カラクリ忍者外伝:禁断の錬金術
序章 決意の刃
ユリの稼働限界を知った夜から、ナオキは眠れぬ日々を過ごしていた。
ユリの笑顔を失いたくない。だが、寿命を覆す術はどこにもない。
――その時、彼の耳に届いたのは「禁断の錬金術」の噂だった。
古来、失われた命を繋ぐとされる秘術。
人の魂を歯車に宿し、機械を生まれ変わらせる。
だが、その代償は――術者自身の命。
「俺が死んでも、ユリは生きられる……それでいいのか?」
ナオキは迷った。
だが、答えは一つしかなかった。
「俺はユリを救う」
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一 黒の錬金書
ナオキは旅に出た。
向かう先は、かつてカラクリ忍を生み出した「蝦夷の古研究所」。
廃墟と化したその奥で、彼は黒く煤けた巻物を見つける。
《黒の錬金書》――禁断の術が刻まれた禁書。
そこに記された術式は、常軌を逸していた。
ユリの魂を機構から一度剥離させ、ナオキ自身の命を媒体に再錬成する。
成功すればユリは“新たな時”を得る。
だが、ナオキは消える。
「……構わない」
ナオキは拳を握りしめた。
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二 ユリの拒絶
旅から戻ったナオキは、すぐに術の準備に取り掛かった。
だが、それを知ったユリは顔を強張らせた。
「ナオキ、それを使うつもりなの?」
「ああ。これでお前は生きられる」
「馬鹿なこと言わないで! あなたが死んだら、私は……!」
ユリの声は震えていた。
寿命を悟った時ですら見せなかった激情だった。
「私は造られた存在。終わるのが運命なのよ。
それを無理に繋げば、あなたまで失う……!」
だがナオキは首を振った。
「運命なんて、俺が斬り捨てる。ユリ、お前を失うくらいなら俺は……」
言葉を重ねるほど、二人の心はすれ違っていった。
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三 襲い来る影
その夜、廃寺を拠点にしていた二人の前に、妖怪の群れが現れた。
地獄の門から漏れ出した残党。
ユリは刃を展開しようとする――だが、やはり半分しか出ない。
「くっ……!」
ナオキが前に出て、群れを一閃に薙ぎ払う。
血に染まりながらも立ち続ける彼の背を見て、ユリの心は張り裂けそうになった。
「ナオキ……どうしてそこまで……!」
「お前を守りたいからだ!」
その叫びに、ユリは初めて悟った。
――彼は本気で、自分の命を捨てる覚悟をしている。
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四 儀式の夜
満月の夜。
ナオキはついに禁断の術式陣を描き終えた。
黒の錬金書を開き、血を灯明に混ぜる。
「ユリ、そこに座れ」
ユリは静かに首を振った。
「ナオキ……あなたが死んでまで私は生きたくない」
「俺は……お前がいない世界に生きたくない」
沈黙。
二人の視線が絡み合う。
やがてユリは震える声で言った。
「だったら……私の“核”を使って。
私の心をあなたに渡す。そうすれば……一緒にいられる」
それは自己犠牲だった。
だがナオキは首を振り、ユリを抱きしめた。
「違う……二人とも生きる方法を探すんだ」
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五 紅の奇跡
儀式が始まった。
黒い光が渦を巻き、ユリの身体を覆う。
歯車が砕け、術式がユリの魂を引き剥がそうとする。
「……ぁ、ああああ!」
ユリの声が響く。
ナオキは自らの血を供物に捧げ、叫んだ。
「俺の命を持っていけ! ユリを繋げ!」
だがその瞬間――光が赤に変わった。
術式が拒絶したのだ。
「……なぜ……!」
ナオキが倒れかけた時、ユリの手が彼を抱きとめた。
「ナオキ……あなたの心が、術式を拒んだの。
本当は死ぬ気なんてなかった……一緒に生きたいって、願ったから」
術式は暴走し、二人の魂を同調させた。
結果――ユリのシステムはリセットされ、再生の時を得た。
だが同時に、ナオキとユリの心は深く結びつき、互いの感情を共有する存在となった。
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終章 永遠の契り
夜明け。
ユリは立ち上がり、震える手を見つめる。
「……動く。身体が軽い……」
ナオキは微笑んだ。
「禁断の術が……二人を選んだんだな」
ユリは涙を零し、彼の胸に顔を埋めた。
「ありがとう……ナオキ。あなたがいたから、私はまた生きられる」
そしてナオキも強く抱きしめ返した。
「これからは二人で、生き続けるんだ」
黒の錬金書は灰となって消えた。
禁断の術はもう存在しない。
だが――二人の絆こそが、最大の奇跡だった。
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【外伝④:禁断の錬金術 完】




