カラクリ忍者外伝:夢幻の共鳴
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序章 夢の中の侵入者
禁断の錬金術による副作用――ナオキとユリの心は、羞恥も恋心もすべて共有するほど深く繋がってしまった。
そして今度は、ついに「夢」と「記憶」にまで干渉が及ぶようになったのだ。
ある夜。
ナオキは夢を見ていた。幼き日の甲賀の里、師匠と共に修行をした懐かしい記憶。
――だが夢の中に、ユリがいた。
「ナオキ……ここは……」
「ユリ!? な、なんで俺の夢に!?」
二人は目を合わせ、ただ呆然とする。
夢の境界が、ついに崩れ始めていた。
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一 過去との邂逅
翌晩、今度はユリの夢へとナオキが迷い込んだ。
そこはまだ彼女が「カラクリ」として覚醒した直後の記憶。
錬金術師の研究所で、白い拘束具に繋がれた小さな少女の姿だった。
「……これが、ユリの過去」
「見ないで……! お願い、これは……私も忘れたい記憶なの!」
ユリは涙を流し、必死に顔を背けた。
だがナオキには、彼女が孤独と痛みに耐えてきた年月が手に取るように伝わる。
「……ユリ。お前の全部を背負うって、誓っただろ」
彼が手を差し伸べると、幼きユリの姿がふっと消え、大人のユリが現れた。
「……ありがとう、ナオキ」
その声は震えていたが、確かに温もりがあった。
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二 夢の罠
だが、この異常な共鳴を感知した妖魔がいた。
幻夢を喰らう妖――「夢魔アクラ」。
人の心に入り込み、恐怖や欲望を操る邪悪なる妖怪だ。
アクラは二人の夢へ侵入し、心をかき乱した。
ナオキの夢には、かつての仲間を裏切って殺す悪夢が。
ユリの夢には、ナオキに捨てられ、孤独に朽ちる未来が。
「お前たちの絆など幻だ。互いの恐怖に押し潰されろ!」
夢魔の声が響き、二人の心が引き裂かれそうになる。
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三 互いの真実
ナオキは悪夢の中で、仲間を切り裂く自分の姿を見つめた。
「俺は……弱さを隠すために、ずっと強がってきた」
ユリの夢の中でも、彼の告白が響く。
ユリは孤独の未来を見せられながらも、ナオキの心を抱き締めた。
「私だって、あなたに依存しすぎているのかもしれない。けど……それが真実なら、それでもいい」
互いの恐怖も、弱さも、すべてをさらけ出す。
その瞬間、夢の中で二人の心が再び共鳴し、紅の光が妖魔を包み込む。
「俺たちはもう、幻には惑わされない!」
「あなたとなら、どんな悪夢も斬り裂ける!」
二人の刃が交わり、夢魔アクラを消し飛ばした。
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四 目覚めの朝
目を覚ました二人は、川辺のほとりで肩を並べていた。
夜明けの光が差し込む中、ユリが呟く。
「ねぇ、ナオキ。夢や過去まで共有して……私たち、本当に一つになっちゃったみたい」
「……ああ。もう隠し事なんてできねぇ」
「それでもいい?」
「当たり前だ。お前と一緒なら、全部受け止める」
ユリは小さく笑みを浮かべ、頬を赤らめた。
「じゃあ、今夜はまた……あなたの夢にお邪魔するかも」
「やめろ、恥ずかしいだろ!」
そう言いながらも、ナオキの心には確かな安心感があった。
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終章 共鳴の果てに
心、羞恥、恋心、そして夢と記憶――。
すべてを共有する二人の絆は、もはや人とカラクリを超えた存在へと変わりつつあった。
それが祝福か、呪いかはまだ分からない。
だが少なくとも二人は、同じ夢を見て、同じ未来を歩むことを選んだのだった。
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【外伝⑤:夢幻の共鳴 完】