第二話 微動だにしない妙な男
一方その頃、斧を持った子連れの男がいた。
背中には薪束を背負っていた。
腰に短剣を一振りさしており、見たところ少し刃こぼれがあるようで使い込まれた感じはするが、いまだ現役なのだろう。
革の帽子は少し縮んでいて、ところどころ縫い跡が見受けられる。
子どもは十代の少女で、頭にスカーフを巻き髪を隠している。
革ベルトには荒布のポーチがいくつか付いていて、男と同じく短剣をさしていたが、この短剣は少し小さく文字が彫ってあった。
薪集めから帰っているであろう彼らは、倒れた男が獣に襲われている現場に出くわした。
二人は思わず息を飲んだ。
両人共に、男は斧を少女は短剣を抜いて構えた。
男はゆっくり前へ出て、少女を制止するように手合図を出す。
男は獣が何を襲っているのかを確認したかと思うと、突然目の色を変えて声を張り上げ走り出した。
力いっぱい斧を振り回し、獣を牽制すべく群れへ割り込む。
突如現れた奇声を上げる人間の登場に獣たちは怯み、獲物から離れた。
だが、低い唸り声を上げながら引いた場所から(それは俺達の獲物だ)と主張すべく男を睨んでいる。
男は一歩前へ出、斧を振り上げつつ咆哮をあげると、獣たちは来た道へと逃げていった。
奇妙な有様であった。
倒れた男はひどい傷を負っていた。
薄土色や薄茶緑色の斑点の服の上から、腕や腹や足へと深く噛み跡を残していた。
どくどくと血は流れるが、男は眠ったままである。
幸い首は噛まれておらず致命傷は無い。
だが、倒れた男から争ったり抵抗したりした形跡がない。
そして、あたりには奇妙な深緑の直方体の箱が倒れている。
明らかに布でできているが、革鎧のようにしっかりとして、幾つもの湾曲型のオレンジの箱が入ったポーチ付きのエプロンのようなものと、奇妙な機械が男の近くに落ちていた。
木製部分もあるが、その他は少し暗いグレー色が占めていた。
そのグレーにはところどころ切り傷のような跡があり、そこから小さく銀色をきらめかしていた。
グレーから一本、エプロンのポーチに入っているオレンジの湾曲箱が突き出ていた。この男、妙ではあるが、そんなこと言っている暇はなかった。
「ドゥ・トォッ・シャムヴァラ・ジート」
男が少女に言うと、彼女はポーチから薬草を取り出し、短剣で切れ目を入れ樹液を滴らす。
男は謎の男の上着を脱がせ、ズボンを脱がせる。
そして、薬草から滴る樹液を傷口に垂らし、自分のチュニックの袖を破ると、傷口に薬草の葉と一緒に巻きつけた。
一通り終わった頃には陽はすっかり沈みかかっていた。
男は謎の男を担ぎ、持てるだけの謎の男の荷物を持つと、二人は他の荷物を置き去りにし、家へ帰っていった。