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第一住人発見

俺は息を潜め、森の中をゆっくりと歩み続ける。どれだけ強い力を持ち合わせていようと、肝心の俺が人間の域を出ない紙装甲である以上、奇襲されてしまえば終わりだ。物音がする度に心の中で"俺はダンボール"と自分に語りかけ、平静を保つ。ちょっとダンボールにしてやるだけでいいのだから、俺の心は随分と扱いやすい。


しかし、嫌々ながら始めた人類圏探索計画に暗雲が立ち込めているのは確かだ。森林は人間が容易に生きられる世界ではない。食料と水分は無敵の胃に頼ってそこらの草や水溜りから摂取しておけばいいので問題ないが、生きるためには眠る必要もある。差し当たって2日ほど歩き、既に何度もゴブリンと交戦しているが、困った事に一睡もしていない。ゴブリン君が多過ぎるのだ。妙に感覚が鋭くなっているため、今は奇襲されていないが、寝ている所を襲われたら流石に不味い。でも眠い。めっちゃ眠い。


「....ぅ........ゃ....」


「....!」


いっその事、木の上で眠って運に身を任せようか。そんな発想が浮かぶ俺の脳に今、何よりも求めていた音が飛び込んでくる。遠くから微かに聞こえるそれは、間違いなく人の声に違いなかった。


「どうやら、俺は賭けに勝ったらしい──」


今の俺は深夜テンションを超えた早朝テンションさえ越えた二徹テンションの真っ只中だ。妖精かなんかが口を操作したんじゃないかと思うくらいキザな独り言を伴って声の方向へ走り出す。まぁ、俺の素早さはE-なんだが。











遅いながらも走り続けるにつれ、声はどんどんと鮮明になっていく。どうやら、女性らしい。しかし、それ以上に言っている内容が問題だった。


「いやッ!来ないで!」


テレパシー的な何かで俺の存在を感知して突き放しているのでなければ、間違いなく何かに襲われている。次に聞こえてきたのが、こちら。


「ギャギャギャッ!コロス!ニンゲンコロス!」


特徴的すぎる。下手人が速攻で分かった。固いものを叩くような音も聞こえるので、声の主はゴブリンから身を守るためなにかに立て篭っているのだろう。


間に合ってくれと念じながら全力で疾走する。本来なら、幾ら全力だろうと舐めてるようにしか見えないくらいの速度でへばり、一瞬で真夏の犬みたいになるのだが、今回はどうも様子が違った。


「はっや。パタスモンキー?」


景色の流れが、異様に速い。車と馬のどちらが速いのか、みたいなバラエティ番組があるとしたら、今の俺は第三勢力として出場できる。驚きのダークホースだ。


ともあれ、このような所業を成し遂げられる要因は考えうる限り一つ、なんか凄い力しかない。ジャンプが駄目でダッシュがOKなのは微妙に納得しかねるが、今は力の作動範囲をとやかく言っている場合ではない。俺は森を走り抜け、踏み固められた土の道に出る。


速やかに状況を確認すると、そこに在ったのは追い求めていた文明を示す馬車。そして、馬車を襲うゴブリンたちの姿だ。


「ハッハー!その馬車は俺のものだッ!消し飛べゴブリン!」


「グギャッ!?」


対話が不可能な事は何度かの試行で理解しているため、即座に破壊の思念を連発する。撃ち漏らした5匹のゴブリンがこちらに襲い掛かって来るが、もう遅い。加速した足で道を後退しながら1匹ずつ確実に始末していく。


そうして、接敵から1分足らず。馬車を襲うゴブリンの軍団は全滅していた。


「ふっ、温いな....」


この口は依然妖精のものだ。なんだかこれはこれで面白い、なんて思いながら俺は馬車に近付く。


「おい、生きてるか?」


「ひっ....」


馬車の中から、小さな悲鳴が聞こえる。怯えてはいるが、どうやら無事のようだ。


「もう外は安全だ。扉を開けてくれないか?」


「ふ、ふざけないで!そんな口車に乗ると思っているの!?」


「口車....?」


なんだか、誤解されている気がする。もしかしてゴブリンは声真似が得意だったりするのだろうか?


「あなたも私を狙っているのでしょう!?王女たるこの私を....!」


「んんんん??」


なんだかとんでもない言葉が聞こえた。しかも狙ってるというのはどういう事だろう。今の所、俺は別に敵対的な行動を何も取っていないのだが──


『"ハッハー!その馬車は俺のものだッ!消し飛べゴブリン!"』


「....」


え、俺の言動完全に山賊じゃん。こわ....

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