GWの1日
『・・・ピピピ・・ピピピ・・ピピピピ』
(ん~うるさい!)
『バコッ』
このうっとうしい音の元凶をぶっ叩いて止めた。
(休みの日くらい静かに寝かせてくれよぉ~。)
「・・・・・・」
『・・・・・・・ガバッ』
一度起きたら目が冴えてしまった。慣れというものは怖い。一度この時間に起きると自動的に目が覚めるようになってしまったようだ。とりあえず居間に行くとしよう。
『トントントン』
規則正しい包丁の音が台所から聞こえてきた。
「あ、おはよう」
「おはよう」
日曜日だというのにこんなに朝早くから朝食を作っている。うちの親もこの六時起きに慣れてしまったようだ。何だか申し訳ない。
朝食を食べ終わり自分の部屋でゴロゴロしていた。
(12時まで結構時間あるな。どうしよう・・・。)
今日は小野坂、柊、西山の4人で遊ぶことになっている。なぜこのような組み合わせなのかというと、おとといの5月1日にさかのぼる。
5月1日昼休み教室にて
「ねぇ藤井君?今度の試合のことで聞きたいことがあるんだけど。」
「おう、何だ?」
教室の片隅で昼飯を食っている俺に柊が訪ねてきた。隣にはなぜか小野坂がいる。別にこの二人が一緒にお昼を食べているのは不思議ではないのだが、なぜこのタイミングで柊は話しかけてきたのだろう。
「うん、あのさ・・・」
「友喜ぃ~!いるかぁ~!」
バッドなタイミング入ってくる西山晃。
「・・・なんだよ?」
「今度のゴールデンウィークどっか遊びに行こうぜ!」
「いやゴールデンウィークはずっと部活だって。」
「さすがに日曜日は休みだろ?」
「まぁそうだけど・・・」
「じゃあ、日曜12時半駅前に集合な!」
帰り際柊と小野坂を見て
「2人も来る?」
「えっ?あのぉ~・・・」
戸惑う二人。それもそうだろう、お互い顔は知っていても友達というわけではないのだから、突然誘われても困る。
「よしっ、じゃあ決定ね。」
いやまだ答えてないですよぉ~。というか今の返答でよく「行く」と捉えたな。
「じゃあなぁ~。次、移動教室だから帰るわ。」
勝手に決めて、勝手に去って行く西山晃であった。
別に俺に断る理由もなく、柊はなぜか乗り気であった。小野坂はそうでもなかったが、柊が行くとなれば一緒についてくるだろう。
というわけで昼までのこの時間をどう過ごすか考えていた自分である。
(そういえばやりかけのゲームがあったな。それでもするか。)
テレビの横に積んであるゲームの山から探し出し起動した。このゲームは設定や話の流れは良かったのだが、システムが手抜きといっていいほどダメなRPGなのである。俺はRPGは基本話が良ければだいたい最後までクリアするのだが、これはロード時間が長いということで諦めてしまった。
メニュー画面を開くのに5秒もかかってしまう。しかもメニューを開いた後アイテム画面やステータス画面にいくのにも数秒かかるのだ。RPGというのはメニュー画面を開いて閉じてを結構繰り返すので、ここに時間をかけるとかなり萎える。
さらに戦闘システムもビミョーで、これなら普通のコマンドバトルで良かったのではないかと思うものである。
(まぁ今日は時間もあるしのんびりやるかぁ。)
「ふぅ、そろそろいい時間だな。」
昼飯を食べ終えて、ふと時計を見る。11時50分、駅までは自転車で20分ほどで着く。
(少し早く行って向こうで待つか・・・)
「じゃあ、行ってきます。」
「はい、行ってらっしゃい。」
駅へ行くためにはとりあえず学校へと向かわなければならない。といってもあの心臓破りの坂道を上る必要はなく、回り道を使っていくルートを通って行く。途中でこの道は二股に分かれていて右へ行くと学校、左へ行くと駅前へと続いている。今日の目的地は駅前なので左へと曲がる。後はこの道を延々と進んでいくだけだ。
駅が近づくにつれ、少しづつ道が広くなっていき道沿いに色々な店が出てきた。駅の近くというのはどんなところでも栄えているのだろう。ここは結構田舎なのだが駅前はそれなりに都会っぽく見える。
駅の駐輪場に自転車を置き、待ち合わせ場所で皆を待つ。
「・・・・・」
数分後最初に来たのは柊だった。
「藤井君、おはよ!」
「おう、おはよう。・・・あれっ彩夏ちゃん?」
「おはようございます、藤井センパイ!」
ぺこっとお辞儀する柊妹。
「せっかくだから連れてきちゃった。」
別に4人でなければならないことはないので問題ないだろう。
「あぁ、全然問題ないぜ。」
「よろしくお願いしま~す!」
柊姉妹が来て間もなく小野坂がやってきた。
「優希っ、おはよ。」
「おはよう彩音、彩夏ちゃんもおはよう。」
「はい!おはようございます。」
一通り挨拶を終えたが、俺と小野坂の間には気まずい空気が流れている。いつものことなので柊も気にしていなかったが、この状況が初めての彩夏ちゃんは少し戸惑っている。
(なんだか悪いことをしている気分だ・・・)
12時30分、言いだした本人西山晃がまだ来ない。
「ったく、地元のやつが何で一番遅いんだよ。」
地元であると時間にルーズになってしまうのは何となくわかるが、言いだしっぺなのだからもう少し早く来てほしいものだ。
「へぇ~、西山君ってこの辺りに住んでるんだ。」
と柊が言った。
「あぁそっか、皆知らないよな。あいつの家、地味に金持ちなんだよ。」
一応この都会っぽいところに住むにはそれなりにお金が必要なのだ。親がどっかの会社の課長だとかなんとか、昔言っていた記憶がある。
「いいなぁ~こんなところに住んでるなんて。」
「だよね、私たちがここに来るとなると結構時間かかるからね。いつでも買い物したり、お茶したりできるっていいよね。」
「だよねぇ~。」
柊と小野坂が羨ましそうに話している。
駅前は俺たちの高校だけでなく、他の近くの高校生たちも放課後によく寄り道をしている。しかし柊も小野坂も部活をしており、帰りに寄って行こうというのがなかなかできないのだろう。
「彩夏ちゃんもよくここに来たりするの?」
会話に入ろうとしていない彩夏ちゃんに訪ねた。
「あっ、いえアタシはあんまりそういうの興味ないんで。アタシ結構インドア派なんですよぉ~。」
「そ、そうなんだ。」
(インドア派って・・・)
普段の彼女を見ていると思いっきりアウトドア派な気がするのだが。
12時45分
「 お~い!」
西山晃がやっと来た。
「わりぃわりぃ、ちょっと準備に時間がかかっちまった。」
「なんだよ、準備って?」
「ん~まぁ、いろいろだよ」
晃の頭には寝癖がついている。
「ふ~ん寝坊か。」
「な、何言ってんだよ、んなわけないだろ。俺は今日のために色々プランを考えてたんだよ。」
「で、そのプランって?」
「えっ?え~っと・・・」
晃は必死に考えている。数秒後。
「よしっ、カラオケに行こう。」
まぁ、よくあるパターンだ。俺たちに反対する奴はいなかったので、カラオケに行くことになった。
「あれっ?その子って・・・?」
晃が柊妹を指さして聞いてきた。二人が初対面であることを忘れていた。
「あぁ、彼女は柊の妹なんだ。」
「はじめまして、柊彩夏です。よろしくお願いします。」
ペコっと頭を下げる柊妹。
「お、おう、よろしくな彩夏ちゃん。そっかそっか、柊さんには妹がいたのかぁ・・・。」
うんうんと頷く晃。何に納得しているのかよく分からなかったが、とりあえずカラオケへと向かうことにした。
駅前には大きなビルが建っている。このビルには1階に食料品と食べ物屋さん、2階に衣服や靴など、3階に電子機器、4階にゲームセンター、5階に映画館、と色々詰め込んだビルなのである。俺たちは4階のゲームセンターに向かった。ここのゲームセンターの横にカラオケがあるのだ。
「じゃあこの4時間のコースで。」
「わかりました。では403のお部屋へどうぞ。」
と言ってマイクやらなんやらを渡された。部屋について見てみると結構広かった。
「へぇ~案外広いじゃん。」
「あっ見て彩音これってたぶん最新のやつだよ。」
「えっホント?」
柊と小野坂は機械をピコピコいじっている。
「おっしゃ~!トップバッターは俺だぜ!」
さっそく晃が曲を入れて歌い始めた。機械いじりをしていた二人も席に着き晃の歌を聴き始めた。部屋中には何とも不思議な歌声が響き渡っている。晃とは何度かカラオケに行ったことがあるが、こいつのは歌というより騒音である。人間ここまで下手に歌うことができるとは思わなかった。
「ふぅ~、やっぱ叫ぶとすっきりするな。」
(カラオケで叫ぶなよ・・・)
晃が歌い終わりマイクを置く。皆、呆然としている。初めてこの歌で無い歌を聴けばそうなるだろう。
『♪~』
次の曲が流れ始めた。
「あっ、次私だ。」
柊がマイクを取って歌い始める。聴いたことがあるような曲が流れている。しかし他の3人は聴いたことも無いような素振りを見せている。
(何だっけこれ。どこで聞いたんだ?)
サビの部分でふとある映像が頭に浮かんできた。
(こ、これはまさか・・・)
柊が歌い終わり皆に聞こえないように聞いてみた。
「柊ってもしかしてアニメ好き?」
「え?藤井君今のわかったんだぁ~」
と嬉しそうに聞いてきた。そうこの曲はアニソンなのである。しかもこれはゴールデンでは無く深夜にやっているアニメなので、アニメに興味がなければまず聴くことも無いだろう。なので他の3人も聴いたことが無かったのだ。そして俺がこの曲を知っているということはこのアニメを知っているということである。皆には言っていないが俺は結構アニメを見る人である。
「まさかこんな身近に仲間がいるとは・・・」
「だよねぇ~、私カラオケ行った時いつもポカンとされるからつまらなかったんだよねぇ~。」
(普通アニソンは分からないだろ・・・)
「あっ次優希の番だよ。」
「うん。」
柊から小野坂へとマイクが渡る。合唱部の歌声は練習中によく聞こえてくるが、小野坂自身の歌声を聴くのは初めてである。いや子供のころに何回か聴いたことがあった。将来は歌手になると何度も聞かされていたのを思い出した。
『♪~♪~~』
(う、うまい。)
小野坂の歌声がこんなにもきれいだとは知らなかった。彼女の歌声はとてもやさしく、つい聴き惚れてしまった。
「ほぉ~さすが合唱部エース、ほれぼれする歌声だよ。」
小野坂が歌い終わり柊が絶賛していた。
「ありがと彩音。でも私なんかまだまだだよ。」
「いやいや小野坂さんの歌は最高だった。俺が保障してやる。」
いやお前に保障されても困る。しかし晃ではないが本当に小野坂の歌は最高だった。これなら本当に夢を叶えてしまうかもしれない。
「あっ次アタシの番ですぅ~。」
そう言ってマイクを片手に彩夏ちゃんが立ち上がった。
(まさか彩夏ちゃんもアニソンなんてこと無いよな・・・)
「すぅ~・・・」
彩夏ちゃんは思いっきり息を吸い込んだ。そして・・・。
「うぉるぅぁあ~~~!!!」
部屋中に爆音が響き思わず耳をふさいでしまった。彼女の声とは思えない声が鳴り響く。
(うわっ!体中が振動してる。もしかして彩夏ちゃんも音痴・・・?)
いや音痴ではない。これはいわゆるヘヴィメタである。まさか彩夏ちゃんがヘヴィメタ好きとは思わなかった。人は外見で判断できないということを身をもって知った。
「ふぅ~、やっぱりカラオケはすっきりしますね。」
と笑顔で語る柊妹。俺と小野坂は目が点になっている。
「この子ね、こういう歌大好きなの。」
「そ、そうなんだ・・・。」
柊は聴きなれているのか、平然としている。
「いやぁ~最高。彩夏ちゃんの声が胸の奥に響いてきたよ。」
「そ、そうですか。ありがとうございます。」
いやお前と一緒にするな。若干似ている感はするが彩夏ちゃんのと晃のは全くの別物である。
その後俺たちは4時間延々と歌い続けた。俺と柊は皆がついて来られない領域(アニメ界)で勝手に盛り上がっていた。小野坂も柊妹も晃もある意味ついていけないレベルであり、ただの自己満足大会になっていた。
「いや~久々に盛り上がったぜ。」
「わが道突き進むって感じだったけどな。」
会計を済ませ外に出る。
「ん~、まだ5時かぁ~。夕飯にはまだ早いよねぇ、どうしよっか?」
「私は特に希望は・・・。」
「そっか、私も特に何がしたいって訳でもないし・・・。」
柊と小野坂は特に希望はないようだ。
「こういうときのゲーセンだ。友喜、久々にあれやろうぜ。」
と晃の指さす方には、少し前に流行った格ゲーがある。とは言ってもその人気は今も健在で格ゲー界では最もメジャーなゲームである。
「おう、いいぜ。」
『チャリン』
100円玉を入れてゲームを起動する。
「負けた方がおごりな。」
「了解。」
このゲームはキャラクターを3人選んで順番に闘っていくゲームである。負けた方は次のキャラクターに入れ替えて、最終的に3人目が負けた方が負けとなる。
「よしいくぜ!」
『ガチャガチャ』
「あっ、くそっ!」
『ガチャガチャ』
「やるな友喜!」
『ガチャガチャ』
「ぬぅおぁあ~!」
晃の悲鳴が上がる。勝敗は俺が1体残した状態で勝ちだった。
「くそ~友喜いつの間にこんなに腕を・・・。」
「へへっ悪いな。」
実はこの格ゲーの家庭用を俺は持っているのである。しかも格ゲー専用コントローラーもあり、暇があれば練習していたのでいつの間にやら上達していたのである。
「あのぉ~アタシもやっていいですか?」
意外な人が声を上げた。彩夏ちゃんである。
「えっ!?、彩夏ちゃんこのゲームしたことあるの?」
「あっ、はい。」
「よし、じゃあ俺と勝負だ!」
(おい、いきなりかよ!)
『チャリン』
ということで晃と彩夏ちゃんの戦いが始まった。
『ガチャガチャ』
「なっ!」
『ガチャガチャ』
「くっ!」
『ガチャガチャ』
「ぬぅぉお~!」
『ガチャガチャ』
「なっ、なにぃ~!お、俺が負けた。」
結果は彩夏ちゃんが2体残し、つまり3縦で勝利したのだ。晃も最初は手加減していたが、すぐに彩夏ちゃんの力に気づき本気を出していた。しかしその本気の晃でさえ歯が立たなかった。
「な、なぁ彩夏ちゃん何でこんなに強いんだ?」
柊に問いかける。
「さぁ?でも昔部屋に閉じこもってこのゲームをしてたよーな・・・。」
まさか彩夏ちゃん引きこもり説が本当だったとは。
「藤井センパイもやりましょ~。」
「えっ、あ、あぁ・・・。」
まずい。これは本気でやっても負けるかもしれない。
「いきますよ!」
『チャリン』
『ガチャガチャ・・・ガチャガチャ・・・ガチャガチャ』
ま、まずい、非常にまずい。俺と彩夏ちゃん共に残り1体だが、俺はライフが半分、そして彩夏ちゃんはライフMAX。
(ここは一か八かの賭けにでるしかない!)
『ガチャガチャ』
(よしっ今だ!)
『ザシュ、ザシュ、バババババ!』
すきを突いて放ったレベルMAXの超必殺技がクリーンヒットした。
「あっ!・・・やりますねセンパイ。」
これで彩夏ちゃんのライフは4分の1になった。とは言ってもまだ勝負は分からない。
『ガチャガチャ』
「なっ!」
しまった対空技を見事にかわされた。いや「かわされた」というより「出させた」というのが正しいだろう。あのようなフェイントをここで使ってくるとは思わなかった。そして隙だらけの俺に超必殺技が繰り出される。
『ドドドドド!』
まずいライフが強キック1発で終わってしまうほどわずかだ。対空技で中に浮いた状態で、しかもレベル1の超必殺技でなければ俺の負けだった。しかし彩夏ちゃんもたいして俺と変わらないライフだ。
(まだいける!)
『ガチャガチャ』
『ザっ!』
彩夏ちゃんが宙に跳んだ。
(どうする!?)
俺はすかさず後ろへ回り込んだ。
「あっ!」
よし!俺の読みが当たった。
『バシュ!・・・KO!』
俺の勝ちだ。もし彩夏ちゃんがジャンプ攻撃を出していなかったら隙を突かれて負けていた。そして俺が回り込みをせずガードしていたら押し切られていただろう。
「あぁ~!・・・さすがですセンパイ、アタシの負けです。」
「いやいや俺もかなり危なかったよ。」
かなり白熱したバトルだった。俺もかなり練習しているつもりだったが、世界はまだまだ広いということを知った。
『パチパチパチ』
ふと俺たちの周りを見ると数人のギャラリーができていた。
「すげーよお前ら。今度俺とバトルしてくれよ。」
と知らない男に声を掛けられてしまった。「俺も俺も」と対戦を申し込まれる。なんだかめんどくさい状況になってきた。
「まてまて、こいつらと勝負したいならまずはこの俺を倒してからにしろ!」
「・・・・・」
一瞬辺りが静まり返った。
「誰、お前?」
「ん?俺か?俺は・・・」
「あ~、すいません俺たちちょっと急いでるんで・・・」
柊姉妹と小野坂を連れて逃げる。
「あっ、ちょっ、まってくれよ~!」
『はぁ、はぁ、はぁ』
一気に1階まで駆け降りてきたので皆息を切らしている。
『ダッダッダッ』
晃が降りてきた。
「ちょっ、はぁ、なんで、はぁ、置いてくんだよ、はぁ。」
息絶え絶えに文句を言う晃。
「お前があんなこと言うからだろ。めんどくさい状況をさらに悪化させてどうするんだよ。」
「いやぁ~あんなセリフを一度言ってみたいと思ってたんだよ。」
「思うなっ!」
「まぁまぁその辺にしといてさぁ、で、どうする予定より早く来ちゃったよ。」
柊にそう言われて時計を見てみるとまだ5時半だった。今いる場所は当初予定していたレストランの前である。レストランの看板には6時開店となっている。
「どうする?ここでちょっと待つか?」
「うんいいよ、私は賛成。」
「じゃあ私も・・・」
「アタシも賛成で~す。」
「俺は・・・」
「じゃあここで待つってことで。30分くらいすぐだろ。」
「っておい!俺を無視するな!」
「いや、お前の意見を聞くと面倒だから。」
「なんだよぉ、いいじゃないかぁ俺とお前の仲だろぉ。」
変な声を出しながらすがりつく晃。
「や、やめろ、気持ち悪い。」
『ドンッ』
軽く晃をけり飛ばす。
「ぐすん・・・」
(何だよぐすんって・・・)
その後このくだらないやり取りで結構時間が過ぎ気づけば6時になっていた。
案内されたテーブルに座りメニューを見る。
「さて、どれにするかな?」
「私はもう決まってるよ。」
「早いな柊。」
「うん、ここに来たときはいつも同じやつ頼むんだ。」
「へぇ~そうなんだ。どんなの?」
「このドリアだよ。これがまた美味しくてさ、一度食べたらはまっちゃうよ。優希も頼む?」
「う~んそうしよっかな。」
「アタシはこのスパゲティにしま~す。」
「スパゲティかぁ。」
メニューのスパゲティ覧を見る。かなり種類がありどれも美味しそうだ。
「よし、じゃあ俺はこっちのスパゲティで。」
「んん~~・・・よしっ決めたこのスペシャルハンバーグセットにする!」
隣でずっとうなっていた晃が叫んだ。
「よし全員決まったな。」
『ピンポ~ン』
呼び出しのベルを鳴らす。
「おい、何でそんなに素っ気ないんだ。」
「いやめんどくさいから。」
「えぇ~俺とお前の・・・ふぐっ。」
口をふさいで黙らせる。
「もうそれはいい!」
7時半、なんやかんや話しながら食べていたのでそれなりに時間が経っていた。会計を済ませ外に出るとすっかり暗くなっていた。
「ふぅ~、食った食った~。」
「ん?外は結構寒いな。」
「だね、この時期は昼は暑いけど夜は寒いからね。」
上着を着てきて正解であった。
「クシュン!」
隣で小野坂が大きなくしゃみをした。
「優希、大丈夫?」
「うん大丈夫・・・クシュン!」
本当に大丈夫なのだろうか?
「よし、じゃあ今日はこれで解散だな。じゃまた学校でな!」
そそくさと去っていく晃であった。
「・・・俺たちも帰るか?」
「だね、風邪ひかないうちに帰ろっ。」
残った4人は帰る方向が同じなので一緒に帰ることになった。
「じゃあね。今日は楽しかったよ!」
途中でY字路にさしかかった。左へ行くと柊家へ、右へ行くと藤井家、小野坂家がある。
「ああ、彩夏ちゃんの意外な一面も見られたしな。」
「え?そ、そうですか~?」
少し照れながら答える彩夏ちゃん。
「また勝負しような。」
「あっ、はい!今度は負けませんよ!・・・それじゃあおつかれさまで~す。」
「おう、お疲れ。」
とお互いに手を振りながら答えた。運動部どうしだと何故か「お疲れ様」と言ってしまう。これも口癖になってきてしまっている。
(まぁ実際いろんな意味でつかれたわけだが・・・)
「じゃあね。ばいば~い!」
「うん、ばいばい。」
柊姉妹に別れを告げ坂道を上り始める。行きは下りなので楽だが、帰りは上りになっているので辛い。
「歩いて行くか?」
「え?あ、うん。」
俺一人ならさっさと上っていくのだが、今日は隣に小野坂がいる。女の子がこの坂を自転車で上るのは少し辛いだろう。
「・・・・・」
「・・・・・」
会話が無いとても気まずい雰囲気だ。
「クシュン!」
「大丈夫か?」
「うん・・・クシュン!」
「・・・・・」
押していた自転車を止め上着を脱いだ。そして脱いだ上着を小野坂の前に突き出す。
「ほらっ。」
「え?いいよ・・・」
「良くないだろ。どうせ明日も部活あるんだろ?風邪ひいたら辛いだろ。」
と言って無理やり小野坂に上着を着せた。
「・・・ありがと。」
「あぁ・・・」
「・・・・・」
また沈黙が流れた。その時ふと何かを思い出したような気がした。
「あっ!」
「なに?」
「デジャヴ・・・じゃないな。え~と何だっけ?」
必死に思い出そうとするが、なかなか思い出せない。
「?、何の話?」
「いや昔似たようなことがあったようななかったような・・・覚えてるか?」
思い出せそうで思い出せない。このモヤモヤした感じが気になって小野坂に聞いてみた。
「ふぅ~ん、覚えてないんだ。」
「え?お前覚えてるのか?」
「うん。」
「どんなだっけ?」
「教えない。」
「何で?」
「嫌だから。」
「嫌だからって・・・教えてくれてもいいだろ。気になって眠れないって。」
「・・・あんな恥ずかしいこと教えたくないに決まってるじゃん。」
小声でぼそっと小野坂がつぶやいたが、俺には聞こえなかった。
「え?なんて?」
「何でもない!」
そう言ってツカツカと歩いていってしまった。
そうこう言っているうちに家の前まで来てしまった。
「くそっ思い出せない。」
「まだ言ってるの?・・・じゃあこれありがと。」
そう言って俺の上着を返した。
「おう・・・あっ!」
その時ポンッと頭の中にある映像が浮かんだ。
「な、なに?」
そこには小さいころ(おそらく幼稚園ぐらいの頃だろう)の小野坂がずぶぬれで立っていた。
「ふっ、ふふふふ、あははははは。」
笑いがこみあげてきて、思わず笑ってしまった。
「あはは、そりゃ思い出したくないよなあんなこと、ははは。」
ふと小野坂を見ると顔が真っ赤になり、ふくれあがっていた。
「最低・・・」
「い、いや悪い。でも・・・ふふふ、あははは。」
「・・・帰る。」
家のドアを開けて中に入っていこうとする小野坂。
「・・・じゃあな、また明日。」
俺は少し昔のことを思い出しながら言った。
「え?あ、うん、また・・・明日。」
(「また明日」か。最後に小野坂に言ったのはいつだったかな。)
そんなことを思いながら俺は家に入った。その日俺は少しだけ昔に戻ったような気がした。