第十七話 屋敷
(血の匂いがだんだん濃くなっている…)そうジョートルの鼻が危険を察知していた。
夕暮れが屋敷の影に隠れるように沈み、辺りが暗くなっていく。
屋敷は立派な石レンガ造りで、二階建ての平屋根の建物であった。
庭は広く、ヘッジアートが多数見受けられる。
女神やそれに追随する重要な信仰対象なのか、もしくは家主の知人女性なのか。
それらを囲う形で高い鉄柵があり、道路の正面には鉄柵門があった。
三人は門に近づく。
誰もそこにはいない。
「おかしい…門番がいないのう…領主様が門に門番をつけない訳が無い。領主様が不在でも起こるはずがない…」
「モシカシタラ、領主様ガ文句を付けられナイ状況カモ」
「あいつらが追い出しちゃったのかな…」
三人とも背中に冷や汗を垂らした。
「いずれにしろ、賊共が増長していることは確かじゃ…どうしたものやら…状況が余計こじれてきておる」
「簡単。門番イナイなら入るマデ」
クリンコフが固く握りしめられた。
「お前さんはバカか!? 領主様の敷地内に無断で侵入したことが知れたら、どうなることやら…そもそも、中に何人居るかも分からんのだぞ。もしかしたら賊どもが屯しているかもしれん!」
「カマワナイ。コノ子の親を助ケルためナラ命は支払エル」
洋平が門を開け、そのまま走って敷地内へと消えていく。
「無謀じゃ…」
洋平の後を追うようにウリャーナも門に向かうが、ジョートルが立ちふさがる。
「お前は行ってはならん」
「そこをどいて、おじさん。私行かなきゃ」
「中は賊どもでうようよかもしれん。それに…中からきな臭い匂いがするんじゃ。お前には危険すぎる」
しばらく無言が間を差した。そして諦めたようにウリャーナが言った。
「そうね。じゃぁ私が何を言っても無駄ってことね…」
肩を落としたウリャーナは門から離れ、鉄柵沿いを歩き出した。
「お父さんとお母さんがあの中に居るかもしれない… 行かなきゃいけないッ」
ウリャーナは駆け出し、助走の勢いで飛び、鉄柵に飛びつくと登り始めた。
「ウリャーナ! お前、何をしている。早く降りてきなさい!」
それに耳を貸すことなく登り終えると、鉄柵から飛び着地。
そのまま洋平の方へ駆け出した。
洋平は玄関の扉の前にいた。
扉に耳を当て中の様子を確認する。
(人の様子は…一人二人。門番役の可能性アリ。迂回や窓からの侵入が望ましいだろう)
音を立てずに屋敷の窓へ向かって走っていった。
その窓はカーテンで覆われていた。
中の様子は、辛うじての隙間から確認ができる。
開け放たれた扉から廊下の明かりが部屋に入っている。
扉横の廊下から人影が見えた。洋平は次の窓へ移動した。
次の窓にはカーテンが掛かっていなかった。
扉は閉められており、明かりも灯っていないので、様子が分かりづらいが、外の夕暮れ明かりが辛うじて暗い部屋を照らしていた。
床には何かが散乱していて、タンスや椅子のような家具が無造作に倒されている。
(他の侵入経路を確認する必要アリ)
次の窓に移動しようとすると、後ろから気配を感じた。
ナイフの柄に手を掛け振り向くと、そこにウリャーナが身をかがめていた。
「…音ヲ立てナイようニ。身ハ小さク」
そう言うと次の窓へ移動した。
次の窓からは声と音が漏れていた。
壁を這うようにそっと近づく。
音が不明瞭で内容が分からない。
顔を少しでも出せば丸見えだろう。
(感じる…このきな臭い感じ。これは紛れもないロクでもないの匂いだ)
その窓を離れ進むと排水管を見つけた。
クリンコフにセーフティーをかけ、排水管を登り、バルコニーへ手をかけ頭を出しすぎないように覗く。
(クリア…侵入経路確保)
バルコニーへ登り、スタコラと扉前へ駆け寄る。
腿からナイフを抜き、扉へ耳を当てる。
音は聞こえない。
音を立てないように扉を開け、そろりと屋敷内に侵入した。




