第五話 またあの悪夢、でも思い出せない
弾ける砂埃。
何かが雨あられのように辺りを襲い、砂埃を巻き上げる。
土壁。
辺りの赤い斑点の倒れた男たち。
立ち上る砂埃。
辺りでチカチカ灯る火柱、茶色、土色、火の赤色、血の赤色、火柱、そして激痛…
「はっっっっ。夢か」
悪夢を見ていたが、一度起きてしまえば、思い出そうにも思い出せない。
大事ななにかのハズなのにもう呼び起こされることはない。
するとウリーヤが入ってきた。
どうやら洋平は、寝坊して朝食の食卓を逃したらしいが、余り物を取っておいて持ってきてくれたのだ。
朝食は、昨日の硬いパンと、少し濃くなった昨日のスープに山菜の塩漬けらしい。
「ウリーヤさん。かたじけない」
「カタジケナイ?」
少しきょとんとした彼女は、洋平を見つめている。
洋平は、受け取ったパンを持ったまま軽くお辞儀し、食べ始めた。
「カタジケナイ!ダス・メヌワー・ダンケン・アン・リングーニス」
彼女は洋平を指さしながら「ウー・サイーッドゥ・カタジケナイ」と言い、自身を指さし「ダス・トォッ・リングーニス・ダンケン」と言った。
洋平を指し「カタジケナイ」自身を指し「ダンケン」と繰り返す。
「そうか。ありがとうはダンケンって言うのか。ダンケン」
すると彼女は微笑んで出ていった。
朝食を食べ終わった洋平は睡魔に襲われ再び眠りについた。