ハーレム?な1日
5月21日木曜日 放課後 生徒会室にて
俺の左には佐藤キャプテン、右には小野坂がいる。目の前には生徒会長の姫川美羽先輩がいる。会長はどこぞの有名企業の社長令嬢でいかにもといった雰囲気を漂わせている。こんな絵に描いたような人が現実に存在しているとは思わなかった。というかなぜそんな人がこんな高校にいるのだろうか。
そしてその会長の横には生徒会書記兼写真部部長の佐々木健太がいる。こいつは隣の2組のやつで俺と同学年である。今回パンフレットの表紙の写真を撮る係である。
「例年この来年度入学希望者用のパンフレットには、昨年度の部活動における成績優秀者が1名載ることになっていました。しかし昨年のあなたたち3人は著しく成績が良かったので、3人ともモデルとして採用しました。」
ということらしいので俺たち3人は生徒会室に集められた。
「勝手に決めちゃっていいんですか?」
「ちゃんと先生方には話を通しておきました。それに必ず1人でなければならない、というわけではありませんので。」
「はぁ、でも何で小野坂がいるんですか?」
「む、私も一応コンクールで金賞取ってるんだけど。」
小野坂がにらみながら言ってきた。
「そ、そうなのか?わ、悪い、知らなかった。」
前にカラオケで小野坂の歌声を聴いた時はかなり上手いと思ったが、まさかそんなにすごいとは知らなかった。
「ふんっ。」
そっぽを向く小野坂。
「で、美羽どうすんの?うちと藤井は同じ陸上部やけど、小野坂は合唱部で全然合わんと思うけど。」
急に佐藤先輩が関西弁でしゃべりだした。
「へ?」
「ん?どうしたん藤井。」
「え?いや、あの・・・」
言っていいのかどうなのか分からず口ごもってしまう。
「???」
「ふふっ、美雪、素が出ていますよ。」
美雪というのは佐藤先輩の名前である。この人を名前で呼ぶ人はまずいない。だいたい佐藤キャプテンか佐藤先輩である。陸上部の同期の人でも佐藤さんと呼ばれているくらいだ。
「あっ。」
自分が関西弁をしゃべっていたことに気付き、はっと口をふさいだが発した言葉は戻って来ない。
「実は美雪は関西出身なんですよ。」
「関西じゃないって。・・・まぁどっちかっていうと関西よりやけど。」
「へぇ~そうなんですか初耳です。」
「まぁ言ってないからな。うちの方言は東の人が聞くと関西弁に聞こえて、西の人が聞くと関西なまりの入った変な言葉に聞こえるらしいんだ。だからなるべく標準語でしゃべるようにしとったんやけど・・・。」
「ぼろが出ちゃいましたね。」
「あんたとしゃべる時は何故かでちゃうんだよね。」
ということは佐藤先輩は引っ越してきたということなのだろうか。ふと疑問に思い聞こうとしたが、
小野坂にさえぎられた。
「あの~結局どうすればいいんでしょうか?2人はユニフォームを着て撮るんですよね?」
「いや今回は大丈夫ですよ。」
サッと佐々木健太が入ってきた。
「今回はみなさん制服を着たまま撮らせていただくので。一応柊さんに伝えておいたんですけど、伝わっていなかったみたいですね。」
なるほど柊の言っていた知り合いってのは佐々木のことだったのか。というか肝心なところを忘れないでくれ柊。てっきりあの恥ずかしい格好で撮るのかと思った。
「というわけです。このまま学校で撮っても構わないのですが、なんだか味気ないので今回は特別に撮影現場を設けました。」
「ふぅん、で、その撮影現場っていうのはどこなん?」
「沖縄です。」
『へ?』
綺麗にへの音ががハモった。
「どうせならもっと派手にやろうとハワイやグアムも考えたのですが、そうなると学校を休まなくてはいけなくなるのでこれで我慢してください。」
おいおいどこのアニメ界の話なんだ。こんな展開ないだろ普通。というかこの人の発想がもうすでに現実離れしている。
「・・・本当に沖縄に行くんですか?」
一応確認をとってみた。
「ええ本当ですよ。今度の土曜日に出発するので、皆さん準備しておいてくださいね。」
「今度の土曜ってあさってやんか!ってか部活どうすんの!?」
「それは顧問の先生方に了承を得ていますので大丈夫です。」
「いつの間に・・・。」
なんか一気に話がとんできたな。
「では土曜日にまた会いましょう。」
到着したのは昼の2時過ぎだった。俺たちの住んでいるところからはおよそ1時間で着くことができた。沖縄に来たのは初めてだったがこんなにも早く着くとは思ってなかった。というわけで俺たち5人プラス1人は沖縄にやってきた。プラス1人というのは柊である。マネージャーだからとか言っているが、本人は遊ぶ気満々である。
「まさか修学旅行前に沖縄に来るとは・・・ぬおっ!あっつ!!」
飛行機を降りたときの温度差がかなりあったので驚いた。
「さすが沖縄だね。5月なのに真夏日並だよぉ。」
柊はすでに夏の格好をしている。俺も早くこの暑苦しい服を脱ぎたい。
「ホテルを予約してあるのでまずはそちらに向かいましょう。」
「で、でかい・・・」
のどかな町中にひときわ大きい建物が立っていた。
「うわぁ~たかそぉ~。さすがお金持ちは違うね。」
「だね~。」
「ホントにうちらがここに泊まっていいのか?」
皆この巨大な建物を見上げながらそれぞれの感想をもらしていた。
「さっそくですけど、荷物を置いたらすぐに撮影するんでよろしくお願いします。撮影はあそこでするんで。」
とホテルの向かいにある浜辺を指さしながら佐々木が言った。
「おっ、いいねぇ~。やっぱ沖縄に来たからには海に行かなきゃねぇ~。」
「海かぁ、ねぇ彩音、撮影が終わったら一緒に泳ご。」
「もちのろんだよ!なんたってこっちがメインだからね。」
違うでしょ柊さん。あくまで撮影がメインです。
てことで浜辺にて
この暑い中で俺たち3人は何故か冬用の制服を着ている。パンフレットが出来上がるのが、ちょうど秋から冬にかけてなので冬服で撮影するらしい。てかそれならこの南国で撮影していること自体おかしくないか。
「くそっ、暑い。」
「あっつい!」
「暑い・・・。」
額から流れる汗をぬぐいながら皆で佐々木に抗議する。
「まぁまぁ、すぐに終わるんで我慢してください。」
数分後
『カシャ・・・カシャ・・・』
「いいですねぇ~。3人ともいいですよぉ~。」
常夏の楽園、エメラルドグリーンに輝く海を背景に、冬服を着る男1人と女2人。この不思議な光景は嫌でも目に入ってくる。幸い、まだシーズン前なので人はそれほど多くはなかったが、それでも視線が痛い。
『カシャ・・・カシャ・・・』
「ハイ、オッケーです。お疲れ様でした~。」
本当にすぐに終わってしまった。これで本当によかったのだろうか。まぁなにはともあれやっとこの暑苦しい制服がぬげる。
「よぉし、今日は泳ぐよぉ~」
柊はすでに水着を装着している。
「あっ、彩音ちょっと待って、私着替えてくるから。」
と言って小野坂は更衣室へ駆けこんで行った。
「美雪、私たちも行きましょう。」
「そうやなぁ、せっかくやからうちも泳ぐかなぁ。」
「お二人は泳がないのですか?」
会長が俺と佐々木に聞いてきた。
「あ、いえ、僕はここで皆さんの美しい姿を撮らせていただきます。」
堂々と盗撮宣言をする佐々木。
「実は俺、水着持ってきてないんすよ。まさか本当に泳ぐとは思っていなかったんで。」
「藤井くんそこは空気を読んで持ってこなきゃ。」
「すんません。」
何故か柊に謝る。
「まぁまぁ、こんなこともあろうかと私が水着を用意しておきました。」
と言って会長は大きめのキャリーバックをとりだした。
『バフンッ!』
大量の水着が勢いよく飛び出してきた。
「どうぞお好きなものを選んでください。」
「は、はぁ。」
よくこんなに入ったな。
「うわぁ~、いっぱいある。あ、これなんかかわいい。」
「ん~、うちはそういうのあまり似合わんからな~。」
「いやいや似合いますよぉ~。佐藤先輩スタイルいいんですからぁ~。」
本当にいろんな種類の水着がある。かわいいものからきわどいもの、言葉では言い表せないようなものまである。
「おっ、これを優希に着せよう。」
怪しい目をした柊が更衣室へと走り出す。右手にはあの言葉では言い表せない水着を持っている。
「さすがにあれはまずいだろ。」
とか言いながら少し想像してみるが、あぶないのでやめておいた。
「うちらも着替えにいくか。」
「そうですね。」
会長と佐藤先輩も更衣室へと向かった。
「俺も着替えるか。」
着替えが終わり浜辺に来たが、まだ誰も来ていなかった。やはり女の子は着替えに時間がかかってしまうのだろう。それに比べ男の俺はパッと脱いでサッと着るだけなのでずいぶん楽だ。
「いやぁ楽しみですね、まさか会長の水着姿をこの目で見れるとは。」
「・・・とりあえず落ち着け。」
カメラを構えながら不敵な笑みを浮かべる佐々木をなだめる。しかしみんな美人でスタイルもいいので、絵的にはかなり映えるだろう。みんなの水着姿をまた少し想像してみた。
「・・・まずい、少し緊張してきた・・・。」
しばらくして会長と佐藤先輩がやってきた。
「いやぁ~!いいですねぇ2人とも。」
『カシャカシャ』
「・・・スゲー。」
思ったことをそのまま口にしてしまった。
「あっ、いや、その、姫川先輩とても似合ってますよその水着。」
「そうですか?ありがとうございます。」
会長はさすがお嬢様といった格好をしている。この会長の姿を見たら誰もが綺麗だと思うだろう。しかしその会長より目がいってしまう格好をしている人が隣にいる。
「佐藤先輩、それは狙ってるんですか?」
「狙ってる?」
「いや、何でもないです・・・。」
なぜここにきてスク水なんだ。いや、ありといえばありだが今は違うような気がする。
「どうしてスークール水着なんですか?」
「まぁ練習サボって来てるわけやからなぁ、トレーニングのついでに泳ごうと思って。」
「はぁ、そうですか・・・。」
そうだった、この人はそういう人だった。根がまじめで特に陸上のことになるとだれにも止められないのだ。
「藤井も一緒に泳ぐか?」
「いや、俺は遠慮しておきます。」
「なんや、そうか・・・。」
沖縄に来てまで練習はしたくないので丁重にお断りした。
その時小野坂と柊がやってきた。
「すいません遅くなってしまって。」
「いやいやぁ~!2人もいいですねぇ。」
『カシャカシャ』
「もう、せっかく持って行ったのに優希これ着ないんだよぉ。」
柊の右手には例の水着がある。少し見てみたかったが、残念だ。
「あんなの着れるわけないでしょ。」
「優希がこれを着れば男なんてイチコロなのにぃ。」
「イチコロって・・・。」
まぁそれだけ小野坂はスタイル抜群ということなのだろう。チラッと小野坂を見てみる。
「・・・・・。」
「・・・なに?」
「いや、お前って着やせするタイプなんだな。」
「・・・!」
『バコッ!』
「痛っ!」
顔を赤くした小野坂がグーパンチを繰り出した。
「行こっ、彩音。」
「う、うん。」
小野坂と柊は行ってしまった。
しまった、今のは失言だったか。しかしいつの間にあんなに育ったんだ。
「藤井、言葉には気をつけろよ。」
ポンッと肩を叩いて佐藤先輩も海に入っていった。
「藤井君、頑張ってください。」
なんか励まされてしまった。
さてどうしようか。小野坂と柊は2人でどこかへ行ってしまった。会長はパラソルの下でくつろいでいる。佐藤先輩は本気で海を泳いでいる。
幼馴染に同級生、先輩に生徒会長と設定としては文句なしなのだが、この状況で俺はいったい何をしたらいいんだ。
「くそっ、所詮俺はギャルゲの主人公みたいにはなれないのか。」
あんなに簡単にハーレム状況になれる主人公が羨ましい。
やることも無いのでとりあえず水に浸かった。若干冷たい気もするが、すぐにこの冷たさにもなれた。
「・・・何しよう・・・。」
とりあえず浮かんでみた。空は雲ひとつなく真っ青である。
「・・・・・。」
「何をされているんですか?」
会長がやってきた。
「空を見てるんです。」
「空、ですか・・・。楽しいですか?」
「・・・楽しくはないです。」
「そうですか・・・。」
そう言って会長もぷかぷかと浮かび始めた。
「楽しいですか?」
「いえ、楽しくはありません。」
「そうですか・・・。」
「・・・でも、なんだか不思議な気分になりますね。」
「そうですね・・・。」
「ふぅ~・・・・・。」
「・・・・・はぁ~。」
しばらく2人でたそがれていた。
『パシャパシャ』
誰かが近づいてきた。佐藤先輩の顔がぬうっと出てきた。
「・・・なにやってんだ・・・。」
夕方になり空が少しずつ赤く染まってきた。
「いやぁ~綺麗だったねぇ~」
「だね~。」
小野坂と柊が帰って来たのでどこに行っていたのかを尋ねたらこんな返事が返ってきた。
「ん~っとねぇ、光の洞窟ってとこかなぁ~。」
「光の洞窟?」
「そう、あそこに岩場があるでしょ。」
柊が指さす方を見たら、結構な距離のところに岩場があるのが見えた。
「その裏側に小さな入り口みたいなとこがあってさ、中に入ってくと少し開けた場所にでるんだ。で、どういう原理かは分かんないけど、とりあえず光が反射しててめちゃくちゃ綺麗だったんだ。」
「へぇ~そうなんや、ちょっと行ってみたいな。」
意外にも佐藤先輩が興味を示した。
「あ、今はちょっと無理だと思います。」
小野坂は少し申し訳なさそうに言った。
「何でなん?」
「今は潮が満ちていて中に入れなくなっているんです。」
「そうなんですか、残念ですね私も行ってみたかったのですが・・・。」
なんか定番の展開だが俺も行ってみたい気がする。
「じゃぁ、明日みんなで行ってみますか?」
「おっ、いいですねぇ藤井君。それだけの絶景ポイントなら素晴らしい絵になりますよ。」
「私ももう一回行きたいからいいよ。」
と佐々木と小野坂も即OKだった。
「じゃあ決まりだねっ。」
というわけで明日は光の洞窟とやらへ行くことになった。
ホテルに帰ってきた俺たちは食事を済ませて各々部屋に戻っていた。当然ながら俺は佐々木と同じ部屋である。
「そういえばここって大浴場があるんだよな?」
「ん~、そんなことを会長が言っていましたね。」
「せっかくだし行ってみるか?」
「そうですね。ここまで来て備え付きのバスルームっていうのは寂しいですからね。」
風呂の用意をして大浴場へ行くことにした。
大浴場はホテルの最上階にあるので、エレベーターで行くことにした。エレベーターの中に大浴場のポスターが貼ってあった。見た感じ眺めはよさそうだ。
「ん?ここ時間で男湯と女湯が変わるみたいだな。」
「そうみたいですね。でも今の時間帯は男湯ですよ。」
「これで女湯だったら部屋に逆戻りだからな。」
『チーン』
エレベーターを出るとすぐに脱衣所の入り口があった。看板には男湯と書いてある。
さっそく服を脱ぎ大浴場へと突入する。
「はぁ~、でかいなぁ~。」
見た感じこの最上階全てが大浴場となっているようだ。
「いやぁ~これは相当大きいですよ。」
中央に露天風呂があり夜空が見えるようになっている。それを囲むように電気風呂に炭酸泉、サウナ、水風呂、ジェット温泉、絹の湯などさまざまな風呂がある。
「ここだけでレジャー施設としてやっていけそうだな・・・。」
「そうですね・・・。」
それにしても俺たち以外に誰もいないのはなぜなのだろうか。あたりを見回しても人っ子ひとりいない。
「なんで他の客はいないんだ?」
「あれ聞いてなかったですか?この二日間このホテルは貸し切りですよ。」
「なっ、ま、まじでか?」
「まじですよ。」
そういえば、確かにこのホテルに入ってから従業員の人以外を見ていないような気がしていたが、まさか本当にいなかったとは。恐るべし姫川美羽。
「じゃあ僕はサウナに行ってくるんで。」
「お、おう。」
こんなに広い所で2人というのはなんだか落ち着かない。
とりあえず全ての種類の風呂には一通り入ってみた。人がいないというのは若干寂しいが、これだけの種類の風呂を独り占めできると少しリッチになった気分になる。
「星が綺麗だな~・・・。」
露天風呂に入りながら体を癒す。
「ふぅ~。」
なんだかしみじみしてきた。そういえば昼間もこんなことをしてたような・・・。
さて、十分に満喫したところで帰るとしようか。
「佐々木~、俺はもう上がるけどお前はどうする?」
サウナと水風呂を行ったり来たりしている佐々木に聞いた。
「あ、僕はもう少しここにいるんで先にあがっていてください。」
「了解。」
どんだけいるつもりなんだ、干上がるぞ。
とりあえずシャワーで体を洗い流して更衣室に行こう。
「いやぁ~今日は疲れたから早くお風呂に入って、この疲れをいやしたいよぉ~。」
「だね、なんだかんだいって、私たち歩きっぱなしだったからね。」
「・・・!」
更衣室に人の気配がする。おいおい、さすがにそれはないだろ。いくらこの旅行(撮影)がアニメ的な展開ばかりだからといってもこれはないだろ。
くそっ、ここで見つかれば俺の人生は終了してしまう。何とか逃げ道を見つけなくては。
佐々木はちょうどサウナに入っている。あそこならしばらくは大丈夫だろう。
「おい、佐々木。」
佐々木に小声で話しかけた。
「どうしたんですか?先に上がったんじゃ・・・。」
「シーッ。」
外に声が漏れないように佐々木の口をふさいだ。
「女子が風呂に入ってきた。」
「またまた~、そんなベタなことあるわけないじゃないですか~。」
と言って外を確認する佐々木。
「・・・!」
窓からチラッと入口の方を見ると、すでにみんな入って来ていた。
「ちょっ、どうするんですかこれ!見つかったら処刑されますよっ!」
「だから逃げるんだよ。」
「どうやって?」
「それは・・・。」
下手に出て行けばこの浴場の間取り的にすぐに見つかるだろう。しかしここにずっといる訳にもいかない。今はみんなかたまっているが、いずれバラバラに行動を始めるはずだ。そうなったらここから出る術が無くなってしまう。
「よし、とりあえずここから出る。」
腹をくくって飛び出した。
「えっ!ちょっ・・・!」
サウナは二つの入り口があり、俺たちは左側から出た。女子たちは、中央の露天風呂を挟んだサウナの向かい側の出口付近にいる。このまま女子たちが右に回っていけば、サウナの死角に入った時にそれに合わせて俺たちは左に回って、そのまま出口に行くことができる。
「よし、そのまま行ってくれ。」
うまい具合に右方向へと回って行ってくれた。
「おっ、露天風呂だ。」
『ガラガラ』
柊が露天風呂に入ってきた。
「いっ!」
まぁそんなに上手くいくはずはなく、いきなりピンチである。
『ザプンッ!』
隠れる場所もなく、水風呂に飛び込んだ。
「!!!」
ぬうぉおおお。こんなところにいきなり飛びこむものじゃない。本気で心臓が止まるかと思った。
「はぁ~綺麗だねぇ~・・・クシュンッ、さむっ!」
「彩音~、寒いからこっちから入ろ~。」
「そ、そうだね、そうしよっ。」
中に戻っていく柊。ナイス小野坂。これで俺の寿命が延びた。
「う、うう、さ、さむい・・・。」
体を震わしながら水風呂から出る。いま女子たちは向かいの風呂に入っている。あそこからなら少し見えづらくなっているので、このまま出口に向かうことができる。
「よし、行くぞ。」
「はい。」
あまり音をたてないように、慎重にかつ素早く移動した。
「よし。」
出口の前まで来た。音をたてないようにそーっと扉を開ける。
「ふぅ~、つ、つかれた。」
無事に生還することができた。
「いつ戻ってくるかわかりませんから、早くここから出ましょう。」
「そうだな。」
サッと着替えて脱衣所を後にする。今思えばあんな端っこに荷物を置かなければ、誰かいることくらいわかり、こんなことにはならなかったのだ。と嘆いていても仕方ないし、早く部屋に戻らないと危ないので急いでエレベーターに乗り込んだ。
無事部屋に戻ってくることができた俺たち。
「はぁ、何やってんだ俺たち。」
「まぁでも、これで処刑されずに済みますね。」
「まぁな。」
今日は1日いろんな意味で疲れた。
「ふぅ、寝るかぁ~。」
「そうですね、そうしますか。」
体も冷え切っているので、布団にくるまり早く寝ることにした。