、被害が出る可能性があり、シュナンはそれを恐れて、マーロンに、戦いの場所を移す事を提案したのです。

しかし、マーロンは、シュナンの提案を鼻で笑うと、言いました。


「フフン、そんな心配はいらんぞ、小僧。わたしの技は、無関係な者を傷つけたりはしない。それどころか、お主の身体にも、傷一つつける事もない。わたしの技が、傷を与えるのはー」


樫の木の杖を、はすに構える、魔術師マローン。

その時、不思議な事が起こりました。

村の広場で、マローンと向かい合うシュナンの周囲から、今まで見えていた景色が、そこにいる人々ごと、急にかき消えました。

そして、一瞬後には、彼の周りには、どこかで見た事のある、のどかな農村の、景色が広がっていたのです。

それはまるで、今までいた場所から、全然違う場所に、瞬間移動したかのようでした。

多くの人々が行き交う村の広場から、いきなり閑散とした田園風景が広がる場所に、自分が移動したように感じたシュナン少年は、その目隠しをした顔に、困惑の表情を浮かべます。

しかしその時、シュナンの持つ師匠の杖が、鋭い声で弟子に、警告を発しました。


「騙されるな、シュナン!!これは幻術だっ!おまえの身体は、あの村の広場から、一歩も動いてはおらんっ!周りに見える景色は、マローンが魔術で作り上げた、仮想空間( バーチャル・スペース )だ!!奴はお前の記憶から、お前が昔見た光景を引っ張り出して、それを周囲の空間に、展開しているのだ!!全ては、実体のない幻に過ぎんっ!!」


[続く]


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