アルテミスの森の魔女 その19
さて、無事に竜王との面会を果たし、彼に入山の許可を得ると、レダの変身したペガサスは、メデューサをその背に乗せながら、一路、目的地である花咲き山を目指し、山々の間を飛んで行きます。
延々と連なる、霧深い山々の上を、飛翔する、レダのペガサス。
空飛ぶペガサスの背にしがみつくメデューサは、そこから見える、地上の俯瞰図に似た雄大な景色に、思わず眼を見張ります。
しかし、彼女は、似たような岩山が連なる中、一箇所だけ、色鮮やかな場所が見える事に、気付きました。
レダの背中にまたがるメデューサは、遥かな上空から地上を指差して、大きな声で叫びます。
「レダ、あそこっ!!あそこの山っ!!花が咲いてる!」
背中に乗っている、メデューサの言葉を聞いてレダは、山々の上空を飛んでいる、そのペガサスの身体を、急旋回させました。
そして、メデューサが指差した、花が咲いているように見える山を目指して、翼をはためかせ、舞い降りていきます。
レダのペガサスが降りようとしている山は、高山の間に、ひっそりと隠れるみたいに屹立している、小さな山でした。
しかし、その山の表面は、他の山々と違い、緑に覆われており、高い場所からも、様々な草花が生い茂っているのが、見てとれました。
レダのペガサスは、メデューサを乗せたまま、その翼をはためかせると、やがてその緑に覆われた山の頂上付近に、フワリと降り立ちました。
その山の固い山肌に、レダのペガサスが着地すると同時に、上に騎乗していたメデューサも飛び降りて、ストンと地面に、降り立ちます。
一方、レダは、変身を解除して、人間の少女の姿になると、ペガサス形態の時は、その長い首に引っ掛けていた、ビキニ等を再び身につけて、服装も、いつものセクシーな、女戦士の格好に戻ります。
なんとか、花咲き山に到着した二人は、山の頂上付近の斜面に、背中合わせに立つと、ここに来た目的である、この場所に咲くという、命の花のありかを探すため、山頂から、辺り一面を見回しました。
花咲き山は、周りを高い岩山に囲まれている小山で、他の山々と違い、豊かな緑に覆われていました。
あたりには、様々な種類の草花が群生しており、きっと、二人の探す命の花も、この地のいずこかに咲いているはずでした。
レダは、キョロキョロと周りを見ているメデューサに声をかけて、ある提案をします。
「手分けをして、探した方が、効率がいいわ。メデューサは右手を探して。わたしは左手を探すから」
「わかった」
レダの提案にうなずく、メデューサ。
こうして二人は、山頂の斜面から左右に別れて、それぞれが、花咲き山に咲く命の花を、探す事になったのでした。
山の左手に去る、レダの後ろ姿を見送ったメデューサは、踵を返して、自分は山の右手へと向かうため、青草で覆われた斜面を、ゆっくりと降り始めます。
一人になった心細さに、その身を震わせるメデューサでしたが、シュナン少年を助けるためには、一刻も早く、命の花を見つけなければなりません。
しばらく必死に目をこらして、山の斜面を歩き回っていたメデューサでしたが、やがていくつかの草花の群生している場所に、命の花らしき七色の花びらを持つ花が、何本も生えているのに気づきました。
近寄ってみると、確かにその花の花びらは、七色に光っており、どうやらこれが、マンスリーの言っていた命の花で、間違いないようでした。
その花は、他の植物に紛れるように、何本かが山の斜面に生えていて、つぼみの状態のものがほとんどでしたが、中には花を咲かせ、その七色の花びらを広げているものも、何本かありました。
メデューサは最初は、その咲いている、七色の花びらを持つ花を、持って帰ればいいのではないかと思いましたが、咲いている花を見つめているうちに、何か違う気がしました。
これは自分の花ではない、そんな気がしたのです。
マンスリーは、自分が咲かせた命の花を持ってくるよう、メデューサとレダに指示をしていました。
と、いうことは、この山のどこかに、メデューサ自身が咲かせた、自分だけの命の花があるはずです。
メデューサは、目の前に咲く、七色の花から視線を外して、ため息をつくと、その場を立ち去り、再び山の斜面を歩き始めました。
そして、しばらく歩き回った後、メデューサは、山の中腹にある、開けた小高い丘のような場所に出ました。
メデューサが周りを見回すと、その場所は一部が切り立った崖とつながっており、目をこらすと、その崖の斜面にも、ちらほらと植物が自生しているのが、見てとれました。
「あっ!」
メデューサの目が、その崖の上の方に咲いている一輪の花に、釘付けになります。
その花は、崖の斜面に、ひっそりと一輪だけ咲いており、特徴的な七色の花びらと真っ赤な花弁を持ち、百合のような形状をしていました。
メデューサは、ぽつんと崖に咲いている、その花を見上げながら、あれこそが探し求めていた花であり、自分の心が咲かせた花だと思いました。
何故だか、そう感じたのです。
その花は、崖の斜面という不安定な場所にありながら、しっかりと根を下ろし、風雨にも負けず、一生懸命に咲いていました。
メデューサは、そのけなげな様子を、しばらく崖の下から見つめていましたが、シュナン少年のために、一刻も早く、花を持ち帰らねばなりません。
しかしー。
花は、崖のかなり上の場所に咲いており、それを手に入れるためには、目のくらむような高い位置まで、崖をよじ登る必要がありました。
メデューサは、一瞬、レダに、手助けを頼もうかと思いましたが、やはりここは、自分で頑張るべきだと思い直しました。
あの花は、自分の心が咲かせた花であり、摘み取る際も、自力でやるべきだと考えたのです。
それに、レダの手をいちいち借りるのも、なんだかしゃくでした。
メデューサは、花が咲いている高い崖を、改めて見上げ、ごくりと息を呑みました。
そして意を決すると、ごつごつとした岩肌に手をかけて、花が咲いている場所まで行く為に、切り立った崖の斜面を登り始めたのでした。
[続く]




