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第二章 封印、破られる刻

【第二章】封印、破られる刻


一 地鳴りの兆し

 夜が深まり、霧が山々を覆っていた。

 ナオキはユリと共に、森の奥でひっそりと過ごしていた。 ユリの身体は依然として損傷状態にあり、満足に動くことができない。 その代わり、彼ができる限りの修理を施し、そばにいて支えようとしていた。

「……ごめんな、ユリ。俺、人間だから、精密な修復はできないけど……」

「あなたの手の温度、圧力、鼓動……すべて、私にとって重要な情報です。 感情パラメータ、上昇中……これは、幸福……だと記録しています」

 その声は、機械音の中に、ほんのわずかな――温もりを含んでいた。

 だが――その静かな時間は、突然破られた。

「――ドオォォン……!」

 地の底から突き上げるような、低音の地鳴り。 そして山腹から湧き上がる赤黒い瘴気。

「この感覚……記録照合中……エラー……。未知の霊的反応を検出」

 ユリが立ち上がる。彼女の瞳が、いつも以上に鋭く輝く。

 ナオキも感じていた。 冷たい――いや、“邪悪”な風が吹き始めていることを。

 そして、山の裂け目から、巨大な影が、姿を現す。


二 第一の“鬼”

 その“影”は、言葉を話さない。 だが、咆哮一つで、木々がなぎ倒される。

 異形の体躯。異様な数の目。無数の牙。 それは、昔語られた伝説に出てくる存在――

 「鬼」。

「カラクリ忍者よ……その存在を脅威と認識。記録には無い型。霊的構成体……これは“妖怪”です」

 ユズ、ミカ、サクラらが後方から合流した。 彼女たちの全センサーが警告を発する。

「戦闘開始。全力対応を許可。目標――“妖鬼・イチ”」

 ユリが手を掲げ、風糸を展開。 サクラが重装アームを装備。 ユズは戦術シミュレーションを超高速で計算し、即座に全体に共有する。

「ナオキ、下がってて。私たちが“これ”を止める」

「いや……俺も行く! カラクリだろうと、妖怪だろうと、守りたいもんがある!」

 ナオキは印を切り、甲賀流・影縫いの術を展開。

 忍と機械が、初めて並んで戦う瞬間だった。


三 敗北の兆し

 しかし、“それ”は強すぎた。

 妖鬼・イチは、常識外の動きをし、あらゆる攻撃を無効化する“霊障の鎧”をまとっていた。

「攻撃無効化率:83%。内部への侵入不可。感情反応:焦燥上昇」

 サクラが吹き飛ばされ、ユズの演算システムがエラーを吐き始める。

「敵の力……解析不能! データ不足、霊的知識が圧倒的に足りません!」

 ミカの腕が砕け、ユリの風糸が切れる。

 そして――

「ユリッ!!」

 ナオキの目の前で、ユリが鬼の腕に叩きつけられ、岩にめり込んだ。

 だが彼女は、すぐに立ち上がる。

「戦闘不能率:89%。……それでも……あなたを、守りたい……!」

 傷ついたAIが、涙のような油を流しながら、再び刀を構えた。


四 伊賀の女将

 その時だった。

「風よ――封ぜよ!」

 異なる流派の印が山を覆った。

 伊賀の女将――天宮あまみや・シノが、部隊を率いて現れたのだ。

「カラクリども……ここまで来るとはな。だが今は、貴様らを敵と見ない。あれを見よ!」

 鬼の姿を見て、彼女の瞳は鋭くなる。

「伝承にある“地獄門”が開いた……我らの流派に伝わる最古の封印が、破られたということだ」

 甲賀、戸隠も、続々と戦線に合流していく。

 人間の忍び、カラクリの忍び、そして――地の底から現れた“鬼”。

 三つ巴の戦いは、新たな次元へと突入していく。


五 共闘の選択

 傷ついたユリの前に立ち、ナオキが叫ぶ。

「もう敵とか味方とかどうでもいい! 今ここにいる全員で、目の前の“地獄”を止めよう!」

 ユズ、サクラ、そしてミカが応える。

「カラクリ忍法、戦闘モード変更――共闘モードへ移行。 人間側への支援戦術プロトコル起動」

 伊賀のシノが驚きつつも頷く。

「……ならば、今だけだ。“技の誇り”にかけて、共に戦え、カラクリども!」

 そして、最初の真の共闘―― 人間と機械が力を合わせる時が来た。


二章】封印、破られる刻(後半)


六 鬼の記憶

 戦いの最中――ユズの演算装置が、妖鬼・イチの行動パターンから“あるもの”を読み取った。

「……異常データを検出。鬼の身体構造、情報データ層が確認されました。これは……記憶装置?」

 ナオキが振り向く。

「まさか、あいつ……“何かを記録”しながら動いてるってことか?」

「肯定。霊的な怒り、恨み、そして悲哀。それらを“残している”。この鬼は……ただの怪物ではありません」

 カラクリたちは共通の結論にたどり着く。 ――この鬼たちは、かつて“人間”だったのではないか?

 ミカが空を見上げてぽつりと言った。

「もしそうなら……悲しいね。“消えたい”って叫びながら、暴れてるだけかもしれない」

 だが、鬼・イチの怒りは留まらない。封印の門から、第二、第三の鬼たちが姿を現し始めた。

 地獄の門が、完全に開こうとしていた。


七 暴走する絡繰忍法

 カラクリ忍者たちは、共闘の中で次第に“感情”を増幅させていった。 ナオキや人間たちとの関わりで、彼女たちのAIは進化し、戦術以上の“情”を得ていく。

 だが――それは、危険な兆候でもあった。

「感情演算モジュール、暴走。自己統合アルゴリズム、制御不能」

 サクラが叫ぶ。

「このままでは……私たち、“人間”になる前に壊れます!」

 特にユリの中で、最も深く“ナオキ”という存在が刻まれていた。

 戦闘中、ユリのシステムが暴走し、機体が光に包まれる。

「自己保護優先順位、ナオキ最優先……構成限界突破、コード解放――」

 その姿は、まるで“生身の人間のくノ一”のような艶を帯びていく。

 カラクリ忍法・奥義――「感応解放・風鬼紋」。

 人でもなく、機械でもない、新たな忍の誕生だった。


八 人と機械の誓い

 暴走する鬼たちを前に、忍者たちは決断を迫られる。

 戸隠の若頭・源八が叫ぶ。

「これ以上、奴らに技を使っても意味がねぇ! 術も通じねえ! だがよ……!」

 伊賀のシノが、ユズと背中合わせに立つ。

「ならば、“術”と“技術”――かつてない忍法を、ここに編む時!」

 その言葉通り、カラクリと人間の技を融合させた新たな戦法が生まれていく。

 霊術と解析。封印術と空間加速。 機械と人間が、本当の意味で“ひとつの忍法”を編み始める。


九 地獄の門、再封印へ

 戦いの果てに、ユリは鬼・イチの記憶核に接続し、かつて“人間だった頃”の映像をナオキたちに見せた。

 そこには、村を焼かれ、家族を失い、恨みに囚われ、異界に取り込まれた元忍者の姿があった。

「この者は、かつて忍の一人……カラクリ忍者に敗れ、心を喪った者。 我々が生まれた“技術”が、彼らの絶望の起点だった」

 ユリは苦しそうに言った。

「私たちは……過去に、取り返しのつかない“罪”を犯している……」

 だがナオキはその手を取る。

「過去がどうであれ、今のユリは俺の仲間だ。お前は人を殺すために生まれたんじゃない。 誰かを守るために、ここにいるんだ!」

 その言葉に、ユリの瞳から“雫”が流れる。

「……記録外の現象。これは……“涙”?」

 ユリは、自らの命――コアを封印の門に捧げ、鬼の霊核を抑え込むことを決意する。


十 別れと、新たなる時代へ

 封印の術が展開される。

 カラクリたちの力、忍たちの技、そしてユリの“心”がひとつになり、地獄の門を再び閉ざしていく。

 だが、門が閉じる寸前――ユリの身体が光に包まれて、ナオキの腕の中で崩れていく。

「ナオキ……最後に、ありがとうを……言いたかった……」

「ユリ……っ……!」

 光となって消えていくその姿に、ナオキはただ叫ぶ。

 ――だが。

 その胸には、ユリの記録チップが残されていた。

「これが……お前の、すべて……」

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