表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

序章 忍びの世に降り立つ機械の影

【序章】忍びの世に降り立つ機械の影


一 風の谷の甲賀

 山々が重なり合う近江国おうみのくにの奥深く、甲賀の里は霧に包まれていた。 夜明けとともに、若き忍――ナオキは、師である宗十郎のもとで修練に励んでいた。 その額からは汗が流れ、手には小太刀の痕。だが、その瞳に宿るのは疲労ではなく、燃えるような闘志だった。

「まだまだだな、ナオキ。お前の動きは人の読みを外せぬ。人の心を読むより先に、己の心を読め」

 宗十郎の厳しい言葉に、ナオキは歯を食いしばりつつも頷いた。

「はい……!」

 甲賀の忍びは、密かにして冷酷。だがナオキには、どこか優しすぎる面があった。 彼が戦いに躊躇するたび、宗十郎は口を閉じたが、同時にその「甘さ」に何かを期待している様子もあった。


二 現れた異形

 その夜、甲賀の西の山あいで異変が起きた。 見張りの忍が全員、音もなく消えた。 血の跡も、煙も、苦悶の声すらもなかった。そこにはただ――焼け焦げた土と、微かに光る金属の破片が残されていた。

「これは……何だ? 鉄……いや、絡繰からくりか?」

 宗十郎と共に現地へ向かったナオキは、焦げた跡の中心に何かが立っているのを見た。

 ――人影。 だが、それは人ではなかった。

 すらりとした肢体、艶やかな漆黒の髪。忍装束を纏ってはいるが、その動きには人間味がなかった。 金属の反射とともに、夜の闇に銀の瞳が光る。

「……敵か?」

 宗十郎が身構えた瞬間、その影はふわりと地面から跳躍した。足音すらない。 まるで風と一体となったように、近づき、宗十郎の首元に手刀を突きつけた――。

「目的は、交戦ではありません。情報収集です。反応がなければ撤退します」

 機械的な口調ながら、どこか女の声を思わせる。 ナオキはその場に飛び出し、小太刀を抜いて叫んだ。

「待てっ! お前は何者だ!」

 銀の瞳がナオキを見た。

「私は《ユリ》。蝦夷流絡繰忍法・零号機」

 その名は、まるで禁呪のように耳に残った。 絡繰忍法――。それはかつて、北の地で開発されていたという異端の術。 人ではなく、機械が忍びの技を用いるという、異形の存在。


三 運命の落下

 ユリは交戦を避けようとしたが、甲賀の精鋭が次々と現れ、戦いは避けられなかった。

「お前らのような外道が、忍びを名乗るな!」

「化け物が……!」

 甲賀の忍たちが次々に挑むが、そのたびに、ユリの華麗かつ超速の動きが彼らを地に沈めた。 ナオキもまた、気づけばその渦中にいた。

「止まれ……ッ!」

 彼は思わず飛び出していた。攻撃ではなく、止めるために。

 だが、足元の岩場が崩れ――

 彼の体は崖から、真っ逆さまに落ちていった。


四 救いの手

 風が巻き上がる中、意識が遠のきかけたその時――ナオキの身体を誰かが抱きとめた。

 それは、銀の瞳の少女――ユリだった。

「……無意味な死は、記録の対象外です」

「な、なんで……」

「あなたは……私に『敵意』がなかった。処理対象から除外されました」

 抱きかかえられながら、ナオキは微かに笑った。

「なんだそりゃ……ロボットなのに、優しいじゃねぇか……」

 ユリは一瞬、処理不能な反応に沈黙し、そしてこう言った。

「優しさ……感情データに存在する概念です。あなたが私に与えました」


五 忍びとカラクリのはじまり

 その後、ユリは姿を消した。 だがナオキの心には、彼女の存在が深く刻まれていた。

 忍びとは何か。人と人を繋ぐものは何か。

 そして、彼はまだ知らない。 この出会いがやがて、三大流派を揺るがす戦乱、 さらには地獄の門の開放へと繋がっていくということを――

 世界がまだ知らなかった、 《カラクリ忍者》という存在の名を刻む物語が、今、動き出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ