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第十八話 屋敷内

ヨウヘーはスタコラと排水管を登ってしまった。


ウリャーナも後を追うように登る。


ヨウヘーの動きには機能的な美しさがあった。


洗練されたような機械のような正確さだ。


おそらく何十、何百と同じことを繰り返してきたのだろう。


走るときも音を立てないように、また銃が音を立てないように押さえて走っている。


場所を移動する際は死角を気にして、角は必ず視認してから進む。


室内戦に慣れた歴戦の戦士。


それに付き従う自分があまりにも蛇足なのではと思ってしまう。


なぜ、ヨウヘーは自分を退けなかったのだろうかと疑問を持ちながらも後ろを離れないように動く。


幸い音の出るようなものは持っていないので、邪魔にはならないだろう。


ヨウヘーは一部屋ずつドアをゆっくり開け、ナイフと小さい銃を構えながら入っていく。


元来より、軍隊というものは両陣営、陣地を築き合い、それらが交差する線(前線)の押し合いへし合いをするものだ。


傭兵もこれらに投入される。


なので、開けた平野、窪地、時には市街地でもこの前線を張って戦う。


これには一部屋一部屋を的確認する技術など必要とされていないのだ。


それがこの男は持っている。


そもそも根本的な戦闘ドクトリンが違うのだろうか。


この男は一体どんな戦いをしてきたのだろうか。




 ウリャーナは短剣を握りしめていた。


ぐるぐるといろいろな思考が頭を駆け巡る。


短剣をこれほど固く握ったのはブラッド・ウルフ襲撃以来。


まさか小娘の自分が洋平の後ろに付くことができるのだろうかと思うのも束の間。



 洋平が扉を開くと、そこには変わり果てたダヴィが倒れていた。


顔をパンパンに腫らしていて目が二倍の大きさになっていた。


鼻はへし曲がっており、血の乾いた跡がチュニックにシミとして残っていた。


その目には生気が灯っていない。


「ダヴィ!」


洋平は駆け寄り、後ろ縛りの手縄を切ると、肩を揺さぶった。


胸が少し膨らみ萎むのを繰り返しているのが見えた。


そして、目に少しずつ生気が灯るとともに涙があふれだした。


「死んだよ」


声はうつろで軽く舞い、ストンと洋平たちへ落ちた。

ポツリポツリ…


「…やはり私は頼りない夫…だっ…た…」


嗚咽を混じり混じりで言う。


「モウ行こウ。ココに居るのハ危ナイ」


洋平に立たされながら大粒の涙を流し、俯き自虐の毒を吐き続けるダヴィ。


「私が死ぬべきだった。あそこで…あんな…まんまりだ…なんで。私は…」


「行くゾダヴィ、今ハココを出ル」


クリンコフのセーフティーを一番下に落とし、扉を開く。



「なぁ、あいつの顔見たか。はははは。ブドウみたいになってやがったぜ」


「ああ。二倍の大きさに熟れてやがった」


廊下を歩く賊徒の目に、奇妙な銃を持った、土茶緑の斑模様の服を着た男が部屋から出てくるのが映った。


「お前誰だ!」


一人は腰から湾曲刀を、一人は胡椒すり器(ペッパーボックス|《*6》)のような見た目をしたピストルを引き抜いた。


「何しに来た! 答えないと撃つぞ!」


脅し文句を吐き捨てる賊の一人。


「撃つ気ガナイならソイツヲ向けルナッ」


タン…

廊下内を轟音が鳴り響き、ペッパーボックスを持った男が後ろ向きに倒れた。


湾曲刀の賊が、洋平に向けて走り出したのをすかさずタタンと、胸に二発、頭に一発撃ちこむと、辺りは余韻の後、静寂に包まれた。


洋平はペッパーボックスを拾うと、ドアから覗くウリャーナに渡し言った。


「使イ方簡単。敵に向けテ引き金引ク。ソレダケ。シッカリ握レ」


「ど、どうするの?今から?」


「ダヴィ連れテ来タ道ヘ帰ル。追っテ来ル。オレ食い止めル。分かっタら行ク!」


追い立てるようにウリャーナを来た方向へ戻し、前を警戒しながら後退する。


バルコニーに出たウリャーナは、登った柵に手を掛けまたごうとしたが、咄嗟にその手を止め、再び扉のほうへ走っていった。


目の前を松明の明かりがちらほら照らしていたのだ。


急いで洋平のもとに戻り言った。


「来た道はだめ。賊が多い」


「クソッ。撃っタ音デ気づカレタ。コウナルと、強行突破ヲ覚悟、セネバ…」


ふと隣を見ると、そこにいたはずのダヴィがいない。


後ろを振り返ると、ふらふらと屋敷の廊下を歩きながらブツブツと何か呟いている。


「ダヴィ! 戻っテ! 危険。ココを離れル」


ダヴィはただふらふらと廊下の角へ消えていった。


「マズイ…ダヴィを追う。ウリャーナは降リルタイミング見つケル。頃合イデ降リロ」


「ヨウヘー、ちょっと待ってよ…」


ウリャーナの言葉を聞くことなく洋平はダヴィのもとへと駆け出した。

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