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追放ざまあ110番 ギルドのトラブルお任せください! 社長とイルスが国家を救う!

作者: 超プリン体

 とある冒険者ギルド兼酒場で、数人の男女がビールジョッキを持ち、怒鳴っている。怒鳴られているのは、床で正座させられている金髪男性だ。その金髪は、錬金術師だった。彼は涙ながらに訴えた。


「そ、そんな突然言われても! 待ってくださいよお。俺だけパーティー追放だなんて、ひどすぎますよお、うわーん、ぐすんぐすん」


 彼は一か月前、レアな職業である錬金術師ということで、このパーティーに期待されてスカウトされたのだが、彼がお得意の錬金術で作れるのは、「先っぽ赤い棒」という小さな小さな棒だけだった。しかも金髪本人も、その「先っぽ赤い棒」の効能や使い方を知らないため、実質彼は、パーティーに何の貢献も出来ないお荷物になってしまっていたのだ。


エルフ女性

「その小さな小さなおもちゃの杖のような先っぽ赤い棒とやらで、どう戦えっていうのよ」


人間女性

「そうよそうよ! なんであたしたちが、毎日毎日あんたにタダ飯食わしてやんなきゃいけないのよ!」


人間男性

「いい加減もっと役立つものを作ってみろって、俺たちずっと言ってたよな?」


エルフ男性

「我々は今日までずっと我慢してきたのです。そろそろ自覚していただかないと、ね」



 金髪が必死に訴える。

「わ、わかりました! 明日までに何とかします! 何か役立つものを、錬金で作って見せます! だから一日! あと一日だけ待ってください!」



人間女性

「はあ? あと一日あと一日って、あたしたちがこれまで何日待ってやったと思ってんの? もう限界! もう遅いんだよ!」

ペッと唾を吐く女性。


エルフ女性

「そういうわけで、悪いけれどあなたはこのパーティーを追放よ」

エルフ女性もペッと唾を吐いた。


フェアリー女性

「ふっ、ざまあ」

ちっちゃなフェアリーもペッと小さな唾を吐いた。


「ぐっ!」

 顔にかけられた唾をぬぐいながらも、何も言い返せない金髪男性。握った拳を震わせ、歯ぎしりをしながら屈辱に耐える。彼はふらりと立ち上がって、ギルド兼酒場の出口に向かって、よろよろと歩いていく。


 その彼の背後に、元メンバーからのしんらつな罵倒が浴びせられた。

「お前はそのちっちゃな棒で、お前んちのゴキブリでも退治してろ!」

「WAHAHAHAHA!」

「HAHAHAHA!」



 「追放ざまあ系トラブル」。

 それはギルドで頻繁に発生するトラブルの、ナンバー1だった。


 パーティーで最も役立たない者を追放することで、枠を一つあけてもっと別の有能な冒険者をスカウトする。それはパーティーのメンバーにとってはとても重要なことであるのは否定はできない。だが、追放された冒険者にとっては、たまったものではないだろう。


 何度も何度もパーティーに加わっては追放され、最後には貧困の末に餓死寸前にまで落ちぶれる。「追放ざまあ系トラブル」は、そんな格差社会を生む最大の原因として、今、国家的な課題として認識されつつあるのだった。


「また、追放されちまった……。だめだ。もう俺なんて……、俺に居場所なんて」

悔しさに再び涙を流す金髪男性。


 金髪がギルド兼酒場の扉を出ようしたその瞬間、黒いマントを着て、頭ツンツンで、ゴーグルをかけた巨漢が彼の前に立ちふさがって叫んだ。

「ちょっと待ったあ!」


「え?」、と金髪男性。


 巨漢に続いて、赤いベレー帽をかぶったおさげ髪の小柄な少女が、店に入ってきた。少女は名刺を金髪男性に差し出して言った。

「こんにちは。私たち『追放ざまあ110番』の者です。今日この町に引っ越して来ました。ギルメン間のトラブル、何でも解決致します。お見知りおきを!」


金髪男性に名刺を渡した少女は、ベレー帽を脱いで、ぺこり、とお辞儀をした。


「つ、追放ざまあ、110番? イルス?」 金髪が名刺を見ながら、震える声で言った。


「はい、私がイルスです!」、と少女。

「そして俺が、その会社の社長だあ!」、と巨漢がどや顔で言った。


「な、何なんだアイツラ……」金髪男性を追放したメンバー達が、ざわつき始めた。



◇ ◇ ◇ ◇



「で、その110番さんたちが、俺達にどうしろと?」、とメンバーの一人。


「その金髪君を、今後もメンバーとして雇って欲しいのだ」、と社長。


「だからさっきも説明したけど、そいつちっちゃい棒っ切れしか生成出来ないのよ!」


「先っぽ赤い棒のことですね。皆さんはその先っぽ赤い棒の本当の名前と、その便利さをご存じないのですか?」、とイルス。


「え?」

「便利? これが?」

「先っぽ赤い棒の、本当の名前、だと?」

ざわつくメンバー。


「はい、その先っぽ赤い棒の、本当の名前は『マッチ』です。マッチはその先端の赤い部分を摩擦して熱することで、発火させることが可能なんです」


「ま、マッチ?」

「発火? ウソだろ?」

「魔法も使わずに、発火だと?」

「HAHAHA、いい加減なこと言いやがって」


「嘘ではないぞ、こうやって、こうだ!」、と社長。


社長が『マッチ』を一本手にとり、先端の赤い部分を、テーブルにこすりつけた。次の瞬間、『マッチ』の先に、火がついた!


「な!」

「なん、だと?」

驚くメンバー。


「わかりましたか? これは小さな棒だけど、とても便利な棒なんです。お料理に使えたり、ゴミ焼きにも使えたり、松明たいまつに火をともすのにも使えます。もしこのパーティーでは使わないなら、このギルドで販売してもらって、お小遣い稼ぎをしてもいいです。魔法で火起こしするにもマナを使いますから、マナを温存しておきたい戦闘系冒険者の皆さんは、きっと欲しがると思います」


 ふうむ、とうなるメンバー。


「お、俺の先っぽ赤い棒に! そんな便利な使い道が!」 ぱっと明るい表情になった、金髪男性。


 席を立ち、金髪男性を取り囲んだメンバーたちが言った。


「わ、わるかったな。その先っぽ赤い棒、俺にも一本譲ってくれないか?」

「はい! 一本と言わず何本でも!」

「HAHAHA」

「WAHAHAHA」



◇ ◇ ◇ ◇


会社に戻るために、歩く社長とイルス。イルスが言う。


「あの説明で、みんな納得してくれてよかったです」


「ああ。マッチの本当の恐ろしさを、あの金髪男が知ってしまうと、世界を変えてしまいかねんからな」


「ええ。マッチを一瞬にして何万本、何億本と生成して巨大な塊にして、火をつけるとどうなるか、考えただけでも恐ろしいですね」


「うむ、まあその最強の使い方は、またあいつが追放されそうになったら、教えてやろう」


「はい!」



『追放ざまあ110番』。彼らは今日もこの世界のどこかで、数多くの「追放ざまあ系トラブル」を解決し、追放された冒険者たちを救っているのだ。がんばれ社長! がんばれイルス! がんばれ追放ざまあ110番!


(おわり)


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