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第1話 幸運の兎

遠い未来──────


各地で突然発生した毒ガスは、男性だけを死に至らしめた。

一気に世界人口は半分以下へと減少、史上最大の世界大戦が勃発する。

こうして世界が衰弱していく中、謎の侵略者が侵攻を開始した。


──────少女たちは戦いを強いられていた。





学校のVD-O(ブイ・ディ・オー)戦闘演習が終わって、二人が下校している時のこと。

アイサの隣で、ニオは夕日を見つめている。また例の乙女の表情だ。


「あーあ、迎えに来てくれないかなぁ、『試験管(イン・ビトロ)(きみ)』」

「ニオはまたそれか。創作だろう? なにせ『男性』というモノを、誰も見たことがないのだから。それこそ、現実は『試験管の中』ではないのか?」

「いいじゃない、創作だって。旧時代では、男女が一緒に暮らしてたんでしょ? 学校に通って、生殖もしてたって。恋、……も、していたらしいよ?」

「恋ねぇ……」


キラキラと目を輝かせるニオ。

だが、アイサには興味のそそられない話題だ。


「創作と言えば、『異界者』は男性体で、毒ガスによる虐殺はそのためって噂。たしかに行方不明は多いが……。創作というものは、本当に非合理的だ」

「全部が創作じゃないと思うけどなぁ。きっとね、試験管の君とは、何でも分かり合えるんだよ。シンクロ・ゲームだって、余裕で全問正解しちゃうの!」

「シンクロ・ゲーム? なんだいそれは?」


ニオがまた妙なことを言い出し、アイサは困惑する。


「バディの間で流行ってるんだって。VD-Oの不定強化元素には、54のエレメントがあるよね? それを『いっせーの』で、互いに言い合うんだよ」

「……そんなの、どうやっても揃わないよ。『相手の考えていることが何となく分かる』という話なら、理解はできるのだけど」

「私たちなら揃うかもよ? いいからやってみようよ。それじゃあ、いっくよぉ、いっせーの……」


二人は互いに一定の溜めのあと、思い思いの単語を口にする。


「ローヴァスっ!」

「イルト。……ぷはっ! ふふふ……」


言葉を発した後、アイサは吹き出してしまう。

それは、ニオの力み過ぎた顔が面白かったからだ。

こんな子供じみたゲームでも、彼女は本気で当てにいったのだろう。


「それはそうだ。こんなの揃うわけがない。54分の1なのだよ?」

「だから! 一緒に過ごしてシンクロしていけば、それが揃うんだよ!」

「そうかなぁ」

「そうだよ」

「そうか。……そうなるといいな」


アイサのその言葉に、ニオはニッコリと微笑んだ。


元エリート組のアイサはスランプとなり、予備科へと配属された。

彼女は、ニオのそんな屈託のない笑顔にいつも救われていたのだ。





次の日、学校では再びVD-Oの戦闘演習が始まる。

兵器である腕輪状のVD-Oデバイスは、まとめて鍵をかけて保管してあった。

ニオとアイサは、いつものように自身のデバイスを手に取る。


ただアイサの表情は硬い。それは、ニオから見てもすぐに分かった。


「大丈夫だよ。機能限定版の『Sheep』なら、問題ないんでしょ?」

「そうなんだが……、暴走した時のことがいつもチラついてな……」


しかし、今日に限っては、ニオの方も困惑し始める。


「……ん? あれ?」

「どうした、ニオ? もうそろそろ、私たちバディも行かないと」

「それが、私のVD-O……、なんだかいつもと違う気がする」

「ん? ……そ、それ!拡張版の『Wild』⁉︎ 予備科の学生が持つようなものじゃないぞ!」


アイサはハッとして周囲を見渡した。すると、すぐに気がつく。

こちらを見て、ニヤニヤと見つめる女生徒たちがいることに。


「……クッ、またアイツらか。大方、教官室から盗み出したのだろう。ニオ、ダメだ。それを起動してはいけない」



正式名称『VD-O(ブイ・ディ・オー)』、もしくは『VD-Ogress(オーグリス)』──────


鹵獲した侵略者の兵器を流用したもので、人類の新兵器である。

起動すると周囲に大きな外骨格が生成され、様々な武器へと換装できる。

ただし、誰でも100%適合するものではなく、ある種の才能が必要だ。

特に新世代の学生たちは適合が低く、機能限定版を使用していた。


『VD-O: Sheep(シープ)』。

学生用の機能限定版であり、使用者の負荷も少ない。

ただし、起動しても小銃型の外骨格しか生成されない。

弾丸は無尽蔵に生成されるものの、威力はさほど期待できない。


『VD-O: Wild(ワイルド)』。

VD-Oの中でも特異なもので、大幅に能力をブーストさせる。

ただ、使用者には多大な負荷がかかり、生命の危険すらあった。

よって、一部の特別な者しか使うことが許されない。


──────これらは等しく、人類最後の希望だった。



こちらを見てクスクスと笑う女生徒たちは、聞こえるように独り言をこぼす。


「落ちこぼれのクズは、早く廃棄処分になってくれないかしら」

「そうだね、なんなら仲間殺しのエリートさんも、ついでに廃棄処分になればいいんだけどなぁ。……誰とは言わないけど」


嫌味な女生徒たちはそう言ったあと、さっさと行ってしまう。

彼女たちは、こうしていつもニオたちに嫌がらせをしていたのだ。

だが、今回は少し違う。命の危険があり、嫌がらせどころではない。


「あんなこと言わなくたって……」

「ニオ、気にするな。いつものことだ。言わせておけばいい」

「ねぇ、それでアイサ。ワイルドって何……?」

「ニオ、私が特姫(とっき)にいたことは知っているな? Wildは、本来特姫で使われるものだ。リミッター付きは、学校でも適性確認時に使用されるが……、これはご丁寧にリミッターも解除してある。嫌がらせにしても度が過ぎる」


ニオたちが困惑していると、いつものように発破を掛ける教官の声が響く。


「貴様ら! 準備だと思ってグズグズするな! いいか! いつも言っているが、訓練でも実戦のつもりでやれ! 訓練で出来んことは、実戦でも出来んからな!」


だが、ここで思わぬことが起きる。



校内に鳴り響く警報──────


それは、敵襲を知らせるもの。

ただし、学校は非戦闘区域内にあり、安全が保障されていた。

生徒たちは訓練中の身であり、警報時は戦闘態勢で待機するだけだ。


──────それは、学生たちにとってまだ遠いもの。



だが、今回はそうではなかった。


「嘘っ⁉︎ なんでこんなところに⁉︎」


女生徒のひとりが叫んだ。


殆どの女生徒たちは、すでに校内の訓練場へと出ていた。

目に映るのは、3m超の黒いVD-O三騎。新入経路は不明。


それは、紛れもなく敵だった。





黒い外骨格のVD-O。国を識別するようなものもない。

それは、間違いなく人類の敵『異界者』のものだ。

話は通じない。戦って殲滅する以外の道はなかった。


アイサは、ニオの手を引いて走り出す。


「ニオ、逃げよう! 学生では、あれに勝てない!」


他の女生徒たちも、怯えて我先にと逃げ出していた。

だが、教官はそれを許さない。


「貴様ら逃げるな! 上官命令だ! VD-Oを起動しろ! 戦え! 戦うのだ!」


その声が引き金となった。

女生徒たちは、恐怖心を押さえつけながら一斉にVD-Oを起動する。

女生徒たちの手に外骨格が生成され、それは小銃へと変化した。


それに引き替え、敵のVD-Oは全身を覆うアーマードスーツ。

攻撃・防御・移動速度、すべてが段違いだ。

初めから勝ち目などない。


アイサは辺りを見回したが、状況を打破できるものなどありはしない。


「まずい、このままじゃ全滅するぞ……」


その時、アイサの目にそれが飛び込む。ニオの持つ『Wild』デバイスだ。


「ニオ、それを貸してくれ!」

「ど、どうするの⁉︎ ……あ!」


アイサは、ニオの手からそれを奪い取るようにして、自身の腕へ装着する。


「ここで起動できなければ……っ! お願い、起動して!」


だが、アイサの装着したデバイスは、何も反応を見せない。


「……クッ、やっぱり起動できないのか! どうして、こんな時までスランプだなんてっ! お願いだ『メティス』! もう一度応えて……っ!」

「アイサ。それを起動できれば、あれにも勝てるんだね?」

「それが……、ごめん。起動できないんだ。結局、私はこの期に及んでも、まだ怖いらしい。Sheepではできても、正規のVD-Oはまだ……」

「貸して! じゃあ、私がやってみる」


ニオは、アイサの腕からデバイスを奪ってしまった。


「ダメだ、ニオ! 予備科にいるってことは、キミの適性は高くないはずだ。今それにはリミッターがかかっていない。起動したら命の危険だって……」

「でも、このままじゃみんな死んじゃう! ……大丈夫。アイサ、いつも言ってたよね。失敗を恐れちゃダメだって」

「それはたしかに言ったが……、でも、それは、キミの緊張をほぐすためであって……」


だが、ニオはそれを起動してしまった。

すると、白い光と共に外骨格が生成され始める。

そして、外骨格はニオの下半身と背中だけを包んでいく。


「なっ⁉︎ どうして? ……ニオ、どうしてキミが起動できるんだ⁉︎」


その時、白い発光を見た教官は、止めようと走ってきた。


「貴様、なぜそれを使っている⁉︎ ……い、いや、なんだその姿はっ⁉︎」


ニオの足は、白色に輝く外骨格に包まれていた。


「わわわ……、これ……っ!」


ニオは導かれるように走り出す。

それは、思考を置き去りにするかのように物凄い加速だった。

教官は、手を伸ばして引き留めようとしていたが、全く届かなかった。


「あれはまさか、『Rabbit(ラビット・) foot(フット)』か⁉︎」

「ラビットフッド?」

「古い形態のVD-Oだ。なぜあんなものがニオに発現したのだ……?」


だが、その速度にニオ自身ですら翻弄されてしまっていた。


「わわわわわ……っ! ダ、ダメェええーーーッ!」

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