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コルチカム  作者: 白キツネ
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赤崎優馬

 私が今まで引っ越しをしたのは3回。1回目は父の仕事の都合で母と共に田舎町に行った。2回目は母の療養のために、母方の実家に戻った。そして、母が亡くなってから、父とまた田舎に引っ越したのが3回目だった。

 

 父は本当は私や母を愛してはいなかったのではないか。3回目の引っ越しの時にそう感じた。田舎に行った事が母の亡くなった原因だと言うのに、また行くと言うのだから、聞いた時には耳を疑った。

 父は本当に環境の変化だけだと思っているのだろうか? そんなはずはないのに……


 目が覚めると私はまた教室にいた。死んでもこうして生きかえる事ができるのは私だけなのだろうか?

 それとも、ゲームのように残機というものが存在しているのか……。本当はもう既に死んでいる可能性もある。


 ふぅ。深く考えるのはもうやめよう。一度考える事をやめ、辺りを見回してみる。辺りはまだ暗い。だから、この空間では時間が経っていないという事だろうと推測を立てる。

 ここはもともと空き教室だったのか、机や椅子が何もない。

 今いる教室をくまなく探すと、教室の隅に持って来ていたはずのカバンが見つかった。チャックを開け、中に水筒が入っているのを確認し、一息つく。

 綾香はチャックを閉め、カバンを担いで教室を後にした。


 ――さて、何処に向かおうか。


 1度目は3人ともが共通してここから出るという意識があった。だからこそエントランスと推測できたし、彼らもそこで合流できていた。だが、今は違う。


 エントランス出口は使えなかった。他の教室と同様に開かなかった。この事実により、考え方には個性が出る。

 

 もう出られないんだと恐怖に怯え、まったく動けなくなる者。

 1人でいる恐怖に耐えられず、他の人を探し求める者。

 他の出口がないか、もしくはその手がかりになる物はないかと隈なく探す者。


 ――とりあえず、1番見つけやすいのは彼だろう。


 赤崎優馬。彼は動き回るのではなく、ジッと身を隠すタイプの人間だ。

 だから、入れる教室を一つずつ確かめていけば見つける事ができるだろう。綾香はそう考え、手始めに彼が初めに居た職員室に向かった。


「……まさか、本当にここに居るなんて……」


 職員室に辿り着くと、壊された扉はそのままであり、廊下からでも中を一望できる。そして直ぐに、机の下に頭を抱えたままガタガタと震えている優馬の姿を見つける事ができた。


 ――隠れるつもりはあるん……だよね。ここからでも丸見えなんだけど。


 窓を警戒しているのだろう。確かに現状では何が起こっても不思議ではない。しかし、警戒するにしても、わかっている脅威を放置して隠れていることに綾香は理解できないでいた。


「……優馬」


 綾香が彼の名前を呼ぶ。その瞬間、彼はビクッとしてゆっくりと振り返る。そしてひどく青ざめた顔で……


「ゆ、幽霊……」

「勝手に殺さないでくれる?」


 実際、彼が言った事は否定できないのだけれど……思わず否定してしまう。


「で? どうしてこんなわかりやすいところに隠れてるの?」

「窓は怖いじゃないか。手の跡がバババッてなるかもしれないし……、ずっと外から覗かれている気がするし……、だから、扉を壊される前はここに隠れていたんだけど……」

「つまり、壊れた扉の事も考えずに元の場所に隠れたってことね」


 体育座りをしながら、「うっ」と情けない声を上げ、俯く優馬。

 

「綾香ちゃんはさ、凄いよね」


 しばらくの沈黙の後、俯いたまま優馬が話しかける。


「凄い? 何が?」

「だって2回も僕らを助けてくれたんだよ。あんな訳の分からない相手に立ち向かったりして……僕には到底真似できそうにないや」

「私だって怖くない訳じゃないよ。ただ私には……!」


 その時、ギー、ギーと音が聞こえる。彼女だ。刀を引き摺る彼女が、この近くにいる。そんな音が聞こえて来る。


「ヒィッ!」

「……落ち着いて、私が囮になるから、優馬はここで隠れてて。できれば、廊下から見えないようにね」

「ッ! でもそれじゃあ!」

「じゃあね。死なないでね」


 まだ何か言いたげな優馬を背にして、綾香は彼女がいるであろう音の方へ走り出した。

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