対戦する1日
『キーンコーンカーンコーン』
「はぁ~、やっと終わった。」
6限目の終わりを告げるチャイムが鳴り、ため息をつく。
今日はなぜか英語が2限あった。正確には、英文を読みそれを訳したりする「リーダー」と、おもに文法だけをする「グラマー」の2つがあったのである。正直どっちも英語なんだから一つにまとめてほしいところである。まぁ問題はそこだけでない。当然ながら2つの教科は別物扱いなので、テストが2つあるのである。正直、勘弁してほしい。
文句を言いながら教科書を鞄の中に入れる。
「あ、藤井君、おつかれぇ。」
横にいた柊に声をかけられた。隣の席の小野坂と話していたようだ。
「おぉ、おつかれ。」
といってもこの後の部活で会うのだが。
「ねぇ優希、今日、部活早く終わるからどっか行こうよぉ。」
「うん、いいよ。え~っとじゃあ・・・」
2人の会話が少し耳に入ってきた。
そういえば来週は試合があった。ほとんどの陸上部はそうだと思うが、試合の前はそんなに練習をせずに、その試合の日に自分のベストなコンディションを持って行けるように調整をする。特にここの陸上部は、その調整の期間は各自でメニューを組むので、ストレッチだけで終わる人も結構いる。なので、下手をすると帰宅部よりも早く帰ることがたまにある。
まぁ、それでもやる日はきっちりやるのだが。
「ねぇねぇ、昨日のアニメ見た?」
集合までの少しの時間に、柊が話しかけてきた。
「ん、昨日の?あぁ、新しく始まったやつか。」
柊が実は結構なアニヲタだとわかってから、たまにこういう話をするようになった。しかしそれ以降、周りからの視線が少し冷たくなってきている。
「いや、まだ見てないよ。俺は1話みたあと、1週間待つってのが嫌なんだ。だからいつもDVD借りていっきに見るんだ。」
「へぇ~そうなんだ。だったら最新のやつはあんまり分からないのかぁ。」
「そうなんだよ。だからチョイ古いやつで。」
「りょ~かい。でもこれはチョ~お勧めだからぁ。」
そんなこんなしていると、いつも集合の合図がかかる。集合してからは完全に頭のスイッチが陸上に切り替わるので、俺も柊もアニメの話しはしない。
「みんな集まった?」
くるりとキャプテンが見わたす。
「あ~っと。やっぱ彩夏はいないのね・・・。」
「す、すいません。」
なぜか柊が謝る。
いつものことだが、柊妹こと彩夏ちゃんは集合に遅れてくることがしばしばある。といっても、前日に夜更かしして寝坊するとかそういうのだけで、平日はもちろん授業のあとなので、遅れることはあまりない。それでもなぜか普通の人たちよりは遅れてくる回数は多い。
『パタパタパタ』
「はぁはぁ。す、すいませ~ん!」
校舎の方から彩夏ちゃんが走ってくるのが見えた。
「お、きたきた。そのままでいいから集合して。」
「は、はい!はぁはぁ。」
「え~、来週には試合が控えているので、今日から調整に入ります。最初の集合は毎日するので、ちゃんと来るように。あと、練習は各自で終わってください。以上です。それじゃあ頑張って行きましょう。」
『お願いしま~す!』
いつものように、みんなで一斉に挨拶する。
「もう、なんで毎度毎度おくれてくるかなぁ。」
「だって、今日はアタシ掃除当番だったんだもん。」
この姉妹喧嘩も、すでに恒例になってきた。
「それでも遅すぎでしょ。また誰かとしゃべってたんじゃないの?」
「え~っと、それはその・・・。」
「もう、はっきりしてよね!」
だんだん柊の声が大きくなってくる。
最初の頃はみんな止めに入っていたが、最近では面倒くさいのか、それとも慣れてしまったのか、いずれにしろ、みんな無視している。
さて、俺もさっさと練習を終わらせて帰ろう。
「藤井、お疲れ。」
「おう、お疲れ。またな。」
いつの間にやら半分以上の人が練習を終え、いなくなってしまっていた。という俺も、あとはクールダウンをして帰るだけだ。
「お~い、友喜!」
そのダウンの途中で西山晃に呼び止められた。
「どうした?」
「もう練習終わりだろ?だったら、このあとベアーズ行こうぜ!」
ベアーズというのは駅前にあるファーストフード店である。別に付き合っても構わないのだが、もうすぐ試合もあるのであまりそういうものは食べたくない、という思いもある。
「なんで?」
とりあえず理由を聞いてみた。
「今日から新作出るんだよ。知らなかったか?ちょうどいいからお前も誘って行こうかな~って。」
そう言えば最近CMでそんなこと言っていた気がする。
「へぇ~。」
適当に相づちをうつ。
「も、ってことは他に誰かいるのか?」
「いや、俺一人だ。」
俺が行くと言わなければ、こいつは一人で行くつもりなのか。
「まぁ、しょうがないから付き合ってやるか。」
というわけで2人でベアーズに行くことになった。
「おつかれぇ、藤井君。」
「おう、お疲れ。柊も大変だな。」
この調整の期間でもマネージャーは、最後まで残って手伝いをしなければならない。正直、俺たちよりもマネージャーの方が厳しいのではないかと思う。
「ううん、大丈夫だよぉ。」
「そうか?俺たち、いっつもマネージャーに頼りっぱなしだからな。なんか手伝えることがあったら言ってくれよ。」
「ありがと。でも、ホントに大丈夫だから。そんな心配するより、自分の体調管理をしっかりしてよぉ。うちのエースなんだからぁ。」
やさしく微笑みながらそう言った。ふいにそんな笑顔を見せられてドキッとしてしまった。いやぁ、体に悪い。
「お~い、友喜~!はやくしろよ~!」
校門のところで晃が叫んでいる。
「そんなに大声で叫ぶなよ・・・。じゃあな、柊。お前もからだ壊したりするなよ。」
「うん、ありがと。じゃあね。」
柊に挨拶をし、晃のもとへ行く。
駅ビルの目の前にある大通り。そこにベアーズバーガーはある。この大通りにはベアーズのほかにもファミレスや喫茶店など、さまざまな食事処がある。他にも服屋やアクセサリーショップなどもあり、それなりの規模のショッピングモールとなっている。
『ウィーン』
「いらっしゃいませ。」
この時間は半分近くが学生でうまっている。
「ご注文はお決まりですか?」
「あーっと・・・このカリチキバーガーセットで。」
「お飲み物は何になされますか?」
「じゃあ、オレンジジュースで。」
とりあえず、あまりくどくないものを注文した。
「かしこまりました。少々お待ちください。お次の方どうぞ。」
「俺はこのチーズ&チーズバーガーセットで。あ、飲み物はコーラで。」
「かしこまりました。少々お待ちください。お待ちの方どーぞ。」
注文してから数十秒で商品が出てきた。
「じゃあ先に席取っておくから。」
「おう、頼んだぞ。」
見た感じ1階は人がいっぱいなので、2階へ行くことにした。
2階も人がいっぱいいたが、端っこの方にちょうど2つ開いている席が見えたのでそこに座ることにした。
しばらくして晃がやってきた。
「よし!じゃあ食うか。負けないぜ!」
「何にだよ・・・。」
晃は新作のチーズ&チーズバーガーにかぶりついた。
チーズ&チーズというネーミングからして、普通のチーズバーガーにさらにもう1枚チーズがのっているだけかと思ったが、1枚なんていうレベルでは無かった。ハンバーグとハンバーグの間にあるチーズの量がすごいことになっている。そしてハンバーグの中には大量のチーズが埋め込まれているらしい。
「なぁ、気持ち悪くならないか?」
「ん?ほんはほほひゃいほ。」
お約束のネタで何を言っているのか分からない。
「は?なんだって?」
あきれながら聞きかえした。
晃は口の中身を呑み込んで
「いや、そんなこと無いぞ。むしろこのチーズの量が俺にとっては最適の量だ。」
「あ、そう。」
見ているこっちが気持ち悪くなりそうなので、もくもくと自分のハンバーガーを食べた。
「いまさらだけど、お前、部活はどうしたんだ?」
ふと疑問に思い聞いてみた。
「ん?いつも通りやってきたぞ。」
「サッカー部ってそんなに早く終わるのか?」
同じグランドで練習しているのに、今まで全く気がつかなかった。
「お前たちが遅すぎるんだよ。」
確かに陸上部の練習が終わるころには、どの部活もいなくなっている。残っているのは事務の人くらいだ。
そうこうしているうちに、2人とも全て食べきっていた。
「いや~、食った食ったぁ~。」
一応、俺も晃も育ち盛りというものに分類されるので、ものの数分で食べ終わってしまった。
「さて、どうする?」
「もちろん、まだまだいくだろ。」
「まさかまだ食べるのか?」
「いやそれはない。」
即答だった。さすがにあのチーズ地獄はコイツでも耐えきれなかったのだろう。
「じゃあどうするんだ?」
「うーん・・・よし!ゲーセンに行こう。」
「結局そこになるのか。ま、いっか。じゃあ行くか。」
ということで、いつものようにゲーセンに行くことになった。
「やっぱあれだろ!」
といって晃が指さしたのは例の格ゲーである。
「好きだなお前・・・。」
「男はやっぱ格ゲーだろ。」
いや、他にも格ゲーはあるのだが、何故か晃はこれにこだわる。
「なぁ友喜、あれってさ・・・。」
急に晃が立ち止まり、指をさした。そこにはどこかで見たことあるような女の子がいた。
「・・・あんた強いな。」
「いえいえ、そんなことないですよ~。」
どこからどう見ても彩夏ちゃんであった。
どうやら例の格ゲーで対戦していたようだ。対戦相手はえらく体のごつい大男だった。見た感じリアルな方でも、やっていそうな感じの体格だ。
「また今度対戦してくれ。」
「あ、はい。いつでも受けて立ちますよ!」
大男は立ち去って行った。
「彩夏ちゃん。」
大男とすれ違いになったあと、彩夏ちゃんに話しかけた。
「あれ?藤井センパイ。それに、え~っと西山センパイ。」
「おっ、俺の名前覚えてくれてたのか。」
「はい、とても印象深かったので。」
まぁ嫌でも記憶に残るよな。
「今の人誰だったんだ?」
不思議に思い聞いてみた。
「え~っとアタシの格ゲー仲間です。」
「格ゲー仲間?」
「はい。まえに藤井センパイに負けてからよくここで練習してたんですけど、その時に勝負を挑まれてそれ以来よく対戦してるんです。」
「練習って・・・。」
俺に負けたのがそんなに悔しかったのか。
「センパイ達は何してたんですか?」
「ん?俺たちか?俺たちは、さっきまで飯食ってて。で、今からこいつをしようかなーって思ってたんだ。」
と言って横にある格ゲーの台を指さした。
「そうなんですか?じゃあ一緒にやりましょう!」
「よし!じゃあ、俺にこの間のリベンジを果たさしてくれ!」
晃は返事を聞かずに椅子に座った。
「いいですよ。受けて立ちます!」
「ふっふっふ。俺を今までの俺だと思うなよ~。」
やけに自信たっぷりな晃である。
晃の選んだキャラクターをみて、こいつの言っている意味がすぐに分かった。晃は今まで、一振りが大きく当てるのが難しいが、当たれば大ダメージを与えられるキャラクターをよく使っていた。いわゆる
一撃必殺型である。しかし今回はいわゆる投げキャラでメンバーをそろえてきた。投げキャラは技の発動が難しく、かなり使いこんでいないと不発することが多い。
しかし、晃は今までも投げキャラを間に挟んで使ったりしていた。そして結構な確率でこの投げキャラにやられることが多かった。今回の晃の選択はかなり良いかもしれない。
「お、一撃必殺から投げに変更ですか。大胆にきましたね~。」
さっそく彩夏ちゃんに見破られている。
「さすが俺のライバル。しかしそれが分ったところで俺にはかてな~い!」
「いつからライバルになったんだよ。」
しかしこいつの自信もわからなくはない。投げ技というのは、発動された瞬間にその技の範囲外にいなければ、まず避けることはできない。晃が完璧に投げ技を使いこなしていれば、勝敗はかなりの確率でこいつに傾く。
「さ~て、ここはどうしよっかな~。う~ん、やっぱこいつかな~。」
彩夏ちゃんはなにやらぶつぶつ言いながらキャラを選んでいる。
彩夏ちゃんが選んだキャラを見てみると、この間と同じでコンボでダメージを稼ぐタイプであった。このキャラは一撃はダメージが低いが、コンボによってはどのタイプよりもダメージが一番多くなる。さらに攻撃をガードされても、コンボによっては反撃を受ける距離から大きく離れることもできる。一番使いやすく、一番奥が深いタイプであるかもしれない。しかし、そのキャラの中にカウンタータイプが入っていることに気がついた。もちろんカウンターというのは、攻撃を受け止め反撃するというものである。しかし投げ技はこのカウンターの対象にはならない。もちろん投げのカウンターを持っているやつもいるが、かなり特殊なやつである。
さて柊妹はどうするのだろうか。
「よ~し!いきますよ~。」
「よっしゃあ!こ~い。」
『ガチャガチャ』
予想通り彩夏ちゃんは押されている。晃はみごと投げ技を使いこなしている。
「よし、ここだ~。」
『ピキーン』
晃が接近した時に彩夏ちゃんが超必を発動した。
「ま、まさか。」
彩夏ちゃんが選んだキャラを思い出してみた。
『ズドドォーン』
見事に超必がクリーンヒットした。
「のわー!くっそ~。」
彩夏ちゃんの選んだキャラは、全員共通した超必を持っている。
ほとんどの超必はコンボの締めに入れるのが一般的である。しかしこのキャラクター達はコンボ中ではなく、むしろ相手が飛び込んできたときに使うカウンター超必である。カウンターと言っても攻撃を受けるのではなく、攻撃をされる前に叩きつぶすという技である。キャラによって違うが、自分の周りをバリア的なものが覆う技なので、接近した瞬間にガードをしなければ確実に当たる。接近しなければ技が使えない投げキャラにとって天敵である。
『ガチャガチャガチャ』
「・・・・・。」
2人とも無言である。戦いに集中しているのであろう。
彩夏ちゃんは超必のゲージを必ず1本残して戦っている。そうすることによって相手が飛び込んでくる確率が少なくなり、投げ技を発動する機会がかなり減る。
『ザシュ、バコッ、ザシュ、ドォン!』
「のわー!」
晃の最後の1体がやられた。勝負は彩夏ちゃんの勝利に終わった。
「いやー、かなり腕をあげましたね。かなり危なかったです。」
「うぐぅ~・・・。」
晃は悔しいのか変な声を出している。
「まぁまぁ、今回はかなり押してたじゃないか。次はどっちが勝つかわからないぞ。」
「友喜。俺は、俺は・・・。」
えらく溜める晃。
「な、なんだ?」
「強くなる!」
高らかに声を上げる。何人かの客がこっちを見ている。
「は、恥ずかしいからやめてくれ!」
彩夏ちゃんに負けた晃は、その後、特訓をすると言って台を占領した。それを見ていてもヒマなので、彩夏ちゃんと一緒にゲーセン内を回っていた。
「藤井センパイ、これやりましょう。」
「あぁこれか。あんまり音ゲーはやったこと無いんだよな。」
柊妹が指さしたのは、いま音ゲー界では、最もメジャーであると言ってもよいゲームであった。
「そうなんですか?でもやったことはあるんですよね。じゃあ一緒にやりましょう。」
と言って無理やり太鼓バチを渡してきた。
あまり自信はなかったが、とりあえず対戦することになった。
「よし、じゃあいきますよ。」
難易度と曲を選びスタートボタンを押す。
『ドンドン、ドドドン、ドンカッカッ』
大体の音ゲーはコマンドが4つか5つくらいが相場であるが、このゲームは、コマンドは2つと極端に少ない。しかしコマンドが流れてくる間隔がかなり短く、これをバチでたたかないといけないかなり手首が疲れる。さらに微妙に間隔が違ったりするので、やみくもに連打するだけでは点数を取ることはできない。これがコマンドが2つにわかれているので、結構難易度が高いのである。
「あ、くそ。」
かなりの確率で、コマンドが流れて行ってしまっている。
『ドドドドドドン!』
とりあえずゲームオーバーにはならなかった。
「ふぅ~。なんとかノルマは達成だな。」
「藤井センパイ、上手じゃないですか。練習したらもっと上手くなりますよ。」
彩夏ちゃんの点数は、ほぼ満点であった。おそらくタイミングが若干ずれただけで、取りこぼしはしていないだろう。
「ははは、彩夏ちゃんには敵わないよ。」
「いえいえ、そんなこと無いですよ~。」
そんなことを言っているが、まだまだ余裕がありそうだ。
「ちょっと一人でやってもいいですか?」
「別にかまわないけど。」
「ありがとうございます。」
そう言って、難易度と曲を選びはじめた。選んだ難易度は、一番難しい難易度であった。
『ドドドドン、カッカッドドドンカッカッ』
ものすごい勢いでコマンドが流れていく。しかもコマンドの量はさっきの2倍はある。
「ふっ、はっ、たぁ。」
全く取りこぼしていない。かなりのバチさばきである。
『ドドカカドドカカドドドン!』
華麗なるフィニッシュだった。
「ふぅ~、すっきりした!」
すごいとしか言いようがなかった。取りこぼしたのはほんのわずかである。点数もトップ10に入っていた。しかしこれ以上にすごい人がいるというのが想像できない。
「いや~、すごいよ。こりゃ、対戦するに相応しくなるには、相当時間がかかりそうだな。」
「そんなこと無いですよ~。センパイならすぐにこれくらいできますよ。それにアタシもまだまだですから。」
この子はどこまでやりこむ気なんだ。俺もやりこみは多いが、ここまで多趣味ではない。
「センパイ!次はこれやりましょうよ!」
隣にあったシューティングゲームを指さして言った。
「まだやるのか・・・。」
その後も、レーシングやら違う種類の音ゲーなど、いろいろと振り回された。
約1時間後、晃のもとへ帰ってきたが、こいつはまだコンピューターと戦っていた。
「そろそろいい時間だし、帰らないか?」
「何ぃ!俺は、まだまだ戦える!」
「・・・なに訳の分からないこと言ってるんだよ。ほら帰るぞ。」
「え~。」
「・・・はぁ。彩夏ちゃん、帰ろっか?」
晃の言動にいちいち付き合っていると面倒なので、無視して帰ることにした。
「え、でも・・・。」
「いいんだよ、面倒くさいから。」
「お~い!めんどくさいとはなんだ。俺がせっかく盛り上げてるのに。」
「盛り上げる場所が間違ってんだよ!」
「確かにめんどくさいですね。」
「あ、彩夏ちゃんまで、ヒドイ。」
「行きましょうか。」
「あぁ、行こう。」
「ってちょっと、ホントに行くのかよ!?」
後ろから聞こえる晃の声を、完全に無視してゲーセンをあとにした。
外に出ると太陽は沈み、空は星で埋め尽くされていた。
「うわ!もう真っ暗じゃんか。」
いつの間にか追いついていた晃が言った。
「今日はお開きにするか?」
「そうだな、腹減ったし。」
「さっき食べたばっかだろ。」
「成長期の俺は食べざかりなんだよ!」
「あぁ、そう。」
俺は適当にかえした。
「何だよ。今日はノリが悪いな。」
「いや、お前に付き合っているだけで、十分だと思うが。」
「またまたぁ、つれないこと言って~。」
「はいはい、じゃあな。」
適当にあしらって自転車置き場へと向かった。
「あ、おつかれさまで~す。」
彩夏ちゃんもそう言って、てくてくと歩きはじめた。
「俺の立ち位置ってかなり損するよな・・・。」
「へぇ~、こんなとこに新しいお店できたんだ。」
大通りを歩いていると、『オープンセール』と書かれた看板のあるお店を発見した。
「ここですか?確か4日くらい前にオープンしてましたよ。」
「へぇ~。」
最近、いろいろと様変わりしてきているこの大通りだが、通るたびにお店が増えていいているように思える。
「あ、お姉ちゃんと小野坂センパイ。」
彩夏ちゃんが急に立ち止まり、左横にあるお店を指さした。
そこはコーヒーショップで、小野坂と柊の2人が話しこんでいるのを発見した。
柊はこちらに気づいたらしく手を振っている。後ろを向いていた小野坂は、柊の行動で俺たちに気付いた。
なんだか手招きをしているように見える。
「センパイ、入りますか?」
「そうだな。」
とりあえず中に入り、小野坂と柊の横の席に着いた。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」
「えっと、コーヒーで。」
「アタシはカフェオレで。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
一通り注文が終わり、柊が訪ねてきた。
「珍しい組み合わせだねぇ。何してたの?」
言われて気付いたが、確かに珍しい組み合わせである。彩夏ちゃんと一緒にいることは別に不思議ではないが、2人きりというのは今までになく柊とセットというのが普通であった。
「あぁ、ちょっとな。」
これまでのいきさつを簡単に話した。
「へぇ~、最近私より早く帰るのに家にいないと思ったら、ゲーセンで遊んでたんだぁ。ふぅ~ん。」
柊の声が若干怖い。いつもの姉妹げんかの時みたいではなく、静かな怒りを感じる。逆にこっちの方が怖い。
「まぁ、やることやってれば別にいいんだけどねぇ~。」
不敵な笑みを浮かべる。柊から何かしら恐怖を感じる。
「お、お姉ちゃん。」
彩夏ちゃんの声が震えている。
「ま、まぁまぁ。」
小野坂が柊をなだめる。
「そ、そっちは何してたんだ?」
話をすり替えてみる。
「何って、見たら分かるよねぇ~、藤井く~ん。」
ガクガクブルブル。怖いです、柊さん。
「って冗談冗談。ちょっと遊んでみただけだよぉ。」
「遊んでみたって・・・。」
「でも、彩夏には本気で怒ってたんだけどねぇ。」
と言って、またあの不敵な笑みを浮かべる。
「あ、あうぅ~。」
「・・・で、結局なにやってたんだ?」
「見ての通り、コーヒー飲みながらしゃべってたんだよぉ。」
「いや、それはわかるけど。いつからいたんだ?」
時計をみるとすでに7時を過ぎている。
「え、うそ!もう7時すぎてるよぉ。」
「本当だ。じゃあ私たち、2時間もいたんだ。」
「よく1杯のコーヒーで、2時間もやってこれたな。」
あきれを通り越して、逆に感心したくなる。
「まぁね。女にはいろいろと話すことがあるのよぉ。」
「ふ~ん、いろいろねぇ。」
「それより、そろそろ帰ろうか?今日、結構宿題でたから、早くやった方がいいかも。」
と小野坂が言った。
「もぉ~、優希は真面目なんだからぁ~。」
とか言っているが、柊もちゃっかり宿題はこなしてきている。
「ま、もう遅いし、帰るとしますかぁ。」
そう言ってコーヒーショップをあとにした。
「そういえば、優希ってもうすぐ誕生日だよね。」
帰り道でそんな話になっていた。
「うん、そうだよ。」
「じゃあさぁ、なにかほしい物のリクエストとかある?」
「う~ん・・・、特になけどなぁ。」
小野坂は少し悩んでそう答えた。
「いやぁ~特にないってのが、一番難しいんだよねぇ。去年はそのキーホルダーだったしぃ。」
小野坂の鞄についているキーホルダーを指さして、う~んと悩み始めた。
「あ、そうだ。」
何か思い出したかのように、小野坂が声をあげた。
「去年、彩夏ちゃんと一緒に作ってくれたケーキ、もう1回たべたいな~。」
「ケーキ?あんなものでいいなら、何個でも作ってあげるよぉ。ねぇ、彩夏?」
彩夏ちゃんはハイと頷いた。
「へぇ~、ケーキとか作れるんだ。」
と素直に感心した。
「もちのろん、私だってケーキくらい作れるよ。」
と自信満々に言った。
「でもケーキだと食べたら無くなっちゃうし。どうせならずっと残るものが良いなぁ。」
柊は、またう~んと悩みはじめた。
「藤井センパイは、何かプレゼントしないんですか?」
そのふりは、いずれくるだろうと思っていたが、まさか妹のほうからくるとは思わなかった。
「え!?あぁ、プレゼントの交換なんて、小学生のとき以来やってないからなぁ。なあ。」
と小野坂に振った。
「うん、たぶん小3くらいからやってないと思う。」
「え~、どんだけ寂しいカップルなのよぉ。」
「な、ちょっ・・・。」
柊の突然の振りに、小野坂は言葉を失っている。
「へへっ、やっぱり優希はいい反応してくれるねぇ。じゃぁねっ!」
わかれ道のところに来て、サッと帰って行ってしまった。
「え!?あ、お、おつかれさまで~す。」
柊の突然の行動に、彩夏ちゃんも驚いていたが、逃げるように帰って行った。
「おいおい、そんな終わり方ありかよ!」
柊のつくったこの気まずい空気の中、2人で帰ることになってしまった。
「はぁ~、ったく・・・。」
しばらく無言が続き、もう少しで家のところまで来ていた。
「・・・ねぇ。」
先に言葉を発したのは、小野坂だった。
「ん?」
「誕生日、終わっちゃったよね?」
「俺か?あぁ、俺の誕生日は4月だからな。急にどうしたんだよ?」
「わかんない。」
小野坂から謎の答えが返ってきた。
「よく意味が分からないんだが・・・。」
「だから、わからないってば!」
「いや、そんな大声出されても。」
「じゃあねっ!」
『バタン!』
小野坂はダダッと家の中に駆けこんで行った。
「お、お前もか・・・。」
よく分からないまま、時が過ぎていく。
「とりあえず・・・家に入ろう。」