ハーレム?な1日 その2
『パシャパシャ・・・パシャパシャ。』
「ふぅ。」
寝ぼけた頭を働かせるには、冷たい水で顔を洗うのが一番である。
時刻は6時過ぎ、ここ沖縄に来ても、この6時起きというのは変わらないようだ。
「よし、行くか。」
持ってきていたジャージに着替え、佐々木を起こさないように部屋を出る。昨日はあまり体を動かせなかったから、今日くらいは動いておかないとな。
ホテルの外に出ると、潮の香りが風に流されてきた。外はまだ少し暗い。やはり沖縄は朝が遅いのだろう。
「すぅ~~っ、はぁ~~~~。」
深呼吸をひとつして準備運動をする。
『ガラガラ』
誰かがホテルから出てきた。
「おっ、藤井じゃん。」
佐藤先輩だった。
「おはようございます。こんな朝早くにどうしたんですか?」
「ん?まぁ癖ってやつだな。この時間になると勝手に体が起きるんだよ。」
佐藤先輩も6時起きの体になっていたのか。
「佐藤先輩もそうなんですか?」
「も、ってことは藤井も癖になってるのか?」
「はい、休みの日でも勝手に起きるから困りますよね。」
「確かにな。」
そういえば佐藤先輩の言葉がもとに戻っている。たしか会長の前だと関西弁になるんだよな。
さてストレッチも終わった事だし少しジョギングでもするか。
「藤井、今日はどうする?」
「ん~そうですねぇ、明日からまた練習もあるんで、少し動くだけにしときます。」
「そうか、じゃあ私もそうするかな。」
というわけで2人で浜辺をジョギングすることになった。
「んっ、ん~~、はぁ~。」
思い切り伸びをして息をはく。時刻は6時半。つい、いつもの癖で起きてしまった。
『ガラガラ』
「ん~。潮の香りがいいねぇ。」
窓を開けて外の空気を吸い込む。
「んっ・・・彩音?」
優希がもぞもぞと起きてきた。
「あっごめん起しちゃった?」
「ううん、いつもこの時間に起きてるから大丈夫だよ。」
「そっか合唱部も朝早かったもんね。」
美羽先輩はまだ寝ているが、佐藤先輩のベッドは空っぽだ。
「佐藤先輩どうしたんだろ?」
「ん~、あの人のことだし、練習じゃないかなぁ。」
と言って窓の外を見てみる。海が朝日に照らされて紅く染まっている。
「綺麗だね。ねぇ彩音、ちょっと散歩しない?」
「お、いいねぇ、行こ行こ。」
確か朝食は7時半になっていたはずだ。それまで優希と散歩をすることになった。
ホテルの周りは公園になっている。公園といっても、ただ芝生が敷き詰められているだけの広場である。その広場の周りには、ヤシの木みたいなのたくさんが生い茂っている。
「ん~、どうしよっか?」
「そうだねぇ~。このまま浜辺に行ってもいいけどぉ・・・。おっ!あそこに行ってみない?」
ホテルの反対側に商店街らしきものを発見した。
「あそこなら、お土産とかあるかも。」
「そうだね。行ってみようか。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
商店街の入口まで来たが、辺りはがらんとしている。
「まぁ、当然よね・・・。」
「だよね・・・。」
こんな朝早くからやっている店なんか無く、ほとんどの店がシャッターを下ろしている。
「これがシャッター商店街ってやつかぁ・・・。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
沈黙が流れる。数秒後何かに気がついたかのように優希が、
「・・・あっ、えぇ~っと・・・なんでやねんっ!」
『ビシッ』
良い具合にクリーンヒットしたツッコミが辺りに響いた。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「・・・優希、ごめんね。」
「ううん、いいよ。だいじょぶ・・・たぶん・・・。」
見事にシャッターは閉まりきっている。開いているところを見つけても食事処ばかりで、お土産屋なんてものは見つかる気配すらしない。
「どうしよう。」
「どうしよっかぁ。」
いつの間にか商店街の一番端っこまで来ていた。
「帰る?」
「そうしよっか。てかそうしないと間に合わないよねぇ。」
ここまで来るのに結構な時間がかかった。今からホテルに戻ってちょうど良い時間になるくらいだ。
結局なにもせずに帰ることになってしまった。
「今から海に行っても間に合うかな?」
「う~ん、どうだろ。向こうに着き次第かなぁ?」
早足で戻れば少しくらいは見る時間があるだろう。
「そういえばさぁ、最近藤井君とよく話すよね。」
いつものノリで聞いてみた。
「まぁ、席が隣だし、彩音がいろいろうるさいからね。」
「そりゃあねぇ~。ま、これで少しは幼馴染っぽくなってきたかな。」
「・・・彩音にとっての幼馴染の定義って何なの?」
「ん~っとねぇ。お互いのことは何でも知ってて、悪口言い合ってても実は以心伝心できてて、端から見たら恋人っぽく見えて、本人たちは付き合ってるていう意識はなくて、でも実は好きなんじゃないかなとか思ったり、好きだと気付くのが怖かったとかなんとかいろいろあって、最終的にはハッピーエンドみたいな?」
「・・・・・。」
優希はあきれ顔でこっちを見ている。
「どう?」
「どうって・・・。」
「まぁ、頑張ってよ。楽しみにしてるから。」
「・・・頑張りたくない。」
「いいじゃん別にぃ。優希だって藤井君のこと好きなんでしょぉ?」
「・・・!か、関係ないでしょ彩音には!」
顔を赤くする優希。
「ねっ、正直そういう関係ってどうなのぉ?異性として見れるのか、それとも家族みたいに思うのか。」
「・・・・・。」
「いいじゃん教えてよぉ。」
優希はこういう話をすると全く口を利かなくなる。しかし実際そういうところは本当に気になる。よくいう家族みたいっていうのは本当にあるのか。
「まっ、私の計画は着実に進んでるからいいんだけどねぇ。」
と意味ありげに笑ってみた。
「ちょっ、な、なにするつもり?」
優希が慌てながら聞いてきた。
「さぁ~て何でしょう?ふっふっふっ。」
「もう、彩音ってば~、教えてよ~。」
やっぱり優希で遊ぶのはおもしろい。しばらくこの調子で優希をいじりながらホテルへと向かった。
「すっすっ、はっはっ。」
「すっすっ、はっはっ。」
俺と佐藤先輩の息継ぎが、リズムよく交互に聞こえる。チラッと時計を見る。もうすぐ7時になる。
短距離の俺にしては十分すぎるくらいの距離を走った。
「なぁ、藤井。」
「どうしました?」
そろそろ終わりにしないかと言おうとしたが、先に佐藤先輩に話しかけられた。
「私、今度のインターハイで、全国行けるかな。」
不意にそんなことを聞いてきた。
「・・・?どうしたんですか?」
佐藤先輩は去年も全国大会に出場している実力者だ。まだ予選も始まっていないのに、いきなりどうしたんだろう。
「去年の全国大会でさ、私予選落ちだっただろ?まぁその時は、来年頑張ればいっか、って思ってたんだけどね。3年になって大会が近づくにつれて、なんか変に緊張してきちゃって。」
「なに言ってるんですか。まずは確実に全国に行けるように、予選のことを考えないと。」
「まぁね。そんなことは分かってるんだけど。去年の全国大会もそうだけど、ちょっと彩夏のことも少し気になってね。」
なぜ彩夏ちゃんのことが出てくるのだろうか。
「どういう意味ですか?」
「あの子さ、今まで何もやってなかったのに、いきなりあんなタイム出しただろ?全国に行った時も思ったけど、トップの人たちってさなんか次元が違う気がしたんだよ。これが才能ってやつなのかなって。」
確かに彩夏ちゃんは、この間の記録会で11秒台を出すという偉業を成し遂げた。才能があるというより、もはや天才というべきだろう。
「まぁ、一応俺も全国にいってますから、何となくそういうのは分かりますね。」
「そうだろ?どれだけ練習しても、どれだけ頑張っても勝てない気がして。」
「凡才は天才に敵わないってやつですか?」
「まぁそういうことだな。陸上生活で最後の大会だから、頑張ろうとは思うんだけどね・・・。」
そう言って佐藤先輩は下を向いた。
こういう時こそ、気の利いた言葉を言うべきなんだろうが、まったく頭に浮かんでこない。
「藤井、あんたから見て私はどうだ?」
普通ならここでお世辞を言うべきだが、この人にははっきりと言うべきだろう。
「そうですね・・・、正直、タイムだけ見るなら、ギリギリいけるかどうかってとこですね。」
「そうか・・・。やっぱりお前もそう思うか。いや~はっきり言ってくれると逆にうれしいね。」
「い、いや、でもそれは去年のことですし、今年はきっと大丈夫ですよ!」
「ははっ。大丈夫だよフォローしなくても。自分でも分かってるからさ、どのくらいのレベルかっていうのは。」
しかし佐藤先輩が試合に出ているときの走りと、練習の時の走りは若干何かが違うように思える。それが良い方に違うのか、悪い方に違うのか、どちらかと言われると悪い方である。
「う~ん、でも確かにタイムだけ見ればそこそこって感じですけど、実力を出し切れてないというか・・・。」
「え?」
「確かに試合の時の走りを見ても特に変なところはないです。むしろ綺麗なくらいです。でもなんか変なんです。」
「変?」
「はい。なんていうかいつもと違う気がするんです。」
「そうか・・・。」
佐藤先輩は少し間をおいて
「ん~、藤井には気付かれてたかぁ。まぁ自分でも気づいていなかったけどな。」
「・・・?どういうことですか?」
「いや~、私ってものすっごい緊張しいなんだ。」
「そうなんですか?」
「ああ、いつも皆にはリラックスしていけ、とか言ってるけど、正直、私が一番リラックスしなくちゃいけないんだよな。まぁそれでもちゃんと走れているつもりだったけど、やっぱダメだったのかぁ。今日、藤井に聞いて初めてわかったよ。」
佐藤先輩の意外な一面にびっくりした。
いつも先輩がみんなに言っていることは、自分に言い聞かせるためでもあったのかもしれない。しかし全然緊張するタイプには見えないのだが。
「でもいまさらって感じだな。こんなの治せなんて言われても急には無理だしなぁ・・・。」
そう言って佐藤先輩はまた下を向いた。
たしかにそういう緊張とかいうのは、すぐに治るものではない。
俺はなんといえば良いのか分からず口を閉じてしまう。気の利いた言葉ひとつ言えない自分が情けない。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
沈黙が痛い。俺は佐藤先輩になんと言えば良いのだろうか。励ましの言葉ひとつ言えないなんて・・・。
「どうしたんだ?難しい顔して。もし私を励まそうとか考えてるなら、恥ずかしいからやめてくれよ。それに逆にプレッシャーにもなるからな。」
そう言って笑ってくれたが、やはり佐藤先輩の顔は少し暗い。
「俺、なんて言えばいいかわからないですけど、でもこれだけは言えます。どんな状況でもその時の全力を出してください。たとえそれで負けたとしても悔いは残らないはずです・・・きれいごとですけどね。」
「ホント、きれいごとだよな。負けたら悔しいっての。」
「それでも、やっぱり全力でぶつかった方がすっきりすると思います。」
「・・・すっきりかぁ。」
一呼吸置いて
「でも私はやっぱり負けたくない。最後まであがいて、全国行って、優勝したい。・・・ってさすがに優勝は無理か。
結局、行けるかどうかなんて関係なかったんだな。私は全国に行く。ただそれだけだ。」
「佐藤先輩・・・。」
「いや藤井には悪かったな。いろいろ愚痴言って、結局、自分で勝手に納得してるんだからな。」
「いえ、でも宣言したからには、全国に行かないとですね。」
「ははっ。だな。3年の意地ってやつで、いっちょやってやるか!」
結局アドバイスできたかどうかわからないが、元の佐藤先輩にもどったようだ。
時計をみると7時を過ぎていた。
「そろそろいい時間だし帰るか。」
「そうですね。」
浜辺を離れホテルへ向かおうとしたら、前から柊と小野坂が歩いてきた。
「あれ?佐藤先輩と藤井君一緒だったんだ。」
「ん?まぁな。そっちは二人してどうしたんだ?」
「私たちですか?私たちは散歩・・・って言って良いのかな?」
小野坂は歯切れの悪い口調で返してきた。
「俺たちに聞かれても・・・。」
「まぁまぁいいじゃん。それよりもさぁ、あれ見てよぉ。」
柊は海の方を指していた。
海は朝日に照らされて金色に輝いていた。
「わぁ、きれ~い!」
「・・・すごいな。」
「まさに絶景ってやつだねぇ。」
本当に綺麗としか言いようがない景色だった。
しばらくこの景色をみんなで見ていた。
「・・・あっ。」
ふと時計を見る。7時半をまわっていた。
「やばっ!」
「どしたの?ってもう時間すぎてる!」
「急いだほうがいいぞ。美羽は怒ると怖いからな。」
とか言いながら佐藤先輩は笑っている。
急いでホテルに戻ることにした。
その頃、ホテル内のレストランにて。
「遅いですね皆さん・・・。」
「そうですね・・・。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
例の光の洞窟とやらには午後から行くことになっている。それまで結構時間があるので佐々木と一緒にホテル内をぶらぶらしていた。
「お、ゲーセンか。」
よくホテルや旅館にある小規模なゲームセンターを発見した。
「これってインベーダーゲームですか?」
「みたいだな。」
パチスロや格ゲーなどが置いてある中にレトロなものを発見した。
「さすがにインベーダーはやったこと無いな。」
「面白いですかね?」
「どうだろ、やってみるか?」
ということで暇つぶしにインベーダーゲームをやることになった。
『ピュン、ピュン・・・ズドォン』
「あ、・・・結構難しいな。」
後ろに出現するボス的存在を倒すのに夢中になり、あっさりザコにやられてしまった。
「僕もやってもいいですか?」
といって100円を入れる佐々木。
『ピュン、ピュン・・・ズドォン・・・ピュン、ピュンピュン・・・ズドォン』
「あ~。いや~難しいですね。」
とか言いながら俺よりも良い点を取っている。
「よし、もう一回!」
こうなったらゲーマー血が騒ぐというかなんというか。二人で延々とインベーダーをやり続けた。
気付くといつの間にか昼食までもう少しの時間になっていた。
「そろそろ行くか。は~、結局、俺の負けかぁ。」
最終的なスコアは佐々木の方が上だった。
「まぁギリギリでしたけどね。じゃあ行きますか。」
2人でレストランへ向かった。
「・・・ヒマだぁ。」
朝食後、部屋に戻ってきた私たち4人は、自分のやりたいことをそれぞれやっている。
優希はなんかの小説を読んでいる。ま、少なくとも私が読んでも面白いとは思えないものだろう。
美羽先輩は何かの書類にいろいろ書き込んでいる。家の仕事とかいうやつだろうか。いずれにしても私には興味が持てるものではない。
で、佐藤先輩はなぜかせっせと筋トレをしている。なにもこんなところまで来てしなくても、と言ってみたが何でも約束がどうとかで頑張っているらしい。
とまぁ、こんな感じで皆それぞれの時間を満喫?しているようだが、私は特にやることも無くただボーっとしているだけである。
「はぁ~・・・ヒマだぁ。」
誰も返事を返してくれない。
優希と藤井君をくっつける作戦でも考えてみることにした。
「そういえば・・・」
この後行く光の洞窟は地面が滑りやすくなっているのを思い出した。
「ああして、こうすれば・・・。」
これで藤井君との距離が縮まるはず。だんだんとこのあとが楽しみになってきた。
「彩音、何ぼそぼそ言ってるの?」
「へ?あ、ううん。な、なんでもないよぉ、あはははは。」
みんなで昼食をとり、光る洞窟とやらへ向かうことになった。
「ほら、あの裏側に洞窟があるんだ。」
今はちょうど潮が引いているので、歩いて裏側へ行くことができた。
「へ~、ここがそうなんか?」
佐藤先輩は関西弁にもどっていた。
見た感じ、ただ崖に穴が開いているだけである。
「まぁまぁ中に入ればわかりますよぉ。」
と言われるままに中に入って行った。
「はぁ~、すごいやん。」
「すごく神秘的ですね。」
確かにどういう原理かはわからないが、とにかくとても神秘的である。外からの光が反射して、光ってのだろうか。洞窟中が光り輝いていた。
「のわっ!」
この景色に見とれていたせいか、地面に生えている苔に足を取られ、危うくずっこけるところだった。
「大丈夫か藤井?」
「は、はい。なんとか。」
みんなも気をつけるように言おうとしたら、目の前にいた柊がさっそくこけそうになっていた。
「きゃっ!」
「うおっ・・・っと。」
格好よくキャッチしたかったが、ものすごくダサい格好になっている。
「だ、大丈夫か柊?」
「あ、う、うん。ありがとう・・・。」
とっさのことであまり気にしていなかったが、やけに顔が近い。こんなに間近で顔を見合わせるなんてことは普通ない。若干顔が赤くなっている柊に、思わずドキッとしてしまった。
『つるっ』
「へ?」
「きゃぁ!」
『ガチン!』
おもいきり地面に頭を打ち付けた。
「がっ!」
頭が割れそうなくらい痛い。
「いってぇ~!」
「ふ、藤井君!だ、大丈夫?!」
「大丈夫・・・じゃないかも。」
本当に頭が割れていないか確かめる。一応割れていないようだ。
「二人とも大丈夫ですか?」
「え、ええなんとか。」
おそらく大した怪我ではないと思うが、服がびしょぬれになてしまった。
柊が俺の上に覆いかぶさるように乗っかっている。ものすごくベタな展開になったが、頭が非常に痛く、さらに水びたしなのでそれどころではなかった。
「おいおい、そんなにぬれとったら風邪ひくやろ。ホテルに戻って着替えてきたらどうや。」
「そ、そうですね。そうします。はぁ、せっかく来たのに残念だなぁ~。」
「しょうがないよ彩音。私も一緒に行くからさ。」
「僕も藤井君について行きますよ。」
「悪いな、二人とも。」
4人で洞窟を出ようとした時。
「うちらも行くか?」
「そうですね。お二人のことが心配ですし。」
ということで結局全員で戻ることになった。
帰る途中で柊がぼそっと何か言った。
「いやぁ、ホントに残念だ。」
「ん?なにか言ったか柊?」
「へ?う、ううん、な、何でもないよぉ。」
「・・・?」
少し気になったが早く服を着替えたかったので、あまり気にしないことにした。
「皆さん、忘れ物はないですか?」
帰りの飛行機の中で最後のチェックをした。
結局あの後、着替えに戻った俺たちは、なんやかんやで時間を使ってしまい、いつの間にか帰る時間になっていた。
「今日はすいませんでした。」
隣に座っていた会長にひとこと謝っておいた。
「いえ大丈夫ですよ。それより藤井君に怪我がなくてよかったですわ。」
『キュィイイイイン!!!!!』
飛行機のエンジンがうなり始めた。もうこの沖縄とはお別れである。といっても修学旅行でまた来ることになるが。
「見てください藤井君。とても綺麗ですよ。」
と言って会長は窓の外を指さしていた。
「そうですね・・・。」
夕日が海に反射して紅く染まっている。朝とは太陽の沈む方向が違うだけなのに、全く違う景色を見ているようだった。
なんかいろいろあったけど結構楽しかったな。
「まぁでも、今度来るときはもっと普通に楽しみたいな・・・。」
ぼそっと言った。
「・・・?何か仰いましたか?」
「あ、い、いえ楽しかったなぁ、と。」
「そうですね。」
会長は外を眺めながら
「とても楽しかったです。」
と言った。
紅く染まる海を背に飛行機は飛び立って行った。