第六話 森へ取り戻しに
数週間経った。
洋平の傷はだいぶ癒え、簡単な手伝いはできるようまで回復していた。
言葉も結構覚えた。
まだ少し心もとないが、馴染んできている。
今日は、ダヴィタと一緒に倒れていた森へ荷物を取りに行く予定だ。
(これは記憶を取り戻すチャンスだ)
森から家まではそう遠くない。
約十五分くらいの距離だろうか。
少し体が鈍って歩くのがしんどいが、良いリハビリになるだろう。
ダヴィタは荷カゴと斧を、洋平は彼から短剣を借りて持っている。
森の入口から獣道が続いていて、それを辿る。
しばらく進むと獣道から少し逸れ、草むらに囲まれた草の低いところに着いた。
洋平の荷物が散乱している。
箱が三個とグレー色と木製部分の機械、そして革鎧のようにしっかりとした胴体を覆うエプロンのような複雑な上着が落ちている。
持ち上げると、それにベルトが付属していて、巾着に似た何かをぶら下げるような袋が付いているが、形状はそれより明らかに複雑で、専用の器具を入れるのに特化していると見て取れる。
二人は散乱した物を重さ別に分担した。
ダヴィタは緑の箱を、洋平はグレーの機械と布エプロンを回収することにした。
想像以上に緑の箱が重かったのと、箱の閉まりが甘かったので、箱を持ち上げたダヴィタが取り落とすと、内容物が地面に散乱してしまった。
その内容物に彼は目を奪われた。
先はおそらく銅だが、それから後ろは金色の尖った形の金属がたくさんジャラジャラとしていた。
「おぉ、こりゃ大変なこった」
洋平はしゃがみ込んで内容物を箱に戻すが、ダヴィタはただ目を丸くしたまま微動だにしない。
「おーい。ダヴィタさん。どうしたんだろ。あっ。ニィー・アルゴーン」
(金じゃないで合ってるよなぁ。これ真鍮だしなぁ)
覚えたての現地語を、身振り手振りを駆使して伝える。
(真鍮ってどう言うんだろ…って、これ、銃だよなぁ。やはり俺は…)
思考を遮るようにダヴィタが謝った。
「フォルギマン・ヨウヘー。ダス・ナ・ウー」
手を振りながら「気にしない気にしない」と繰り返した。
二人で金属を箱に戻していると、ダヴィタがなにかに気づいた。草を少しどけて地面をまじまじ見つめると、焦ったように口を手で隠し、言った。
「ブレェーア・ウィルヘルム…」
「どうしたんだ。ダヴィタさんいきなり」
洋平の声掛けに返答することなく、彼は来た道を走り出した。
洋平は持っている荷物を手に走って追いかけた。
どけられた草のあった地面にはくっきりと獣らしき足跡が残っていて、それは来た方の獣道の方向へ向かっていた。