アルテミスの森の魔女 その2
おおーっ 愛しい君よ♪
星の瞳に、銀の髪♪
歩む姿は、月の影♪
この一瞬の光こそ、我が永遠なる幸せ♪
その部屋の真ん中に置かれた、丸いテーブルの周りには、それを囲むように木の椅子が並べられ、そこにシュナンを始めとする、旅の仲間たちが座っていました。
吟遊詩人デイスも、シュナンやメデューサたちと共に、部屋の中心に置かれた、その丸テーブルを囲んで木の椅子に座っており、ハープを片手に、相変わらず下手くそな詩を、音楽に乗せて、口ずさんでいました。
そして、そのテーブルを囲むメンバーのうち、シュナン少年の左右には、彼の椅子と自分たちの椅子をくっつけるように、メデューサとレダが座っており、密着している三人の向かい側では、吟遊詩人デイスが一人ポツンと、テーブル席に着いています。
吟遊詩人の向かい側で、固まって座っている三人は、彼と同じテーブルを囲んではいましたが、特にその演奏に耳を傾けるでもなく、シュナン少年を挟んで、他の女性陣二人が、なにやら、わいわい騒いでいます。
また、丸テーブルの上には、手作りと思われるお菓子の載った皿が、いくつも置いてあり、メデューサとレダは、彼女たちに挟まれて座るシュナンに、その皿の上の菓子を差し出して、彼に食べるよう、熱心に勧めていました。
「シュナン、あたしの作った、にんじんクッキーよっ!食べて食べて!」
煽情的な黒ビキニを身にまとった、赤髪の少女レダは、シュナン少年から見て左隣りの位置で、彼に寄り添うように木の椅子に座っており、手にした自作のお菓子を、彼の顔に向かって差し出し、食べるよう、うながしています。
「シュナン、わたしの作った、イモリの黒ビスケットの方が、美味しいわよ。食べて、食べて!」
一方、シュナンの右隣りで、木の椅子にちょこんと座るメデューサも、負けじとシュナン少年の口に、自分の作ったお菓子を、ぐいぐいと押し付けています。
両者に挟まれて、テーブル席に座るシュナン少年は、彼の左右に陣取っている二人の女性から、それぞれ手に持つお菓子を、顔に突きつけられており、目隠ししたその顔に、困惑の表情をうかべていました。
一方、密着してテーブルの前に座る、シュナンたち三人の向かい側で、一人ポツンとテーブルの前に座る、吟遊詩人デイスは、若者たちの騒ぎには我関せずといった態度で、竪琴を弾き続けています。
彼の演奏は、今や、最高潮に、達しようとしていました。
おおーっ、我が心は波間に浮かぶ、落ち葉の如し♪
汝が言葉に、儚く揺れる♪
おおーっ、愛しき人よ♪
哀れなる、この身が欲するは、甘い愛の囁き♪
見張り番を終えたボボンゴは、「家獣」の背中に立つ家に入ると、部屋の中で丸テーブルの周りを囲んで座る、シュナンら旅の仲間たちの、緊張感の無い様子を見て、少し肩をすくめます。
そして、自身も、シュナンたちが椅子に座って囲んでいる、その部屋の真ん中に置かれた丸テーブルの、空いている隙間に、どかっと座り込みました。
シュナンたちとは違って、巨人族であるボボンゴは、座高が高く、椅子を使わず直接、部屋の床にあぐらをかいても、テーブルの高さが、ちょうど彼のお腹ぐらいの位置であり、その状態で、他の仲間たちと一緒にテーブルを囲んでも、特に不自由はありませんでした。
ボボンゴが、テーブルの側に座った事に気付いたシュナンは、左右から差し出されている、お菓子を持った手に辟易しつつも、見張り番をしてくれた彼に、ねぎらいの声をかけます。
「ありがとう、ボボンゴ。見張り役、ご苦労様。君もお茶でも飲んで、一息つきなよ。・・・お菓子も、メデューサたちが、いっぱい作ってくれたし」
しかし、ボボンゴは、自分がその前に座っている、丸テーブルの上に載せられた、数々の菓子類の皿や、飲み物の容器を一べつすると、少し眉をひそめて言いました。
「食材、使いすぎ。アルテミスの森、抜けたら人跡未踏の土地。食べ物、手に入るかわからない」
ボボンゴの言葉を聞くと、シュナンの両隣りに陣取ってテーブルを囲んでいる、メデューサとレダが、あわてて目をそらします。
実は彼女たちは、「家獣」の背中に立つ家の中に完備されている、システムキッチンを使うのが楽しくて、二人して競い合うように、様々な料理を毎日作りまくり、シュナンたちに食べさせていたのでした。
おかげで最近は、シュナンを始めとする男性陣のお腹も、プックリと膨れて、少々肥満気味でした。
まぁ、自力で歩いて旅をしている時に比べて、「家獣」の背に乗って旅を続けている今は、彼らの運動量も、かなり少ない状態ではあったのですが。
とにかく、「家獣」に乗って移動している間は、基本的に暇だった為、メデューサとレダは、その余った時間を、大量に食材を消費して、料理を作る事に、費やしていたのでした。
一方、気まずそうに目をそらす二人に挟まれながら、丸テーブルを囲む木の椅子に座るシュナン少年は、ボボンゴの指摘を受け、その目隠しをした顔に、困惑の表情を浮かべていました。
しかしその時、彼がその手に持っている、不思議な魔法の杖、通称「師匠の杖」が声を発して、テーブル席を囲む仲間たちに、ある提案をしました。
「どうやら、どこかで、食材を調達する必要があるようだな。それに食料だけではなく、他の生活用品も、買い込んでおいた方がいい。確か、アルテミスの森の付近には、人間の集落があったはず。そこで買い物をして、物資を手に入れるとしよう」
買い物と聞いて、シュナンの両隣りで木の椅子に座る女性陣が、とたんに色めき立ちます。
今まで気まずそうにしていた彼女たちは、テーブルの上に両腕を載せながら、前のめりの姿勢になると、隣に座るシュナンが持つ師匠の杖に、食いつき気味に尋ねます。
「いいわね、買い物。足りないもの、がいっぱいあるし、是非行きましょう」
「そうね。気晴らしにもなるし、みんなで行きましょう」
しかし、いき上がる女性陣のはす向かいで、丸テーブルの前に座り込んでいる巨人ボボンゴは、軽く首を振ります。
「俺がついてくの、まずい。人間たち、驚く」
シュナンが持つ師匠の杖も。口を挟みます。
「そうだな。このあたりでは異種族は珍しいし、巨人族のボボンゴはもちろん、メデューサやレダも、人間の住む場所には近づかない方がいいだろう。特にメデューサにとっては、この辺りの土地は、因縁深い場所だからな」
その言葉を聞いた、メデューサとレダは、当てが外れて、思わず不満げな声を漏らします。
「ちぇっ、なんだ」
「うーん、残念」
一方、ガッカリした様子の彼女たちに挟まれて、丸テーブルの前に座るシュナンは、膝の上に立て掛けながら手に持っている、師匠の杖に向かって。落ち着いた声で言いました。
「それじゃ、僕一人で、行きましょう。まぁ、何とかなるでしょう」
その時でした。
シュナンたちと一緒の丸テーブルに座っている、吟遊詩人デイスが、ずっと続けていた演奏をやめると、手にしていた竪琴を、目の前のテーブルの上に置きました。
そして、フフンと鼻を鳴らすと、同じテーブルを囲む仲間たちに告げました。
「あっしも、付き合いますぜ、シュナンの旦那。人間の商人たちとの交渉は、任せて下さい。こういうのは、年季がものをいいますからね」
一緒にテーブルを囲む、旅の仲間たちに、自慢げに胸を張る、吟遊詩人デイス。
こうして、シュナン少年と吟遊詩人デイスは、一時的に他の仲間たちと別れて、人間の住む村落まで、買い出しに行く事になったのでした。
[続く]




