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三人の友情

 それは雪の降る公園での出来事。丘の上にある公園はいつにもまして寒く、それでも少年と少女はいつものようにブランコに乗っていた。

「ね、ともくん。ずっといっしょだよね?」

 少女はブランコを止めると、少年に近寄った。

「うん」

 少女は一輪の小さな花を手に持っていた。それは弱々しく、今にも枯れてしまいそうだった。

 公園に咲く小さな花。

 少女が好きだった花。

 名前は知らない。

「あのやくそく、ぜったいだからね」

 少女の顔は赤く染まっていた。この寒さのせいか、それとも違うのか。

 少女の目は今にも涙が溢れそうで、でもそれを堪えていて、結局流れてしまった。

「うん」

 花を受け取った少年は少女に別れを告げて。

 花を渡した少女は少年に別れを告げて。

 二人は坂道を下っていった。


==============================


「藤井君、また寝てたのぉ?」

 ある日の放課後。柊の声に半分ほど夢の中にあった意識を現実世界に戻す。

「また、っていうか、まぁ寝てたのは事実だけど、そんなしょっちゅう寝てるわけじゃないぞ」

 今日はたまたまだ。数学の授業がいつも通り理解できなくなってきたところで睡魔が襲った。それだけである。

「えぇ~、でも私が見るといつも寝てるよぉ」

 隣で頷く小野坂。

「だからたまたまだって。それよりも何か用があったんじゃないのか?」

「ん~別にないよぉ」

 無いのかよ。

「今日は部活が休みの日だし、優希と一緒に帰らないのかなぁって」

「もういいよ、そのくだり」

 いくら慣れたからといって、面倒なものは面倒だったりする。

「最近一緒に帰ってないし、彩音も一緒に帰ろうよ」

 と小野坂の言。

 確かに言われてみればそうだ。部活があるときは当然別々になるし、今日みたいに無い日も柊のせいで俺と小野坂が二人で帰ることが定番になっている。

「うぅ、優希がそこまで言うなら仕方ない。今日は特別だよぉ」

「うん、ほら行こ」

 小野坂が柊の手を引き教室を出る。

「ほら、トモ君も」

「え、俺? なんで?」

「なんでって、帰らないの?」

 いや、帰りますよ。帰りますけど何故一緒になのだ。

「せっかく二人で帰るんだから、親友同士の邪魔をするようなことはしないよ」

「藤井君、君は私たちと一緒に帰る義務がある」

 いや、無いよ、柊さん。

「でも帰るんでしょ?」

「そうだけどさ・・・・・・」

 言っても仕方ない。どうせ一緒に帰ることになるんだ。それなら先に折れておこう。



 ―――――校門前にて―――――

「あ、そうだ。私、教室に忘れ物しちゃった。ちょっと取ってくるから先に帰っててね」

 と柊。

 なんだ、そのバレバレなウソは。

「・・・・・・」

 小野坂は柊の手を掴み、その手を放さない。

「ちょ、私、忘れ物・・・・・・」

 柊は必死に振りほどこうとするが、その手は抜けない。

「帰るよ」

 笑顔の小野坂。

「・・・・・・はい」

 その笑顔はどう見ても悪魔だった。


 ―――――帰り道―――――

「あ、そうだ。私、ちょっと用事があるんだ。だから先に帰っててね」

 と柊。

 なんだ、そのバレバレなウソは。

「・・・・・・」

 小野坂は柊の手を掴み、その手を放さない。

「ちょ、私、用事が・・・・・・」

 柊は必死に振りほどこうとするが、その手は抜けない。

「帰るよ」

 微笑む小野坂。

「・・・・・・はい」

 その微笑みはどう見ても鬼だった。


 ―――――帰り道 2―――――

「あ、そうだ。私、お腹が痛いんだった。だから先に・・・・・・」

「柊、それはどうかと思う」

「だよねぇ」


 ―――――帰り道 3―――――

「何でそんなに二人にしたいんだよ。変な演技までして」

 柊のそれは演技と呼べるものではなかったが、今は置いておこう。

「だってやっぱり二人には一緒に居てほしいし・・・・・・」

「だからってなんで二人きりなんだ。別に柊がいてもいいだろ」

 正直、普段の会話は二人だけだと続かないので、柊がいてくれたほうが助かったりする。

「ねぇ、彩音。私たち友達だよね? 私も、トモ君も、彩音も。三人とも友達だよね?」

「うん」

「じゃあさ、なんで一緒にいるのがダメなの?」

「それは・・・その・・・」

「彩音の考えてることわかるよ。私もバカじゃないから。でもさ、それって私たちが離れていい意味にはならないよね」

 小野坂は自分の気持ちをぶつけていた。それは今までに見たことが無いくらいに。

「一緒にいたいなら一緒にいればいい。それを彩音が遠慮する必要はどこにも無い。ううん、私は彩音にいてほしい。だって、それが私たちでしょ」

 そう、それが友達として当然の気持ちだ。

「で、でも、それじゃあ・・・・・・」

「それじゃあ何? 私とトモ君が離れちゃう? そんなわけ無いでしょ。私はトモ君が好きで、トモ君も私が好きなんだから!」

 おい、小野坂さん、なんかすごいこと言ってるぞ。いや、意味はわかるよ。でも、それはちょっと誤解を招く気がする。

「・・・! ・・・?」

 ほら、柊も反応に困ってる。

「ええっとつまりだな。ともかく、柊がそんな面倒なことしなくてもいいってことだよ。お前が小野坂と一緒にいたいなら一緒にいればいい。それだけだ」

「えっと、うん。じゃあそうする」

 ほら、なんか後味悪い締めくくりになってしまったじゃないか。

 まぁでも、一応解決したってことで。


 ―――――分かれ道―――――

「じゃあ。また明日」

「うん、また明日」

 小野坂と柊の二人は互いに手を振った。

 一件落着したということで普段通りに戻ったわけだが、結局は柊と別れると二人きりになるのだ。

「・・・・・・」

 暫く無言が続く。それはいつもの二人。

 でも、何かを話したいと思うのも事実である。

「そうだ、小野坂が好きな花ってなんだっけ?」

 夢の中での出来事を少し思い出したので、彼女の好きな花の名前を聞いてみる。

「私が好きな花? う~ん、色々あるけど、一番はタンポポかな」

「タンポポか……」

 タンポポは冬に咲いただろうか? しかもあの夢に出てきた花がタンポポなら、いくら花に興味が無い俺でもわかる。

 まぁでも夢の記憶なんて曖昧だし、小野坂が一番好きな花があの花だという記憶も正しいのか怪しい。

「どうしてそんなこと聞くの?」

「いや、昔小野坂に貰った花ってなんだったかな、と思って」

「私がトモ君にあげた花?」

 小野坂は少し思い出すようにした。

「ああ、そういえばそんなことあったような、なかったような……」

 小野坂もあまり覚えていないようだ。ならばこの記憶もあまりあてにならないな。


 ―――――翌日の教室にて―――――

「思い出したよ。たぶんトモ君にあげたのタンポポだったよ」

「おお、そうか」

 昨日からモヤモヤしてたから、なんだか胸のつっかえが取れた気分だ。

「んん? 何の話?」

 と、柊が横から入ってきた。

「ああ、俺が昔小野坂から花をもらったことがあったんだけど、それがなんだったかなって」

「おお、いいねその話。うんうん、そういう話があってこそ幼馴染だよ」

 なんだその定義。

「タンポポ、いいねぇ。花言葉は「真心の愛」だったかなぁ?」

「へぇそうなんだ。柊詳しいんだな」

「まぁちょっとだけどね」

 花に全く興味の無い俺にとって、それはすごいことである。花言葉なんて覚えるのも大変そうだし。

「彩音はどんな花が好きなの?」

「私? う~んなんだろうなぁ。やっぱりマーガレットかな。花言葉は「真実の愛」。二人に相応しい花なのだ」

「なんでいちいちそういうことに繋げるかな」

 しかし、「真心の花」と「真実の花」。一文字しか違わないのによく覚えているな。

「ふふん、私の記憶力をなめてもらっては困る」

 そうでした。この人は学年でトップの成績の持ち主だった。

「あと釣鐘草も好きかな」

「釣鐘草?」

 なんか聞いたことの無い花だな。

「別名「風鈴草」。その名の通り風鈴みたいな形をしてるんだ」

「へぇ~そうなんだ」

「そう、そしてこの花言葉は私たち三人に相応しい」

「なんていうんだ?」

「それは……」

 柊は少し顔を赤らめていた。でも、それは屈託のない笑みだ。

「それは――――――友情!」


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