第49話〜任命式…の裏で〜
…リシュリューは今後の公務に備えるため、俺のところいられる時間は1週間程度になる予定だった。
流石に長居させてはいけないと思って、俺とペトラで話し合った結果なのだが…
「もう少しいてもいいでしょ!?ペトラちゃん!」
「ダメなものはダメです、お嬢様」
リシュリューはまるで駄々っ子のように頬を膨らませてペトラに抗議してる…
「まず、お嬢様はこの国のプランタン自治区の首長になるために、国王に接見しなければならないのですよ?その後にはプランタン自治区に住まわれてる人たちに挨拶をしなければならないですし」
「わかってるってば。でも、あの後なんだから、少しは休ませてもいいでしょ?」
「休むのは別に構いませんが、ダイス様にご迷惑をおかけしますので、今回は1週間程度に…」
「もう少し…もう少しだけダイスさんのそばに…」
リシュリューは結構食い下がっているが、ペトラは頑なに断っている。
ペトラのこういう時の頑固さがあって良かったと改めて感じた…
なぜならその後ろで…
「じーっ…」
…ミミとブロッサムがジト目で壁から見ているからだ…
「…ダイス様…」
ふと、ペトラの声が聞こえたので、その方を見ると…
「お願いお願いお願い!ダイスさんと長く一緒に居させて!」
と、リシュリューに泣きつかれてしまって困惑しているペトラが見えた。
「…どうしましょう…」
「えぇ…」
俺も思わず困惑してしまい、結局リシュリューの要望を聞いて1ヶ月という長い時間を与えることに…
これにはミミ達も思わず…
「長すぎるにゃ!」
「そんなに居なくてもいいでしょ!?」
と猛抗議するという…
しかし、ここはリシュリュー、王族の肝の据わり方が違く…
「今のわたしにはダイスさんがいいんです」
堂々と俺の腕に抱きついてくる…
「シャァァァァッ!ダイスにくっつくなぁ!」
「ダイスさんにくっついていいのはわたしとミミちゃんだけですよ?」
「それなら、わたしもその輪に入ってもいいですよね?」
「まだ心の準備できてないにゃぁぁぁ!」
周りで暴れる3人に、俺は思わず自分が保護者であるかのような気分になった…
「…ダイス様、まるでお父さんみたいですね」
「そう言わないでくれ…今思ったところだから…」
リシュリューの滞在時間を話し合ったところで、俺は3人から離れてソファにぐでんと倒れた。
3人は色々と話をすべくミミの部屋へと向かっていった。
「はぁ…」
「大変ですね、ダイス様」
3人の子守で疲れている俺に、ペトラがそっと近づいてきた。
「ありがとよ…しかし、マジでリシュリューまであんな風に惚れられるとはな…」
「見た目はあまりパッとしませんけど、性格の面でお好きになられたのかと」
「微妙にペトラもいじってくるな…」
「私の主観ではありますが、事実ですので」
「はいはい」
そして俺はペトラに、リシュリューが普段の様子はどうなのか聞いてみることにした。
というのも、今回の事件で関わった時のリシュリューは王族らしく、華麗な佇まいで毅然とした態度を持って接していたのに、今のリシュリューはまるで子供のようであるからだ。
「なぁ、ペトラ。リシュリューって、いつもあんな感じなのか?」
「あんな感じとは?」
「いや、最初会った時は王族っぽいなぁと感じたけど、今は結構子供っぽいというかなんというか…」
「そうですよね…実は、今のリシュリュー様があのように振る舞われるのは本当に初めてでして…幼なじみの私ですら、あのような振る舞いをしたのはおそらく…6歳の時までかと」
ペトラは呆れた様子で答えた。
「…まぁ、公務なりなんなりやって、色々疲れてたんだろ…少しは休ませておけばいいさ」
「そうですね…プランタン国が消えたのにもかかわらず、あのような笑顔を絶やさないのが、やはり王族だと思います」
そう言っているペトラの表情は、どこか安堵しているようだった…
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…数日後、俺はミミとリシュリューを連れてジリッカの連合軍の本庁に来ていた。
「リシュリュー王女に敬礼!」
出迎えたマカノンはリシュリューを見るなりすぐに号令をかけ、手を頭に当てて敬礼した。
「大丈夫ですよ、マカノン隊長さん。今の私は王女ではありません」
「いえ、ですが…」
「プランタン王国は消えました。今はアトラス王国の一地区としてあるのみです。ですので、今の私はただの一市民であるわけです。王国直属の軍隊が市民に敬礼するなんて、おかしな話ではありませんか?」
「…わ、わかりました…それではリシュリュー殿、こちらへ来てください」
リシュリューに諭されたマカノンは、コホンと咳払いをしながら建物の中に入った。
今回連合軍支部に来たのにはわけがある。
「…国王との謁見か…遠隔とはいえど、なかなか緊張するな…」
「そうだにゃ…」
本来なら国王直々に会ってプランタン王国…もとい、アトラス王国プランタン領の領主任命書をもらうはずなのだが、スケジュールの都合上、今回は通話できる魔法具を用いて謁見のみという簡易的な儀式を行うのだ。
領主任命書はレタートランスによってジリッカに直接届けられている。
建物に入った俺らは、まるで大聖堂のような大きな部屋に連れられた。
その部屋の奥に、青くかがやく水晶玉があり、なにかを映し出しそうな光を放っている。
「リシュリュー殿、ここでしばしお待ち下さいませ。そしてダイス殿、少しお話がある」
「ん?俺か?」
俺はマカノンに連れられて部屋を出た。
「…仕事の話か?」
「半分正解だ。仕事というより、報告だな。君にも伝えておかないといけないと思って」
「例の大木事件のか?」
「そうだ」
あの事件の後、囚われていたトライアドの人たちは全員プランタン領へと帰した。
その道中に事件の事情聴取と現場検証をメインに行ったのは、ジリッカ軍。
カラノームの件で実績をあげているかつ、現場に近いのがジリッカであったことから捜査に任命されたというわけだ。
「それで、何かわかったことあるか?」
「これが報告資料だ」
マカノンが本を取り出し、俺の前に差し出した。
「…結構厚めだな」
「色々と考えられることがあったからな…今は簡易的に、そしてあくまで私見であると思って聞いて欲しい」
マカノンはいつも以上に真剣な眼差しでこっちを見つめてくる。
「今回の件…もしかすると、『魔法の種』が絡んでいるかもしれん」
久々に聞いたワードに、俺も思わず反応した。
「…魔法の種?それ本当に言ってるのか?」
「あくまで私見だと言っただろう?私はそう見てる」
そう言ったマカノンの目は本気だ。
「今回の事件はトライアドの力を吸収して育っていた。こんな芸当ができるのは魔族ぐらいではあるが、魔族との交流は国境となっているアリタナという町だけだ。アトラス王国に魔族がいること自体あり得ない話だから、今現状で考えられるのは…」
「人間にはできないのか?」
「技術的に不可能だ」
「なるほどな」
確かに現状俺らが考えられる事件の原因はそのくらいしかない。
詳しいことは報告書を見ることにしよう…
「さてと、そろそろ国王との謁見だ。ダイス、行こう」
「俺はパスする」
「なんでだ?今回の事件でお手柄だっただろう?国王もそのことで感謝の意を示したいと言っておられるのだが」
「俺は当たり前のことをしただけだ。それよりも、報告書を読んで今回の事件をさらに理解しておきたい」
「そうか…わかった。国王には私から伝えておく」
マカノンは優しく言うと、静かに部屋から出た。
「…さてと…一仕事、しますか」
俺は小さくつぶやいて、数百ページもある報告書を、儀式が終わるまで読み進めたのだった…
いかがでしたでしょうか?
もしよろしければ評価や感想等よろしくお願いします。
では次回、お会いしましょう。




