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初めてのバンド練習

初ライブを迎えるにあたって決めなければならない事がいくつかあった。

 まずは曲。しかしこれは顧問から数曲課題を出され、その中から好きな曲を選んでもいいと言われたので、とりあえず私とケンちゃんが好きな古いロックンロールを選択した。他のメンバーも概ね同意してくれた。

「アタシ、英語の歌なんて歌った事ないわよ」

「まぁ、雰囲気でいけるでしょ」

 5人全員が甘い見通しだった。そして初めてのアンサンブル。1人でギター練習した時とは感覚が違う。思ったよりクロのビートがよれているのだ。速くなったり遅くなったりしている。彼の表情を見ると、これまでに見たことのない顔つきだった。真剣というのか、精一杯になってるのか、とにかく変な顔だった。足立のベースもパンチが足りない。ボリュームも小さいし音もモコモコしている。何とかアタックを出そうと体を動かしているが、その分タイミングがズレていく。何よりボーカルだ。発音がダメなのはまだしも、アクセントも上手くいってない。

「もういい、もういいよ!」

 とうとう顧問が怒鳴った。

「お前たち、何を練習してきたんだ!?リズムもよれて、歌も調子はずれ、こんなのなら近所の小学生の方がよっぽどできるぞ!下手くそ!」

 何も言い返せない。

「お前らなぁ、音楽舐めてるだろ。歌詞もしっかり読んでないだろ。ギター、2人とも、息が合ってない。アンサンブルだぞ?何独りよがりの演奏してるんだよ!そんなんならバンド辞めちまえ!」

 まずい、このままじゃバンドを辞めさせられる。嫌だ。こんなに頑張ってきたし、まだこの物語は始まったばかりなのに……

「顧問、すいませんでした。もう一度やらせてください。と言っても今日はまだ未熟かもしれません。でも来週には、見違えるパフォーマンスをしてみせます」

 意外にも、飯田が啖呵を切った。これには顧問も目を大きくし、

「分かった、そういうなら猶予をやろう。しかし、そのままの練習だとダメだぞ?やり方を変えるんだ」

 顧問も人間だ。話せばわかる。なら最初から暴言を吐かず、怒鳴らずにアドバイスしてくれればいいのに。しかしこれ以上不満を募らせても仕方ない。私達の初アンサンブルは、グダグダに終わったが、次回のために沢山の収穫があった。

 まずはドラム。徹底的に8ビートを体に叩き込む。自分はメトロノームだと言わんばかりに刻み続けた。彼の手には血豆が沢山でき、スティックの破片はそこらじゅうに落ちてた。汗はびっしょりで、シャツの色はグレーから黒に変色していた。

 ベースも同じく徹底的にリズム練習、そして運指を重点的に行った。彼女は芯のない人間だと思ったが、思ったよりも根気強い。そしてフレットを睨む目はとても怖く、血気迫るサウンドになった。一通り練習を終えたベースのフレットには、血のようなものが滲んでいた。

 ギターは、2人がどう絡んでいくのかを緻密に話し合った。リードパートはとことん前に出て、そうでない時は2人で独自のグルーヴというものを出せるように試行錯誤した。完璧にバシッと合わせるより、少しルーズに合わせた方がより「生々しさ」が出てきた。

 そしてボーカルは……ひたすら、原曲を聴き込み、歌詞を理解した。

「何よこの歌詞、生々しすぎる!」

 浮気や夜の話などを赤裸々に歌った歌詞は、母国語でなければ気付かない。ただ知ってしまった時に抵抗が生まれてしまう。彼女はどうするのか。

「もういいわ。アタシだって最初は知らなかったんだし、今更恥じる必要はない。こうなったら堂々と歌ってやるわよ」

 そう言ってからの彼女はすごかった。まるで何かに取り憑かれたかのような激しく、しかし女性ならではの繊細な歌声に、思わず他のメンバーは閉口してしまった。

「どうしたの、アタシ、やっぱりだめ?」

 誰も口を聞けなかったが、それは圧倒されていたからだ。しばらくしてケンちゃんが

「……いや、素晴らしいよ、本当にすごかった。感動した!何も言葉が出なかった。その感じ、絶対忘れるなよ。どのボーカルよりもすごいんだから」

 と、最大級の賛美を送り、練習は熱い情熱のまま終了し、次のアンサンブルの日になった。

 結果、顧問に褒め倒された。前回の君たちとは違う、何故ここまで変われたんだ、とベタ褒めであった。私たちは照れつつも感謝の意を示した。鼓舞してくれた顧問がいなければ生ぬるくやっていただろう。それはそれで楽しいのかもしれないが、やはり熱中して行動したものは、何か自分の為になったのでは、と感じれたからだ。手応えもあったし、メンバーの絆も以前より深まったような気がした。

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