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第3話 純潔の対

ニオは敵に囲まれ、絶体絶命の状態にあった。

敵の銃撃は、ラビットフッドであれば避けられる。

だが、それだけだ。ロクな兵装も持たない彼女はジリ貧だった。


しかし、ここで偶然が起こる。

避け損なったニオは、敵のVD-Oへと突っ込んでしまったのだ。

だが、姿勢制御により、敵に蹴りを入れて踏んづける形になった。


「そ、そうか! 武器がなくたって……、えいっ!」


別の敵にも、高速移動からの蹴りを食らわした。

幸か不幸か、ニオのVD-Oの脚は硬く、敵VD-Oを粉砕してしまった。

その隙に、ニオは高速で包囲を抜け出していく。


「で、でも、これって、どっちへ行けば……?」


結局、彼女は闇雲に走っているだけで、何か目星があるわけでもない。



その頃、見事に異界者の敵旗艦へ大打撃を与えた軍は──────


なぜか撤退を始めてしまっていた。


敵旗艦が沈み始めたことで、明らかに敵は混乱をし始めた。

ところが、敵は退くことなく、更に攻勢を強めてしまう。

弔い合戦とばかりに、我先にと突っ込んでくるのだ。


こうなると、小型飛空艇しかない軍は一溜りもない。

そして今度は、軍の旗艦が墜ちてしまう。

逆に軍は大混乱となり、撤退を余儀なくされてしまったのだ。


──────結局、我先に逃げるだけだった。





味方の撤退を知らないニオは、必死で出口を探す。

たとえ出口に出られたとしても、味方が待っているとは限らない。

なにせここは空の上。隠れて待っている、なんてこともできないのだ。


ただそれでもニオは走る。

先のことを考えると怖くなったが、なるべく考えないようにした。

だから彼女は、ずっとアイサのことだけを考えていた。


そして、ニオの視界にやっとそれが見えた。


「あ……、明かり! 出口だ!」


それは、甲板への出口扉だった。

上へ下へと移動し続け、もはやどこから来たかも分からない。


だが、甲板に出さえすれば、辺りを見回せる。

敵はいるかもしれないが、今大事なのは状況や現在地を知ることだ。

もしも近くに味方の船艇があれば、助けに来てもらえるかもしれない。

それに、近い距離ならラビットフッドのジャンプでも飛べるはずだ。


そうしてニオは扉を開け放つ。

しかし、そこにあったのは甲板ではなく、一面の空と煙だった。


「え……、ウソ……。なん……、で……?」


ニオの爆弾によって、船体は真っ二つになっていたのだ。

爆風で混乱していたニオは、全く気付いていなかった。


幸い、飛空艇は片割れになってもまだ浮遊力を失っていない。

だが、それも時間の問題だ。

いずれは、ニオのいる場所も落下していくだろう。


見渡す空には、落ちていく飛空艇の残骸。

それ以外は、敵の飛空艇しかない。

必死に見渡すが、味方の船艇など何処にもいない。


がっくりと膝を落とすニオ。


「ああ……、なんだ。そうだよね……、誰も……。だって、私が生きているなんて、誰も知らないもんね……」


ニオは扉を閉じ、膝を抱える。そして、膝に顔を埋めた。

いつの間にか、ニオのラビットフッドは消失していた。


「う、うぇ……。う、……んっ、ク、ハッ、クッ……。ああ……、う、かはッ、んく……っ」


もう止まらなかった。子供のように泣いた。


「うわああああああああああああああああ!」


雨のように太ももを濡らす。

堪えていたものが全部吹き出した。


必死に足掻いたものは、全部無駄だった。

そう思ってしまったら、もう負の思考は止まらない。

今までの人生、そのすべてが無駄に思えてしまう。


……その時、扉がゆっくりと開いた。


おそらくは、爆発で歪んでしまっていたのだろう。

ニオは慌てて、ドアノブを掴もうと手を伸ばす。


だが、その手は違うものを掴んだ。


「ハァハァ……、やっと見つけた」


ニオが掴んだもの。それはアイサの手だった。


「……なん、……で? ……なんでいるの?」

「ニオ、絶対、この辺にいると思ったんだ」


ここは、はるか上空だ。こんなところにアイサが居るはずがない。

だから最初、ニオは彼女のことを幻覚だと思ってしまったほどだ。


「なんで……? どうして……?」

「なんでって、ひどいなぁ。せっかく迎えに来てあげたのに。まぁ、私たち、バディだし。シンクロしてるから、場所だって分かるんだよ。……たぶんね。……って、泣いてるの? ゴメン、迎えに来るの遅くなっちゃって」

「ふぇ……、アイサぁ……」


更に涙が溢れてくる。思わず、ニオはアイサに抱きついた。


「わぁ、ニオ! ここ、空の上なんだけど、忘れてない⁉︎ ……まぁいいや、飛ばすから掴まっていて」

「え?」


そう言うと、ニオの身体はふわりと浮き上がった。

そして、すぐにとてつもない力で引っ張られる。


「うわわわ……、と、飛んでる⁉︎ アイサ、飛んでるの⁉︎」

「私のVD-Oは『Shape(シェイプ・)shifter(シフター)』。でも、可愛くないから『メティス』って名前を付けてたんだ」


二人は、上空をすごい速さで垂直に上昇していく。

空挺部隊や敵の飛行用VD-Oでも、そんな動きはできない。

二人の乗ったVD-Oは、明らかに規格外の動きをしていた。


「う、うわぁ……、綺麗……」


ニオの目には、広い空がどこまで続いていた。

日は沈みかけ、煌々と燃ゆる太陽もゆらゆらと朧げだった。

雲間には敵の船影が見えているが、そんなものもちっぽけに見えてしまう。


その瞬間だけは、少女たちに未来を見せていたのかもしれない。





アイサのVD-Oは、ニオを乗せたまま滑空を続けていた。

このまま敵の上空を抜けていけば、容易に離脱できるだろう。


「ニオ、もう味方は撤退を始めてるんだ。私たちもこのまま離脱しよう。さぁちゃんと掴まってて」

「あ、待って、アイサ。このまま戻っても、敵は攻めてくる。……でも、今なら出来る気がするんだ。アイサがいれば……。ううん、二人ならきっと出来る!」

「え⁉︎ 何を言って……」


ニオは、アイサにしがみついたまま、自身のVD-Oを起動する。

すると、白色の光と共に、ラビットフッドの外骨格が顕現した。


「私が敵をぴょんぴょんって踏んづけるから、アイサは私を拾いに来て!」

「ええ⁉︎ 何を言ってるの⁉︎」

「いくよ! えいっ!」


ニオはラビットフッドでジャンプする。

彼女の想定では、ラビットフッドで敵を跳ね回り攻撃するつもりだったのだ。


ところが、これは思わぬ状況になる。


ニオはてっきり離れたと思ったのだが、アイサもついてきてしまったのだ。


「あ、あれぇ⁉︎ な、なんで⁉︎」

「こ、これは……、ど、どういうことなの⁉︎」


ニオのVD-O外骨格と、アイサのVD-O外骨格が交差する。

それらは、混ざり合うかのように新たに形造る。

それらは、まるで最初からひとつであったように。



それは──────


金色の光を纏う


──────たったひとつのVD-Oとなった。



「う、うわぁ……。アイサ、なに、なにこれ……っ⁉︎」

「私も、こんなのは見たことがない……」

「よ、よく分からないけど……、これで……っ!」

「え、ちょっと、ニオ⁉︎」


ニオはそのまま空をジャンプし、敵の飛空艇に向かって飛んでいく。

だが、このままでは衝突してしまう。


「ちょ、ニオ! ぶ、ぶつかるっ⁉︎」

「いっけぇええええ!」


ニオたちのVD-Oによる、体当たりのような蹴り。

それは金色の光線となって、巨大な飛空艇をも打ち抜いてしまう。

飛空艇から、爆発と共に煙が吹き上がった。


だが、その後、空中で姿勢を制御できなくなる。


「う、わわわ……」

「くっ! な、なるほど、こういうことか……」


今度はアイサがVD-O操縦し、空中での姿勢を戻す。


「よし、コツは掴んだ」

「え、すごい! アイサ、これ⁉︎」

「ニオ、好きにやっていいよ。私が全部フォローしてあげるから!」

「……うん!」





その金色の光は、撤退中の飛空艇からも見えていた。

予備科の学生たちが身を乗り出すように、その状況を見守る。


その一つは、アイサの乗っていた小型飛空艇。

教官や、あの嫌味な女生徒らも乗っている。


「何、あの光? あれも敵のVD-Oなの?」

「いや、敵の飛空艇が墜ちていく。あれは、味方……?」

「まさか、あの光。あれが、旧世代にあったという二人乗りの……」

「二人乗り? 教官は何か知っているのですか?」

「新世代の子らは知らんだろうな。私の世代よりも前の話だ」


こうしている間も、その金色の光は止まることなく敵を圧倒していく。


「VDとは『verga(ビルガ・) duo(デューオ)』、つまり『純潔の対』という意味だ。だが、いつからか、我々は体内にそれを内蔵するようになった。そのせいで、汎用性は上がったものの、シンクロ率は下がったそうだ」

「純潔の対……。え、ちょっと待って下さい。VD-Oって、私たちの身体の中あるんですか? じゃあ、VD-Oデバイスって⁉︎」

「あ、しまった……。誰にも言うなよ? VD-Oは軍事機密が関わる。……今はもう、純粋な人間はいないのだ。試験管の中(イン・ビトロ)以外はな」


彼女らが見守る中、その金色の光は空を駆け回り、次々と敵を墜としていった。



そして、金色の少女たちは──────


ニオが笑うと、アイサも笑った。


「アイサ、行くよ!」

「ああ、ニオ。どこまでもいけるさ、……二人なら」


──────心を紡いでいく

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