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アルテミスの森の魔女 その17

 花咲き山を目指して、アルテミスの森の上空を飛ぶ、メデューサを乗せた白いペガサス。

レダが変身した姿である、そのペガサスは、鬱蒼とした大森林を、大きな比翼の翼で軽々と越えると、やがて高い山々が連なる、山脈地帯の上空へと到達しました。

この山々の間のどこかに、病のシュナン少年を救うという、命の花が咲いている花咲き山が、ひっそりと屹立しているはずです。

しかし、山々の間の谷間には、濃い霧が立ち込めており、花咲き山の場所を上空から確認するのは、中々、容易な事ではありません。

メデューサとレダは、一刻も早く花咲き山に行って、シュナンを救う命の花を手に入れたかったのですが、やはりここは、魔女マンスリーの助言に従った方が良いと考え、まずこの辺りの主である暴竜クラムエンダーに、会いに行く事にしました。

レダのペガサスは、濃い霧に包まれた山々の谷間を、縫うように飛び、やがて上空から見ると、一箇所だけ平らになっている、周囲を岩場に囲まれている、窪地のような場所を見つけました。

その場所は、霧に包まれた連山の、ちょうど中心部にあたり、不思議な事に霧は出ておらず、大きな泉が湧いており、辺り一面には草花が咲き乱れ、まるでそこだけが、別世界のようでした。

マンスリーから、ある程度情報を得ていたレダは、この場所が、山の主であるクラムエンダーの、住む場所に違いないと判断し、メデューサを乗せたまま、その緑の窪地に、降り立ちました。

レダのペガサスが、地上に降り立つと同時に、メデューサは、パッとその背中から、地面に飛び降ります。

奇岩に囲まれた窪地に立つ、メデューサと、レダのペガサス。

辺りを、キョロキョロと見回す二人でしたが、そんな彼女たちの背後から、野太い声が響いて来ました。


「お前たち、この山に、何の用だ?」


メデューズと、レダのペガサスが、後ろを振り返ると、そこには、周りを取り囲む岩壁を背にして屹立する、一体の巨大な、ドラゴンの姿がありました。

その巨体にも関わらず、メデューサたちが、彼に気付くのに遅れたのは、竜の身体が、背後を囲む岩壁と同じ色であり、周りの景色に溶け込むように、一体化していたからでした。


「レ、レダ!ど、どらごん。ドラゴンよっ!」


レダのペガサスの、長い首にしがみついて、うわずった声を上げるメデューサ。

モンスターには慣れているはずのメデューサでしたが、神に等しい力と、人間をはるかに越える知性を持つ、伝説級の本物の巨竜を見るのは、さすがに初めてでした。


<< ちょと、落ち着きなさいメデューサ。あんただって、蛇の怪物なんだから、大して違わないでしょ! >>


そう、テレパシーを発すると、首を振って、自分にしがみつく蛇娘の身体を、引き離す、レダ。

その後、レダは変身を解いて、裸の人間の姿に戻ると、ペガサス形態の時は長い首に引っ掛けていた、黒革のビキニや防具などを、急いで拾い集めて身体にまとい、身なりを整えました。

そして、完全にびびって近くに立ち尽くしている、メデューサの手を引っ張って、自分の隣に並ばせると、正面にそびえ立つ、暴竜クラムエンダーの巨体に、改めて対峙します。

クラムエンダーは、身の丈10ミール、全長は20ミール近くにもなる、巨体の持ち主であり、かつては世界中を荒らし回った、伝説の竜王(レジェンド・ドラゴン)のうちの一体で、その凶暴さと力は、広く知られていました。

その全身は、鋼の様な黒い鱗で覆われており、また頭の左右には、長い二本の角を持ち、両眼はルビーの様に真っ赤に光り、さらに口や手には、鋭い爪牙を生やし、背中には蝙蝠に似た巨大な一対の翼が、折りたたまれた状態でついています。

また、その長い尾の先端は、クラム(二枚貝)のような形状をしており、そのために人々は、彼の事を「クラムエンダー」と名付けたのでした。

もちろん、それは、彼の真の名前ではなく、その真名を知る者は、もはや地上には、誰もいませんでした。

今、その巨竜は、妖しく光る赤い目で、地上に立つメデューサとレダのちっぽけな姿を、はるかな高みから見下ろしています。

人間の姿に戻ったレダは、隣でおびえてガタガタ震えているメデューサを、横目で見ながら、正面にそびえ立つ巨大な竜に、挨拶をします。


「ヨエモ・トパッパ・ズンゴドラ・ゾイイ・レバンガ(偉大なる竜王よ、お会い出来て、光栄です)」


しかし、竜の言葉で話しかけたレダに対して、クラムエンダーは、人間の言語で、返事を返します。


「娘よ。竜の言葉で話す、必要はない。わたしは大抵の種族の、言葉が使える。もちろん、人間が使用する言葉もだ」


レダは竜を見上げながら、彼に対してうなずくと、自分やメデューサが、この場所に来た理由を、人語で説明し始めます。

大きく両手を広げ、竜に対しても臆する事もなく、語りかけるレダ。

一方、メデューサは、そんなレダの傍で、彼女の背中に隠れるように、震えながら立っており、ただでさえ小さな身体を、更に縮こませて、竜の巨体を見上げています。

メデューサに、ギュッとしがみつかれているレダは、傍らでガタガタ震えている蛇娘に、少しあきれましたが、ここはお姉さんである自分が、しっかりするべきだと考え、更によく通る声を張り上げて、クラムエンダーに語りかけます。


「わたしたちは、花咲き山に行きたいの。そこに咲くという、命の花を手に入れる為に。偉大なる竜よ。どうか、わたしたちが、あなたの領地に、足を踏み入れる事を、お許し下さい」


山脈に囲まれた窪地で、黒々とした岩壁を背に立つ、巨竜クラムエンダーは、地上にいる豆粒みたいな二人の女の子を、見下ろしながら、重々しい口調で答えます。


「ここまで来れたという事は、おそらく魔女マンスリーに、入れ知恵されたのであろうな。まぁ、良い。わたしは昔、邪悪な人間たちの住む都を、いくつも滅ぼしたが、別にすべての人間を、憎んでるわけではない。あのマンスリーが、お前たちを寄越したというなら、邪悪な目的で、この地に、足を踏み入れたわけではなかろう。今から、わたしが出す謎に、見事に答える事が出来たなら、花咲き山へと向かう道を、教えてやろう」


「続く]

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