遅れてきた誕生日
『お疲れ様でした~!』
練習後の集合が終わり、みんな散りぢりになっていく。
今日は土曜日で授業がないので、練習は午前中にすることになっている。
時計をみるとまだ10時半であった。
「まだこんな時間か・・・。」
例によって試合が近いので練習が早く終わった。
「お~い、藤井君。このあと時間ある?」
着替えをするために部室に入ろうとしたら柊が話しかけてきた。
「ん?あるけど、なんか用でもあるのか。」
「いやぁ~、このあと一緒に食事でもどうかなぁ~って。」
「食事?俺は別にかまわないけど。」
「そっかぁ、じゃぁ、あとで校門に集合ね。」
と言って柊はグラウンド整備へ向かった。
柊に食事に誘われるなんて、珍しいこともあるものである。
「さて、俺もさっさと着替えるか。」
「お待たせぇ~。」
柊を待つこと15分。少し駆け足で柊がやってきた。
「おう、遅かったな。」
「そりゃぁ女の子だからねぇ~。女の子には何かと準備が必要なのだよぉ。」
言われるまでもなく、女の子が着替えるのに時間がかかるのはわかっていたが、なんとなく聞いていた。
「しかし、いつもと雰囲気が違うな。」
柊は私服を着てきていたのだが、いつも着ている服とは少しイメージが違う気がした。
「そう?さすが藤井君だねぇ。」
「どういう意味だ?」
「ふふん。こいつは勝負服なのだよ。」
「はぁ。でも何で勝負服なんだ。」
「女はいつだって戦いなんだよ。」
「そ、そうなんですか・・・。」
「まぁ、それはそれで置いといて、早く行こっ!」
そう言って、柊は俺の手をつかみ、ずんずん前へ進んでいった。
しばらくしてショッピングモールに着いた。
「そういえば、どこで食べるんだ?」
「ん?ここだよぉ。」
柊はベアーズの前で立ち止まった。
「新作が出たらしくてさぁ、一回食べてみたいなぁって。」
「ま、まさかのデジャヴか・・・。」
ぼそっとつぶやく。
「え?」
「い、いや何でもないよ。」
まさかの2日連続ファーストフード店。しかも同じ店である。
「さぁ、行こう行こう。」
柊に背中を押されて中へと入った。
俺たちは2階の外の景色が見える席に着いた。
「それじゃぁ、いただきまぁす!」
「いただきます。」
俺が頼んだのは昨日と同じでカリチキバーガーである。これ以外のものは油っこくてあまり食べる気にはなれない。決してまずいというわけではなく、単にスポーツマンとしてどうなのかということである。
まぁ、ファーストフードを食べている時点でダメな気もするが。
そして柊が頼んだのはもちろんチーズ&チーズバーガーであった。
「ん~・・・。」
「どうした?」
「いやぁ、美味しいんだけどぉ・・・すぐ飽きるねぇこれ。チーズ好きの私としてはうれしいんだけどぉ、それでもやっぱりチーズが多すぎるよねぇ。っていうか、くどすぎるんだよぉ。せめてピクルスとか入れてほしいよねぇ。そうしなと全部食べきれないと思うよ。」
「まぁ確かに見てるだけで気持ち悪くなりそうだからな。」
愚痴を言いながらもパクパクと食べていく柊であった。
「やっぱり今のアニメには二つの『もえ』がいるよねぇ。」
「二つのもえ?」
いま再放送中のアニメについて語り合っていたらそんな話になっていた。
「そう、萌えと燃えだよぉ。」
「いや、言いたいことはわかるけど、聞いてる側としては非常に分かりにくい。」
「萌えキャラが燃えるバトルをする、萌え燃えなストーリーと映像が今の流行りだよぉ。」
「そ、そうなんだ。まぁでもそういうアニメは最近よく見るよな。魔法少女ものも戦闘シーンは熱くなってるみたいだし。よくある一般的な女の子向けのアニメだと思ったら、実はかなりシリアスな話だったり、DB的な戦闘展開になったりと、柊いわくの萌え燃えって感じだな。」
「そうそう、いま思い出したんだけど今度そのアニメ、映画化するんだって。」
「へぇ~そうなんだ。」
「なんかねぇ、第一期の話をリメイクするらしいよ。」
「でもリメイクするだけじゃそんなに客が集まらないんじゃないか?」
「そこは私たちの愛で埋めに行くんだよぉ。」
「さすがに一度見た話を、もう一度お金払って見に行く余裕はないぞ。」
そう言って財布をひらひらさせる。
「いやいやぁ、なめてたらいけませんよぉ。今回のは相当手が込んでるらしくて、ただのリメイクではないらしいよぉ。」
「へぇ~、どんな感じなんだ。」
「え~っとねぇ、わかんない。」
「なんだよそれ。」
「だってそうやって雑誌に書いてあっただけで、まだどういう風にできるかは秘密らしいんだぁ。」
「なるほど、そういうことか。」
「ん~早くみたいなぁ。映画だとかなり迫力あるんだろうなぁ。」
「アニメでも迫力はすごかったからな。」
その後もしばらく2人で語り合うのであった。
「ねぇねぇ、この後も付き合ってくれるでしょぉ。」
ベアーズから出てきた俺たちだが、柊はまだどこかに行くつもりらしい。
「付き合うってどこに?」
「それは着いてからのお楽しみだよぉ。」
「結局、ついて行かないと分からないのか・・・。」
「ほらほら行くよ!」
俺は半ば強制的に連れて行かれた。
連れて行かれた先は、駅ビルの中にある衣類専門店などがあるフロアだった。
「ちょっ、どこ行くんだよ。」
柊は女性物の下着売り場の中に入ろうとしていた。
「ん~?どこって下着売り場だよぉ。」
「いや、そんなことは見たらわかるって。」
「ふぅ~ん恥ずかしいんだぁ。」
柊はふふんと笑っている。
「そ、そりゃそうだろ。」
「大丈夫だってぇ。知らない人から見れば彼氏かなんかだと思うって。」
「そういう問題じゃない!」
「もぉ~恥ずかしがり屋さんなんだからぁ。」
「・・・・・。」
どうつっこめばいいのか分からない。
「さて冗談はここまでにして次に行こう。」
「ま、まさか、これをするためだけにここに来たのか・・・」
今度はごく一般的な服屋に来た。誤解を招くといけないので一応言っておくが、けして下着屋が一般的でないという意味では無い。
「しかし、俺がいる意味があるのか?」
柊は真剣なまなざしで服を選んでいる。
「ありもあり大ありだよぉ。」
そういってまた服を選びはじめた。
「・・・・・。」
待つこと数十分。
「よし!ちょっと待っててね。」
「あ、あぁ。」
柊は試着室へ入っていった。
「・・・・・。」
さらに数分後、柊は先ほど持っていった服の内の一着を着て出てきた。
「どう?」
「い、いや、どうって、似合ってるんじゃないか?」
と普通に答えた。
「む、これじゃないのかぁ。」
謎な発言をしてまた試着室の中に入っていった。
さらにさらに数分後。
「どう?」
とまた同じように聞いてきた。
「え~っと、か、可愛いよ?」
「これでもないのかぁ。」
またまた試着室の中に入っていった。
そして数分後。
「よう。」
ポンと誰かが肩をたたいた。振り向くと佐藤先輩がいた。
「あ、お疲れ様です。」
そしてその隣には会長がいた。
「こんにちは。お久しぶりですね。」
「どうも、会長。お久しぶりです。」
「何やってるんだ?」
「あ~、え~っと・・・。」
答えようしたその時、試着室のカーテンが開いた。
「どう?これで決まりでしょ。」
と言って柊が自信満々に出てきた。
「へ?あれ、なんで佐藤先輩と会長が?」
目の前にいる二人を見ながら俺に聞いてきた。
「あ~、俺もいま会ったばかりだから。」
「まぁ、うちらは普通に買い物してただけなんやけどな。」
「そしたらたまたま藤井君をお見かけして。」
と二人が答えてくれた。
「そうだったんですか。」
「で、そっちは何してたん?珍しい組み合わせやけど。」
「え?そうかな?」
「う~ん、どうだろう?」
別に2人でいること自体は珍しくはない。よく登下校は2人になることがある。しかしこうやって外に出るときに2人でいるということは無かったかもしれない。
「ま、いっかぁ。えっと私たちは・・・。」
そこまで言って柊は口を閉じた。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ。ちょっといいですか?」
そう言って柊は俺に聞こえないように二人に耳打ちした。
「あ~なるほど、そういうことね。」
「それでしたら私たちもお手伝いしますよ。」
柊が何を言っているのかは分からなかったが、明らかに何かを企んでいる。
「こういうのは本人に直接聞くのが一番早いんだよ。藤井、この店の中にある服で一番気に入ったのを選べ。」
「え、え~っと、これかな?」
とりあえず一番最初に目についたものを選んだ。
「え~、それ男物やん。」
「って言われても・・・。」
「・・・・・。」
先輩は黙ってしまった。
「・・・彩音、うちには無理だ。」
「おれるのはやっ!ってか今のどこにおれる要素があったんですか?」
「しゃあないやろ。うちは元々こういうことには向いてないんだよ。美羽、あとは任せた。」
そういって会長にパスをした。
「次は私の番ですね。じゃあ、まず藤井君の好きな色を教えてください。」
「好きな色ですか?う~ん、強いて言うなら、青ですかね。」
「青ですか。・・・ではこの中で可愛いと思うものを選んでください。」
会長は何枚かの服を持ってきた。
「え?可愛いものですか?え~っとこれですかね。」
ぱっと見た感じで可愛いと思ったものを選んだ。
「ではこの服を柊さんが着たらどう思いますか?」
「ん~、似合ってると思いますよ。」
「では、私が着たらどうですか?」
「え、え~っと・・・。」
「正直に言ってくださいね。」
会長のイメージは清楚なお嬢様な感じなので、これはこれでありな気もするが、少しこの服のイメージとは違う気がした。
「えっと、ちょっとイメージと違うかな?」
「そうですか・・・。柊さん、これです。」
そういって会長は一枚のTシャツを柊に渡した。
「えっと・・・ホントですか?」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「・・・すみません。それっぽいことをしてみただけです・・・。」
「や、やっぱり・・・まぁいいや、これに決定。文句なしね、後悔しないでよ。」
「い、いやそこまで言われると・・・。」
「藤井君に拒否権は無い!」
「じ、じゃあ聞くなよ・・・。」
「はいっ。」
柊はTシャツを精算し、俺に渡してきた。
「えっと・・・もしかしてこれって。」
「ん?優希への誕生日プレゼントに決まってるじゃないのぉ。」
さも当たり前かのように言ってきた。
「・・・やっぱりというべきか何というか・・・。」
予想通りといえば予想通りなのだが、なんだか周りくどくてつっこめなかった。
買い物を済ませ、俺たちはビルの外に出てきた。
「う~ん。時間が余っちゃったなぁ。先輩たち何かネタありますかぁ?」
「どんな質問だよそれ。」
「そうですね~。たしか近くにケーキバイキングをしているお店がありましたよ。」
真面目に答える会長であった。
「お、いいですねそれ。」
「あ~悪い、うちはパス。」
佐藤先輩はすまなそうに言った。
「えぇ~どうしてですかぁ?」
「試合も近いのに、そんな甘いもん食べてる場合じゃないってこと。」
「もぉ、真面目なんですからぁ。そんなこと言って佐藤先輩も食べたいんでしょぉ~。甘いものが嫌いな女の子なんていないんですからぁ。」
「スポーツマンはそういうのは食べへんの。そりゃ、うちだってショートケーキとかシフォンとかモンブランとかチョコとかマフィンとかマドレーヌとかベイクドチーズとかレアチーズとかミルフィーユとかザルツブルガトールテとかいろいろ食べたいけど・・・。」
何の早口言葉ですかそれは。
「え、え~っと・・・、と、とりあえず佐藤先輩も食べたいってことなので、そこに決定ってことで。」
「ま、まぁそこまで言うなら、付き合ってもいい、かな。」
そこまで言ったのは佐藤先輩です。
しかし一抹の不安が俺には残っていた。
「あ、あの~俺も行くんですか?」
「もちろんだよぉ。」
「ま、マジですか・・・。あ、あんなところに男の俺が行くのか、しかも3人の女の子に囲まれて・・・。」
「いいじゃん、ハーレムだよぉハーレム。」
全くハーレム気分は味わえないと思うが、流れで無理やり連れて行かれることになった。
「・・・なんですよねぇ。」
「そうなのですか?私は・・・・・」
柊と会長は話が盛り上がっている。佐藤先輩はなんだかんだいって皿いっぱいにケーキを盛りパクパクと食べている。
俺はというと、女の子同士の会話に入ることもできず、ものすごい疎外感を受けている。そしてこの店の中には男が全くと言っていいほどいない。たまに見かけても恋人同士だったりする。
「俺がここにいる意味があるのか・・・。」
一刻も早くここから抜け出したいが、一度入ってしまったので元をとるまで食べなければものすごくもったいない。かといって男の俺がケーキを皿いっぱいに入れて食べていると、周りからの視線がかなり痛くなる。
というわけで、ただただ時が過ぎるのをじっと待っているだけであった。
「ちょっと藤井君、聞いてるのぉ?」
ボーっとしていると柊に呼び掛けられているのに気が付いた。
「へ?あ、悪い、聞いてなかった。」
「もぉ、ちゃんと聞いててよねぇ。」
「で、何だったんだ?」
「なぜツンデレ=ツインテールなのか?という問題です。」
会長の口からそんな言葉が出てくるとは夢にも思わなかった。しかしなんだ、そのネットで物議を醸すような疑問は。
「なんでそんな話になったんですか?」
「まぁまぁ、細かいことは気にしない気にしない。で、藤井君はどう思う?」
「どうって言われてもなぁ。確かにツンデレのキャラクターはツインテールが多いよな。でも逆にツインテールのキャラがツンデレっていうイメージは無いよな。」
「そう言われるとそうだよねぇ。ツンデレだったらツインテールのイメージだけど、ツインテールが絶対ツンデレっていう感じはしないよね。でも金髪ツインテールは絶対ツンデレだよねぇ。」
「そういうイメージは確かにありますね。」
「でも絶対ってことはないだろ。」
「う~ん、思い返せばそうかもしれない・・・。むしろ半々?」
「結局このツンデレ=ツインテールの謎は謎のままなのですよね。」
「そういえば現実世界にツインテールっていうのがほとんどいないよな。」
「そう言われるとそうだよねぇ。」
「でも小学生の子たちが、たまにしているのを見かけることはありますよ。」
「あぁ、そうかも。逆に大人がしてるとものすごく違和感があるよねぇ。」
「もしかしたらそれもツンデレ=ツインテールの要因の一つかも。」
「どういうことですか?」
「ツインテールは子供がする髪型だから、ツインテールのキャラクターは子供っぽいっていうイメージを持たせるとか。」
「あぁわかるかも。ツンツンしてるのもデレデレしてるのも確かに子供っぽいよねぇ。」
「つまりツンデレ=子供っぽい=ツインテールということですか?」
「まぁ、これは俺の意見ですけどね。」
「けど、なんかいい感じにまとまったかもぉ。」
「そうですね。なんだかすっきりしました。」
自分の中でも、のどの中に突っかかっていたものがとれたような気分だった。
「ツンデレの話でよくそんなに盛り上がれるな・・・。」
「それじゃあ、お疲れ様です。」
永遠とも思われるよううな長い時間も案外すぐに終わり、気付けば夜になっていた。
「おう、お疲れ。」
「また学校でお会いしましょう。」
先輩たちとは駅で別れ、柊とともに家路についた。
「いやぁ、まさか会長とあんな話で盛り上がれるとは思わなかったよぉ。」
「そういえば、なんであんな話になったんだ?」
「えっとねぇ、簡単に説明すると、社会のことを学ぶためにいろいろなジャンルを勉強してたら、なんか気になったんだってぇ。」
「そのいろいろなジャンルの中に、アニメも入ってるのか・・・。」
「なんかアニメは今後の日本を支えていく重要なメディアらしいよぉ。」
「・・・よくわからん。」
「だよねぇ。まぁでも、日本のアニメは世界でかなり人気があるからねぇ。」
「ん~、なんか社会って難しいな。」
会長の意外な趣味について盛り上がっていたら、いつの間にか分かれ道のところに来ていた。
「じゃあね、藤井君。月曜日それ忘れてきたらダメだからねぇ。」
と言って柊は去っていった。
手に持っている紙袋のことをすっかり忘れていた。
「誕生日プレゼントか・・・。」
約10年ぶりの誕生日プレゼントである。
「なんか変に緊張してきたな・・・。」
小野坂の誕生日、当日。
朝のホームルームが始まる前に、小野坂にプレゼントを渡すことになった。
「優希、はいこれ。誕生日おめでとう!」
「うん、ありがと。」
「へへ、中開けてみて。」
「うん。」
そういって小野坂はガサゴソと紙袋を開けた。
「・・・え~っと・・・。」
中身を確認した小野坂は、少し反応に困っているように見える。
「どうしたんだ?」
柊の渡した紙袋をのぞこうとしたら
「あ、ちょ、見ないで!」
ズゴンとグーパンチがとんできた。
「いって~、なんで殴るんだよ。」
「・・・・・。」
小野坂の顔が赤くなっている。
「ふふん。優希は見る見るうちに成長していくからねぇ。そろそろもう1サイズ上のものにした方がいいかなぁって。」
今の柊の発言で何を買ったのかはなんとなく想像できた。
「っていうか、あの時ちゃっかり買ってたんだな・・・。」
「冗談はさておき。はい、彩夏からもおめでとうだって。」
そういって柊は綺麗にデコレーションされたクッキーを渡した。
「え、ありがとう。彩音ってこういうところはちゃっかりしてるよね。」
「まぁねぇ。ほらほら、次は藤井君の番だよぉ。」
そう言って俺の背中をポンと押す。
「え、あ、おう。・・・え~っと、た、誕生日・・・おめでとう。」
「う、うん。あ、ありがと・・・。」
二人の間に沈黙が流れる。隣で柊はにやにや笑っている。
「えっと・・・こ、これ、お返し、じゃないけど・・・。」
小野坂はバッと紙袋を押しつけてきた。
「?」
「私だけもらうなんて、なんかずるいから・・・。」
俺たちの光景を見て、さらに柊はにやにやしている。
「なるほどそういうことか。」
またまた柊の仕業だということはすぐに分かった。
「まぁ、あいつの思い通りになったのは、なんか腹が立つけど、でも、普通にうれしいよ。ありがとう。」
「あ・・・うん・・・。わ、私も、トモ・・・藤井君に、ちゃんとプレゼントしたいって思ってたから・・・。」
小野坂の顔がさらに真っ赤になる。
俺の顔も傍から見たら真っ赤になっているのだろう。それくらい顔が熱くなっている。
「いいねいいねぇ、青春はぁ。」
二人でギッと柊を睨む。
「す、すみません。」
「と、ところで中身は何なんだ?」
「確かTシャツだよ。絶対にこれにした方がいい、って彩音が言ってた。」
「ま、まさか・・・。」
一抹の不安を覚えながら紙袋を同時に開ける。
「・・・・・。」
そこには俺が小野坂にあげたTシャツとおそろいのTシャツが入っていた。
「いいじゃんいいじゃん、やっぱペアルックだよねぇ。」
「・・・絞めるか。」
「うん・・・。」
「へ?あ、ちょ、は、話せばわか・・・うぎゃあぁぁ。」
その後、柊の行方を知る者は誰もいなかった。