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デート? その1

「格闘ゲーム、ですか?」

 昼休み。突如、生徒会長に呼び出された俺は、生徒会室に向ったわけなのだが、

「藤井君に折り入って相談があるのですが・・・・・・」

 と言われて真剣に話を聞いていたのに、話の内容が「格闘ゲームについて詳しく教えてほしい」というよくわからないものだった。

「教えるのは構わないんですけど、どうして格闘ゲームなんですか?」

 当然の疑問だった。ゲームとは無縁の人だろうと言うに相応しい人物が、何故そんなことを聞くのだろうか。それも格闘ゲームとは、いやはやどうなっているのだ。

「―――――姫川グループの傘下にゲーム会社があるのはご存知ですか?」

「い、いえ、初めて聞きました」

「そうですか。訳あって社名は出せませんが、ゲームセンターを主に拠点とした会社があるのです」

 マジか。姫川グループって何でもありな気がしてきたな。

「そこで、格闘ゲームに関して豊富な知識を持っているという藤井君にお願いしたいと思いまして、こうしてお呼びしたのです」

「・・・・・・・・・・・・・・・え、あの・・・・・・え?」

 なぜ俺が選ばれたのかはこの際気にしないとして、この人が格闘ゲームについて教えてほしいという意図がまったく見えないのだが。

「どうかしましたか?」

「あの、どうして先輩は格闘ゲームをしようと思ったんですか?」

 先輩に問うと、暫く間をおき答えた。

「―――――ゲームセンターを主に拠点とした会社が、姫川グループの傘下にあるのです」

「・・・・・・・・そ、それで?」

「―――――ゲームセンターを主に拠点とした会社が、姫川グループの傘下にあるのです!」

 答えになってないよ先輩。そんな感嘆符を入れられてもわからんです。

 先輩は一つ咳払いをすると、強引に話しを進めた。

「ともかく、私に格闘ゲームの何たるかを教えて頂きたいのです。格闘ゲームはとても人気のあるゲームだと聞きました。国内だけでなく、海外でも人気だとか。しかし、それに反して格闘ゲームの開発は国内に留まるばかりで、海外ではあまり進んでいないと聞きます。海外のプレイヤーの皆さんも日本国内の格闘ゲームを目当てにやってくることが多いらしいではありませんか! ですから、私は格闘ゲームを学びたいと思い立ったのです」

 と、思い出したようにつらつらと言葉を並べる先輩。

 確かにこの人の言うことは正しい。正しいのだが、まったく答えになっていない。どんなに力説しようが全く以って説明になっていないのだ。

「そういうことですので、今日の放課後にお時間を頂いてよろしいでしょうか?」

 無理やり話を終わらせようとしてるよこの人。

 しかし、あの姫川先輩が何の理由もなくこんなことをするはずもないし、何かしらの理由があるのだろうとは思う。だが、あまりにも強引ではないだろうか。それとも、何か言えないことでもあるのだろうか。

「わかりました。今日は部活も休みですし、特に予定もないのでいいですよ」

 だがしかし、あの姫川先輩の頼みだ。ちょっとラッキーなんて思いながら安請け合いしてしまうのだった。




 ―――――ゲームセンターにて―――――

「ここがかの有名なゲームセンターなのですね」

 姫川先輩は珍しいものを見るようにゲームセンターの中を見回していた。それに対するようにゲームセンターの中にいる人達(主に野郎共)が姫川先輩のことをジロジロと見ていた。

 それもそのはずだ。見た目は普通でどこにでもいそうな、そして、ちょっと美人な女子学生。しかし、その身体から放たれるお嬢様オーラは、誰の目から見ても輝かしい光りを放っているだろう。これほどまでにゲームセンターが似合わない人はいない。

「こういう所に来るのは初めてなので、少し緊張しますね」

 だが、先輩はそんな目を気にすることもなく、微笑を俺に向けた。

 さて、今ので一体どれだけの人を敵に回したのだろうか。ゲーセン内にいる奴らからの、冷たく刺さるような視線を浴びまくりである。

「あれが格闘ゲームの躯体ですね。早速教えていただけますか?」

 そして、そんな目線すらも気にしない先輩だった。





 ―――――一方そのころ―――――

「何で隠れなきゃいけないんだよ」

「佐藤先輩は気にならないんですか? あの二人がどうしてこんな所にいるのか。しかも、二人きりでなんて!」

 ゲームセンターの隅に隠れる3つの影。1つは私こと柊彩音。もう1つは佐藤先輩。

「そりゃ気になるけど、隠れる必要はないだろ」

「ふっ、甘いですよ先輩。素行調査は隠れてなんぼですよ!」

「素行調査もなにも直接聞けばいいだけのことだろう」

 それはそうなのだが、それでは話が終わってしまうのだ。

「ねぇ、なんで私もこなきゃいけなかったの?」

 そして、もう一つの影、小野坂優希は何故ここにいるのかを理解していなかった。

「もぅ何言ってるのさ。最大の恋敵となるかもしれない相手が今目の前にいるんだよぉ。これを見ておかないでどうするんだ!」

 と言ったが、当の本人はあまり気にとめる様子もなく、どうもしないらしい。

「ほぉ余裕だねぇ。さすが幼馴染は違う。でも、そんなこと言ってたら足元すくわれるよ。一歩リードしてるからって勝てるとは限らないんだよ。恋ってのは、そういうもんさ・・・・・・」

「そんなしたり顔で言われても・・・・・・」

「しかしあれだな、美羽がこういう所に興味があるとは思わなかった」

 佐藤先輩がしかめっ面で呟くと、二人ではこういう所にはこないのか、と優希が先輩に聞いた。

「ああ、美羽と一緒にいることはよくあるが、こういった遊ぶ類のものがある場所には行ったことがないな」

 二人でいる時は、大抵は喫茶店でお喋り、そして帰りに買い物、というお決まりのコースがあるとのことだ。

「それじゃあ、これは佐藤先輩の知らない姫川先輩の一面、ってことですね」

「確かに彩音の言う通り、私の知る限りでは初めて見るな」

 佐藤先輩と姫川先輩の仲が親友であることは周知の事実である。そのため、姫川先輩のことについて佐藤先輩が知らないことがある、という事は私と優希にとって驚きであった。

「う~ん、これは佐藤先輩も危ないんじゃないのかなぁ」

「どういう意味だ?」

「えっとですねぇ、それは二人の関係が親友以上の関係ではないのか、という噂がとある層から流れてきているのです」

 という私の言葉をすぐに理解できなかった先輩は暫くの後、意味を理解すると同時に私の頭をぺシッと叩いた。

「んなわけあるかい!」

「いてっ! なんで私を叩くんですかぁ」

 噂の根源は私ではないのでとばっちりである。

 しかし、少し興味を持った人間がここに一人。

「・・・・・・キマシ・・・・・・」

「いや、きてないから」




 ―――――友喜サイド―――――

 姫川先輩の成長ぶりはすさまじかった。格闘ゲーム初心者はキャラクターを操作することさえままならないというのに、この人はたった数分で操作方法を覚え操作キャラの技は全て出せる様になってしまった。これが姫川の血かっ!

「なるほど興味深いですね、このコマンド入力というものは。一つ一つの技をコマンド入力にすることによって、この僅かなボタン数で複数個の技を出すことが可能になっている。もしこれをそれぞれの技に対応したボタンにし作るとするなら、倍以上のボタンを配置しなければいけません」

 なんか目の付け所が違うよこの人。

「一通り操作ができるようになりましたし、そろそろ対戦でもしましょうか?」

 格ゲーは操作ができるだけではいけない。どんなゲームにもいえるが、操作ができるようになってからがスタートである。

 そして、戦う相手が人間である以上、コンピューターを相手にするゲームと違い、その人の癖を見抜き、さらに駆け引きをしなければいけない。それが格ゲーの醍醐味でもある。

 勿論、先輩は初心者なのではじめは手加減していたのだが、才能というものなのかみるみるうちに成長していき、いつしかこちらも本気を出さなければいけなくなっていた。

「ああ、また負けてしまいました。もう一度お願いします!」

 だが、流石に負けることはない。―――――負けたほうがいいのかな?

 しかし、突如場の空気が変わった。

 冷たくそして鋭い、まるで刃物か何かを身体に突き立てられている様な、そんな感じ。悪寒が走る。

「藤井君、あなたの動きは全て把握しました。これからが本番です」

「・・・なん・・・・だと・・・・」

 まさかこれまでの戦いは全て、俺の動きを見切るためのものだったと云うのか。

「ここまでの戦い、私がなにもせずにただ負けているだけだと思いましたか?」

 確かに、これほどまでに早い成長を遂げた先輩が、急に動きが鈍くなったようには感じていた。しかし、それは初心者にはよくあること。ある程度の技量を身につけると、そこから先に進むには時間が必要になる。

 たった数回の対戦、数十分の対戦で上手くなることはできない。先輩もその例に漏れず苦戦しているものだと思っていた。

 だが、それが演技だとしたら?

 これまでの立ち回り、いま考えればそれは初心者の動きではなかった。そう、まるで相手の動きを見るためにわざと攻撃を受け、けん制し、全ての動きを、癖を見ているようだった。

「―――――くっ!」

 不覚だ。まさか初心者に負けるはずなどない。その考えが驕りだった。目の前にいるのはあの姫川グループの社長令嬢。ただの初心者であるはずがない!

「さあ、行きますよ。これが―――――私の本気です!」

 放たれる猛攻。今までとは動きが違う。

 いや、これが本来の動きだ。本来、先輩の使うキャラクターは、止まない連撃で相手の動きを封じること。コンボが繋がることはないが、一度固められては抜け出すことはできない。

「油断しましたね」

 そう、明らかに油断していた。

 今までの戦いは、先輩のキャラクターの動きがあまりにも慎重すぎた。だから、このキャラクター本来の動きをそういうものだと錯覚してしまっていた。これまでに何度も戦ったことのあるキャラクターであるはずなのに、先輩との対戦でいとも簡単にその動きを忘れさせられていた。

 こうなれば、後はガードが崩されるのを待つのみ。それだけだ。そう、それだけ・・・・・・。

「―――――! まさか、自からガードを解いたのですか。ですが、それは負けを認めるも同じ!」

「いえ、まだです!」

 コンボが途切れた同時にすかさず後ろへ回り込む。

「甘い! その程度では・・・・・・逃れられない!」

 繰り出される攻撃。また連撃により固められる。そう思ったはずだ。

 しかし、宙を舞ったのは先輩のキャラクターだった。

「・・・・な・・・・・・・!」

「先輩、カウンターってご存知ですか?」

「相手の攻撃に合わせコマンドを入力することによって攻撃を跳ね返し、逆に相手にダメージを与える」

 そう、このキャラはカウンターを主軸とした戦法をとるキャラクター。そして先輩のキャラはコンボの始動が必ず上段から入る。

「先輩の攻撃は、もう効きませんよ」

「・・・・・・っ!」

 形勢逆転。圧倒的不利から圧倒的有利へ。

「さあ先輩、来てください。―――――その全てを打ち返して見せましょう」





 ―――――柊サイド―――――

「なんだ、なんか妙に盛り上がっていないか?」

 佐藤先輩の声に藤井君たちを見ると、その周りには数人の人だかりができていた。

「何やってるんだ、あれ?」

「ただ普通にゲームやってるだけだと思いますけど・・・・・・」

 しかし、この状況に似たようなものを前に見た気がする。確かその時は藤井君と彩夏がゲームをやっていて、それでいつの間にか周りに観客ができていて色々と面倒なことになった記憶がある。

「なるほど、そんなことがあったのか。ということはこの後も何か面倒ごとが起きるかもしれない、ってことか」

 と、佐藤先輩は言ったが、今あそこにいるのは姫川先輩である。知っている人間なら近寄り難いと思うし、たとえあの人を知らなかったとしても、姫川先輩から溢れ出るオーラを目の当たりにして、周りを取り囲むなんてことはしないだろう。現に、今までできていた輪が少しずつ散り始めている。

「あれなら大丈夫かな?」

 とはいえ、離れた場所から除き見ているのは丸分かりである。





 ―――――友喜サイド―――――

「・・・っく・・・・・これが、あの有名な・・・待ち!」

 カウンター攻撃により体勢が崩された姫川先輩だったが、依然その不利である状況を覆すことはできていなかった。

 飛び道具でのけん制攻撃から、飛込みへの対空技。すべてが跳ね返されている。

「このままでは、私の負け」

 勝負は目に見えていた。打つ手なしの姫川先輩が、全ての攻撃に対して対処可能な俺に適うはずなどなかった。

「ならば、私はこの一撃に全てを掛けます!」

 姫川先輩の放った攻撃。発動から初撃までの間無敵になる、全ゲージを使った超必殺技。攻撃の隙を突いた一撃。こちらに回避する術はなく、残りのライフは削りきれるかどうか。まさに賭けだった。しかし―――――

「・・・な・・・・そんな、返された・・・・・!」

 先輩の放った最後の一撃もことごとく跳ね返された。

「先輩、さっきも言いましたよね。俺のキャラクターはカウンターを主軸にした戦い方だと」

「ですが、超必を返すなんて。―――――っ! 超必殺技をカウンターする超必殺技!」

「先輩は知っていたはずです。俺のキャラがその技を持っていたことに。ですがあなたは気付けなかった。そう、待ちの戦法に変えた時点で、あなたはカウンターという選択肢の確率を無意識に下げていた。それがあなたの敗因です、姫川先輩」

 勝負は決した。

 姫川先輩は膝を落とし、うなだれるようにした。

「私の、負けです」

「ええ、そして、俺の勝ちです」



 ―――――柊サイド―――――

 わっと歓声が上がる。どうやら決着がついたらしい。しかし、この前のように取り囲まれるようなことはなかった。

「どっちが勝ったんですかね?」

「さあな、ここからじゃ見えん」

 あまり興味がなさそうにした佐藤先輩だったが、二人のほうを見ながら

「藤井が勝ったみたいだぞ」

 と言った。

 何故わかったのか聞こうと思ったが、その光景を見てすぐにわかった。

「姫川先輩でも藤井君には勝てないか」

 なんでもそつなくこなす姫川先輩だが、始めたばかりのもので真の実力者に勝つことはできないのだろう。

「あ、二人ともゲームセンターから出てく。早くしないと見失うよ」

 優希はゲームセンターから立ち去る二人を見て、少し急かすようにした。

 実は一番乗り気なのは優希なのではないだろうか。

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