第三話 知らない天井、知らない世界、ない記憶
目が覚めた。
「知らない天井だ。って、何かのアニメで見たことあるぞ」と苦笑しつつ見覚えのない天井を見る男。
しばらく見つめていると、それは藁葺き屋根だと気づいた。
起き上がろうとすると激痛で悶絶してしまう。
声を抑えつつあたりを見ると、少女が椅子で眠っている。
見知らぬ状況を整理すべく、男は記憶を辿ろうとした。
しかし、何も思い出せない。今まで何をしていたのか、なぜ傷だらけなのか思い出せない。
だが、一つ思い出せたことがあった。
男は首元のドッグタグを手に取り、見る。
MYODOU YOHEIとアルファベットで書かれている。
裏を見ると血液型AB型と書いてある。
(俺の名は冥道洋平、歳は25歳。血液型はAB型だ。だがそれ以外思い出せない…)
そう頭を抱えていると、少女がウトウトと起きた。
「起こしちゃったかお嬢ちゃん。すまんな」
起きた少女は、目をパッチリ見開いて洋平をしばらく見ていたが、しばらくして「プラヴィド。
サック・プラヴィド」と叫びながら部屋を飛び出していった。
きょとんとした洋平は、頭を掻きながら「まいったまいった」とため息を吐いていた。
少しして扉が開くと、男と女、そしてさっきの少女が入ってきた。
「プラヴィディアン・サッキズ。デチゥ・ディ・ペニナジャ?」
男は聞いてきた。
「こりゃまいった。言葉が分からん…英語わっかんのかなぁ。
アイ・アム・ヨウヘー。サンキュー・フォー・ヘルピング・ミー」
相手の応対を待っていると、彼らは困ったように見合わせた。
コミュニケーションが取れないのでは埒が明かないので、原始的な自己紹介をすることにした。
「ヨウヘー、ヨウヘー」と自分を指さして繰り返したり、首にかかったドッグタグの名前のところを指さして、自分に指をさして繰り返していた。
すると女が、「サッキズ・ナ・ヨウヘー」と言った。
「伝わったか。イェス。イェス。ヨウヘー。ヨウヘー」
自分に指さしながら繰り返すと、女が指さし「ヨウヘー」、そして自身を指さして「トォッ・ネーズナ・ウリーヤ」と言った。
そして続けてゆっくりと「ウリーヤ」と繰り返して言った。
「そうか。ウリーヤさんね」
それに続いて、男も自身に指をさして「ダヴィタ」と言い、少女はウリャーナと名乗った。
この三人は父ダヴィタ、母ウリーヤ、娘ウリャーナの三人家族のようであった。
すると、ウリーヤがぽんと手を叩き、ダヴィタに耳打ちをすると、さっそうと部屋から出ていった。
父は娘に事を伝えると、二人とも部屋から出ていった。
「独りになってしまったぁ…食われんよなぁ、俺」
未知への心配を払拭するため、くだらない冗談を飛ばし、記憶のたぐり寄せ作業を続けた。