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第十話 賊

翌朝…


 庭の周りには、トカゲウネやカベクイが雑草として自生している。


これは優秀な肥料として農夫に売れ、栄養価の高い野菜として食べられる。


洋平はこれらを鎌で刈っていた。


次また収穫できるように少し残しておくように、という言いつけを守り、引っ掴んだ茎めがけて鎌を一振り。


踏まれたことで少し潰れた雑草に乾いた血染みがついていた。


ダヴィの血かあの獣の血か。


どうしてあの地獄へ戻りたいのかと、黒ずんだ酸化血痕が問いかける。


すると、パカラッパカラッとリズミカルな音が遠方から聞こえてきた。


(蹄の音。農夫で牛やロバならあり得るが、これは明らかに馬だ。となると…)


顔を上げるとこちらに向かってくる馬が二頭見えた。


騎乗者たちは平民には見えないが、貴族にしては品性が欠けた見た目をしていた。


近づいてくる馬たちは砂煙を立てて、ダヴィ宅前で停止した。


降りてきた二人の腰には湾曲刀が吊されている。


ヒゲは生やしっぱなしで粗暴な性格がにじみ出た人相の二人は、洋平の前へ立った。


「ダヴィタはいるか。昨日、この家で肉を食っているという密告があった。肉は領主様の許可証を持ったギルド商人からしか入手できんはずだ。それ以外の商人から入手した場合は厳罰に処される。分かったら家主をだせ、そこの平野顔の召使い」


なぜ昨晩何を食べたのか分かっているのか、はてまたなぜそれが問題になっているのか、疑問に思いながら鎌をさくさくと振るう。


「肉ハ食った。事実。だが、買ったモノではナイ。狩りの収穫。オマエらの言ったナイヨウだと、この家のダレも法をイツダツしていない。ソレにダヴィはいない。帰って出直シた方イイ」


「何だこいつ。まともに言葉しゃべれねぇじゃねぇか」


二人目が口を挟む。


「もっとわかりやすくいわねぇとわからねぇか。お前たちが、肉を勝手に食うことがだめなんだよ。領主様に告げ口されたくなかったら、俺達にその肉を渡せ」


「コトワる。肉食いたイなら自分でトれ」


洋平は草籠と鎌を置いて向き合った。


「こいつ、まともに喋れねぇくせに生意気だなぁ」


「こいつは異国人だぜ。きっと奴隷が脱走したんだよ」


ふと洋平の背中が殺気を帯びるが、二人は気づいていないようだ。


「奴隷のくせに俺達に生意気な口聞けるって、しつけが足りないようだな、ボーよ」


「たしかにな。召使いのくせにしつけがなってないとは家主が可愛そうだ。俺達でしつけなくちゃなぁ、ダン」


二人は腰の湾曲刀を抜いた。


下品に舌をだらんと口から垂らしている。まるで、猟奇殺人鬼のマネをする中学生のようなイタさである。


ふと懐かしさを感じていると、ウリーヤが家から出てきた。


「ヨウヘー。大丈夫ですかっ…あなた達。なにしに来たのですか!」


「ウリーヤさんじゃぁありませんかぁ。いやぁねぇ、タレコミがあったんですよぉ。このお宅で肉が食われてたって。でも領主様直轄のギルド商人たちの肉の購入リストの中に入ってないんですよぉ、あなた達。意味わかりますぅ」


ダンと呼ばれた男の刀身がウリーヤに向く。


「わたしたちが、肉を非正規の方法で購入したと言いたいのでしょう。でも、わたしたちは、狩猟や農林を生業としています。ここまで申せば、貴方がたなら理解していただけるかと思いますが」


ダンは、呆れたように首を落として横に振っている。


「残念です…理解ある方だと思ったのに、な、ボー」


「そうそう。おれたちゃあ、あんたらが正規で買おうが非正規で買おうがどうでもいいんだよ。わかるかぁ、ええ!」


(ちょっとまずいなぁ。コイツラも気が立っているが、俺の気も立ってきている…抑えがきかんやもしれん)


「俺達が、リストに無い者が肉を食っていたと通報すれば、貴方がたは厳罰を受けてしまう。それだけ危ない行為をしているのだと俺達は言いたいんだ」


沸々と沸点に近づく溜飲が洋平を蝕む。


「それハ、オマエタチが頭足らズだかラだ。カンタンな話。猟師ガ肉得ル方法は買うだけじゃなイ」


ダンが言葉を遮りながらウリーヤに言う。


「奥さん。召使いはしつけたほうが良いですよ。貴方の身のためにも忠告しておく。生意気な召使いは、叩き切られても罪には問われないからなぁ。ましてや、領主直属の間者に生意気な態度ならなおさらだ」


(いかん…抑えが効かん…)


「オレ召使いじゃナイ。そしテ、子犬に切られル程、オレ弱くない」


咄嗟に、ダンが刀を洋平目がけて振り下ろした。


刀身が洋平を捉える瞬間。


そう、それは瞬間の出来事であった。


瞬時に懐に潜り背を向けると、振り下ろされる腕を、肘を支点にして肩に導くように手を添え、前腕に体重をかけた。


ダンの刃は空を切り、腕は肘が可動域を超えて「く」の字に曲がり洋平の肩に乗っていた。


洋平は、ダンの折れた腕を肩に乗せたまま一本背負いの要領でダンを投げ飛ばした。


目をまんまるにしていたボーは我に帰ったのか、雄叫びを上げて走り出した。


「ダン!くっそ。平地野郎、死ね!」


突きを仕掛けるボー。すんでのところで躱し、足をかけ顎を押すように倒した。


そして顎を一踏みで外した。


「まだヤるか?まぁ帰っタ方イイ。治療シナイと喋れナイ、一生」


二人組はそそくさと馬に乗り、顎と腕をぶらぶらさせながら走っていった。


「ヨウヘー、大丈夫ですか?怪我はありませんか?」


「大丈夫。アイツラ弱イ。」


(チンピラではあるが、ここの領主とつながりを持っていると言ったなぁ。一匹一匹なら対処はできんこともないが、領主様が絡んでくると、ことが厄介だ。まずいことをしてしまったぞ)


「アイツラ領主と関わってる言っタ。手ヲ出しテしまっタ。スマナイ」


「良いのよ。彼らには良い薬よ。領主様権限だとか言ってますけど、本当はどうなんだか。そして仮に領主様が直々に伺われるのでしたら、それも問題ありませんわ」


「問題ナイとは?」


「もし領主様が、彼ら賊のような者の言う事を真に受けて、私達を罰するのなら、その首、掻っ切って差し上げますわ。ふふふふ」


(ウリーヤさん…たくましすぎないか…)


「ほんの戯れですよ。もう、安心してください。領主様は分別のつく方と思いますので、それには至らないと思いますよ」


 二人の人影がこちらに歩いてくるのが見えて少し身構えた洋平。


だが、よく見るとそれはダヴィとウリャーナのもので、安堵すると作業を再開した。

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