人生初ライブ
いよいよ本番が近づいてきた。体はガタガタと震えて、口の中はとても乾燥してきた。ケンちゃんの方を見ると、何度もチューニングをしなおしていた。そして爪を研ぎ、手のケアをしていた。彼もかなり緊張しており、ドリンクを飲む手は震えていた。
「よし、君たちの番だぞ!」
スタッフに呼ばれた私たちは、なるべく緊張を隠しながら舞台に上がった。客席を見渡すと、ざっと100人はいそうな舞台だった。全員がこちらを見ている。既にいくつかのバンドは演奏していたからか、ステージはあったまっていた。
観客席の前を陣取っていたのは、いかにも不良といった感じで、時代遅れのリーゼントにビール瓶片手に大声で何か言っていたが、もはや呂律の回っていない彼らが何と言っていたのかは聞き取れなかった。私はできるだけ彼らを見ないようにギターアンプの前に立ち、セッティングを始めた。すると不良グループの1人が
「何ガタガタ震えてんだよ!」
と叫んだ。何事かと思って見ると、ミッキーが緊張してなかなかセッティングが終わらず、それをヤジっていたのだ。ミッキーの目にはうっすら涙が浮かんでいた。ケンちゃんが「うるせぇ!」
と叫び、イントロを弾く。パフォーマンスはそこまで悪くなかった。ボーカルはドライブしてたし、ギターはこれでもかというほどに歪んでいた。ドラムの顔は快楽を感じたかのような光悦な表情を浮かべながら、突き破るように叩いていた。ミッキーの涙も引っ込み、さっきの弱々しさはどこへやら、力強いベースラインを演奏していた。観客の怒声とバンドの音量は、まさにカオスそのものだった。後ろの方は盛り上がってるのか、かなり動きが見えたが、先程の不良が今にも舞台に上がってくるのではというほどに前のめりになっていた。
事件は起きた。とうとう不良が舞台に手をかけ、上がろうとしたのだ。そこをケンちゃんがテンションが上がっていたのだろう、蹴飛ばしてしまった。彼としては「離れろよ」くらいの気持ちだったのだろう。しかし、血色を変えた不良はケンちゃんに殴りかかったのだ。その時私は――不良の頭にギターをかち込んでいた。1人伸びて、私に気付いたもう1人が私に突撃してきた。人生で殴り合いはほとんどしたことがなかったが、右手を出したら次に左手を出すことは分かっていた。そうやってそれらしきことをすると、スタッフが飛んできてその乱闘を止めに来た。しかし私達は若かった。まずスタッフを倒してから不良に再び殴りかかり、髪の毛を引っ張り、口を裂こうとした。向こうも負けじと襲いかかる。客席から舞台に上がり込み、混乱に乗じて機材を破壊したり、他のメンバーに襲い掛かろうとする者もいた。とりあえず女性メンバーはスタッフに連れられ舞台裏に逃げた。クロはというと、ドラムキットの裏で隠れていたが、やがてそれらが破壊されると、彼の姿は露わになった。彼は「うおー」と戦おうとする前にスタッフに止められ裏に連れて行かれた。
「もう終わりだ、照明をつけろ!」
管理人がそういうと照明がつけられ、大乱闘は少しずつ収まり、人生初ライブ(?)は終了した。
「お前ら、何をしてるんだ!」
顧問が血相を変えて舞台裏に飛んできた。管理人も、
「こんなに大暴れしたバンドは初めてだよ。うん、、」
と、呆れた表情をしていた。
不良たちは追い出されたようだった。そしてぐしゃぐしゃになった舞台を、スタッフが片付けていた。その姿を見ると、さっきまでの自分たちがとても惨めで幼稚に思えてきて、スタッフに申し訳ない気持ちになった。
「まぁ、お客さんもエキサイトしてたし、ね?今回はいい経験になった。現状復帰できるだろうし、今回は許しますよ。久しぶりに乱闘も見れたし」
「そうですか、すみません……おい高橋、そして村田。お前らはしばらくバンドをやめろ」
この処分は妥当だろう、と思った私は何も言い返さなかった。私とケンちゃんは責任を感じ、部活を辞めることにした。そのため、バンドも一時的に解散してしまった。




