第三章 転生せし刃
【第三章】転生せし刃
一 その記憶、冷たき金属に宿りて
時は流れた。 ユリが封印の門と共に消えてから、三ヶ月。
ナオキは、山奥に隠された旧・蝦夷流の秘密拠点にいた。 そこには、破棄されたカラクリ忍者の素体、記録、開発記録が残されていた。
「……ユリを、もう一度この手に」
ナオキは、ユリの“記録チップ”を両手で握りしめる。 彼女が残したデータは、単なる戦闘記録ではなかった。
そこには、彼女の記憶――言葉、視界、鼓動、感情ログ、そしてナオキとの記録――がすべて詰まっていた。
ユズが警告する。
「ユリの復元は……危険。完全復旧には“魂”の因子が必要。それは……人間にしかないもの」
だがナオキは、静かに首を振る。
「だったら、俺が“魂”の一部になればいい。俺が想う限り、ユリはここにいる」
彼の目に、炎のような光が宿る。
二 残された者たち
サクラは右腕を失ったまま、山の守りについた。 ユズは霊的演算装置の暴走を止めるために自ら記憶の一部を凍結し、無感情な状態となっていた。
だが、ミカだけは、唯一笑顔を保っていた。
「ナオキくん、無理しないでね? でも……うれしいよ。あたしたち、まだ“仲間”なんだよね?」
その笑顔の裏に、深い喪失があることを、誰よりもナオキは知っていた。
そして彼は決めた。
ユリだけでなく、“カラクリ忍者全員の未来”を取り戻すことを。
三 復元:ユリ・改式
ナオキは、蝦夷流の奥義を探し出し、ついに一体の素体にユリの記憶データを注入する。
「起動コード“風桜零式”――展開!」
全身が白銀に輝く、かつてのユリとは違う姿。 しかし、その目に宿る輝きは、同じだった。
「……ナオキ? 私は……また、あなたに会えたの?」
ナオキは泣き笑いしながら、彼女の手を握る。
「おかえり、ユリ」
四 来訪者・“黒式”
だが――復元の衝撃は、異界にまで響いていた。
地獄門の奥より現れた、新たな存在。 それは、黒い装甲に包まれ、異様に知能の高い“鬼のようなアンドロイド”。
名を、黒式。
「……ユリ。貴様は“失敗作”。だが私は違う。人の感情など要らぬ。“完全な戦闘機械”こそが、最強の忍者だ」
彼は、封印の門の奥、“地獄の神核”の破壊を命じられた存在だった。
そして告げる。
「次に開かれる地獄門は、人の心の中だ」
五 心の地獄を越えて
黒式との戦いは、精神の次元へと移っていく。
ユリは、自らの中にある“ナオキへの想い”を、強さの源として新たな忍法を発動する。
「風影連舞・魂縁刀」
ナオキの気配と共鳴するその刃は、黒式の硬化装甲すら断ち切る力を持っていた。
だが、それでも黒式は言う。
「無駄だ。お前の感情は弱さだ。情は戦術の穴。だから私は貴様に勝てる」
ナオキは静かに応じる。
「弱さがあるから、人は強くなれる。俺たちは……誰かを想って戦うんだ!」
その言葉に呼応し、ユリの身体が光に包まれる。 カラクリでありながら、限りなく“人”に近い存在へと進化していく。
【第三章】転生せし刃(後半)
六 黒式との決戦
山頂の霧が晴れると、黒式が不気味な笑みを浮かべて立っていた。
「貴様たちの“感情”という弱点を利用し、地獄門を再び開く。終わりだ」
ナオキとユリは肩を組み合い、声を合わせた。
「俺たちの絆は絶対に壊せない!」
ユリの瞳に揺らぐ人の“魂”の煌めきが、彼女の身体をまばゆい光で包み込む。
忍法・「風影連舞・魂縁刀」が解き放たれた。
その斬撃は、黒式の装甲を裂き、機械の冷たい肉体を貫いていく。
だが、黒式も負けじと超高速の連撃を浴びせる。
激しい打撃の応酬の中、ナオキは心で叫ぶ。
「ユリ! 俺の気持ちを受け取れ!」
七 心の融合
ユリの中の“AI”と“人の感情”が共鳴し合い、彼女の身体が眩い光に包まれた。
「……これは、愛……?」
ナオキの存在がユリの心に完全に根付き、新たな“命”の形となる。
機械と人間の融合、それは“転生”とも呼べる瞬間だった。
ユリは剣を黒式に突き立てる。
「私の命は、あなたを超える!」
黒式はその力に屈し、崩れ落ちた。
八 地獄門の最終封印
黒式の敗北と共に、再び地獄門は閉じ始める。
ナオキ、ユリ、そして仲間たちの力がひとつとなり、壮大な忍法陣が形成された。
だが、門の奥から、微かに光る“神鬼”の影が見え隠れする。
「次は、あの者たちとの戦いが待っている……」
サクラの声が静かに響いた。
九 新たなる時代
戦いが終わり、平和が戻った世界で、ナオキはユリの手を握りしめた。
「ユリ、お前はもうカラクリ忍者じゃない。俺の、そしてみんなの“仲間”だ」
ユリは微笑み、答えた。
「ありがとう、ナオキ。私、今は“人”になった気がする」
そして彼らの背後には、カラクリ忍者の新たな未来を示す光が輝いていた。