第46話〜崩壊の危機〜
「…この音は…まずい!」
不吉な音が聞こえた俺は、すぐにその場から立ち上がった。
「この音って…木が折れる音…だよね?」
「その音がここから聞こえると言うことは…」
「この木が崩れるぞ!」
さらに俺が叫んだと同時に、ミシミシと鳴る音と同時にドンドンと何かが爆発する音が聞こえた。
「ちっ…ちょうど迎撃地点に着いちまったのか…こんなタイミングだとは…」
俺は後悔するかのように頭をかいた。
「迎撃地点ってどういうことだ!?」
「ダーヌ達に、もし一定地点までこの木が来たら燃やすように言ったんだ。俺らの任務が失敗した時の保険なんだが…」
「偶然俺らが終わったタイミングでってことか…」
「偶然…なのかな…」
ガラットの言葉に、疑問を呈したのはリシュリューだった。
「偶然じゃないって?」
「はい…木の中に取り込まれている時、一瞬だけ木と一体化したような感覚をしたのですけど…木の速度が変わった気が…」
と、リシュリューが記憶を辿るように呟くと…
「…ふっ…フハハハハ…ッ!」
先程倒されたはずのバーグマン国王の声が高らかと聞こえた。
俺らはすぐにバーグマン国王の方を見ると…バーグマン国王はジリジリと顔をゆっくりと上げていた。
そして、強い恨みを持った目で、俺らはもちろん、リシュリューにすらも睨みつけながら話し始めた。
「忘れたか…我はトライアドの王…この姿にされても…木とは一心同体の種族だ…まわりに植物があるのであれば、そこから植物と共有し、敵を見つけることも容易いのだよ…」
バーグマン国王はそう言うと、苦しそうにしながらも立ち上がり、黒い茨を手から出した。
その黒い茨はリシュリューに向けて放たれたので、俺はすぐにリシュリューの前に立ち、茨を切るように『阿吽』で切った。
「ダイスさん!」
「俺は大丈夫だ!レティス!」
「ど、どうしたの!?ダイス!」
「早く壁を削って、みんなを避難させてくれ!俺はバーグマン国王を引き止める!」
「んにゃ!?ダイス何を言っているのにゃ!?ミミもやるにゃ!」
「ミミはガラット、レティス、リシュリューを避難させてから俺の援護に来てくれ!」
「でも、それだとダイスが…」
「俺を信じてくれ、ミミ。俺は必ず生きて帰る」
俺はミミを説得するように諭した。
「むぅ…絶対ミミが来るまで耐えててよね!」
ミミはそう言うと、リシュリューの手を引っ張ってガラットとレティスの後を追った。
「さてと…ここからが本番だぞ…人間!」
バーグマンはそう言うと、ゆっくりと立ち上がり、無数の黒い茨を顕現させて俺に襲いかかってきた。
「…こいつは…やばいな…」
俺はそう言って『阿吽』で茨を切りつけていった。
「ほう…人間にしてはやるな…」
「気配でわかるもんでね…それと今までやったことの応用って感じだ!」
と言いつつ『阿吽』で防いでいるものの、体力的には結構限界に近づいていて、結構やばい…
「…早く…早く脱出してくれ…」
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…さっきまでいた場所から少し登った場所で、私とリシュリューはレティスさんの力で壁をこじ開けているところを見ているにゃ。
「レティス!大丈夫か!?」
「平気よ!ただ、やっぱり硬くて!」
レティスさんはそう言いながら一生懸命に壁を削ってくれてる…
そういえば…
「…そういえばリシュリュー…」
「どうしたの?ミミちゃん」
「リシュリューって、さっきコアの中に取り込まれてたんだよね?」
「うん…そうだけど?」
「その時に得た力って…まだ持ってたりするのにゃ?」
「そうね…持ってるわ」
リシュリューはそう言うと、リシュリュー自身が持っていないような漆黒の靄を放ち出したのにゃ。
「その力…どうするのにゃ?」
「それがわからないの…どうすればいいのか…」
リシュリューはものすごく悲しい顔をしていたにゃ…
全くわからない力を手に入れて、それがどんな力なのか分からなくて…なんか、いつかの私みたいだったにゃ…
「…リシュリューは…この後どうするのにゃ?」
「どうするって?」
「ここを出た後だにゃ。ここを出た後、リシュリューはまた王国に戻るのかにゃ?」
「王国はないわ…でも…王家の生き残りとして、残ったトライアドと共に何かできればいいと思ってる」
リシュリューはそう言うと、真っ直ぐな目で黒い靄を握りつぶしたにゃ。
「…この力は…みんなと共に歩くために必要な力じゃない…私は…みんなを助けるために働きたい…」
「リシュリュー…」
そうだ…彼女は王家の生き残り…父から貰ったとはいえ、誰かを傷つける力なんて…
あ…この力を使えば…
「リシュリュー!いいこと思いついたにゃ!」
「わっ!?み、ミミちゃん?どうしたの?」
「その力…思う存分に出しきれる場所が!」
「え?ど、どういうこと?」
「リシュリュー、聞いて…」
私はリシュリューに思い付いたことを耳打ちをしたにゃ。
リシュリューは驚いたけど、確かな目で私を見たにゃ。
そして…
「…あなた、本当にダイスさん、好きなんですね」
リシュリューは羨ましそうに微笑んだのにゃ。
「もちろんにゃ!ダイスは…私の大切な家族なんだにゃ!」
「家族…いい家族ね」
「あ、でも正式な家族とかではなくて!」
「わかってるよ。ほら、ミミちゃんが言ったことでしょ?行くよ!」
「うん!」
私とリシュリューはそう言うと、来た道を戻った。
「…開いた!」
「よし!ミミ!リシュ…リュー?」
ガラットとレティスが振り向いた時には、そこには誰もいなかった…
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…俺は今、なんとかバーグマンの猛攻を防いでいる…
斬っては撃ち、斬っては撃ち…
間合いを確かめながら戦っているが、少なくともこれは先に行ったミミ達を守るためのもの…
「どうした、人間…いつまでそこで防いでいる」
「あんたこそ…そこまでの力を持っておいてなぜ使わない…あんたの力を持ってすればリシュリュー達を追えるはずだが?」
「貴様の魔法具のおかげで、我の力はほとんど残ってないのだよ…」
「なるほど…おかげで苦しそうにしてるわけか…」
「貴様こそ…」
結構ギリギリの勝負をしている俺とバーグマンは、互いに牽制し合いながら戦っている。
でも、俺とバーグマンでは決定的な違いがある。
それは…『ここぞ』というものがあるかないか…
ここまで自分を否定され、敵になったとはいえど愛娘の心を掴んだ男を、完膚なきまでに叩きのめしたいバーグマン…
これも俺の勘ではあるが…まだ余力を残してると思う…
一方の俺は…正直言って無い。
極めて最悪な状況だ…
俺の持っている武器は強くて決定力がないわけでは無いが…無数の茨が蔓延るこの状況で銃と刀だけはキツい…
それこそ、火炎瓶やロケットランチャーといった重火器があれば別だが…サバゲーでは全く取り扱ったことなんてない。
だから今はそんな代物は持ってないのだが…こんなタイミングで欲しいなんて思える俺も俺だな…
「…その様子だと…手詰まりのようだな…」
「…少なくとも今の俺は盾だ。これ以上は…」
「そうか、ならば…」
と、バーグマンが言いかけたその時だ。
「はぁっ!」
ずっと行動を共にしてた、そしてそこにいないはずの声が聞こえた。
それと同時に、どこからか湧いてきた黒い茨が、バーグマンの茨を縛り始めた。
「な、なんだ!?」
バーグマンは驚きの表情を見せた。
そして、それにもう1人…
「にゃぁぁぁぁぁ!」
もう聞き慣れた声も混ざる。
それと同時に、バーグマンの茨が切り刻まれる光景も見えた。
俺はふと、後ろを向くと…リシュリューが手から茨を出して応戦していた。
そして、前の方を振り向くと…ミミが満面の笑みとピースサインを俺に向けている。
「お前ら…なんでここにいるんだ!?」
「なんでって…私はダイスの家族だからね!家族がピンチなら助けないと!」
「でも逃げろって言っただろ!?」
「あの時は…従うしかなかったけど、このままじゃダメだと思って」
ミミはそう言うと、ジャンプしてその場から離れ、俺の前に立った。
続けてリシュリューも俺の隣に来た。
「…リシュリューは?」
「私は…王族として、家族の過ちを正しにきました」
「お前も家族だからか…」
「えぇ。それに、この力は持ちたくないので」
「…そういう事か…」
リシュリューの言葉で察した俺は、スナイパーライフルを顕現させて、ミミとリシュリューに小さく話した。
「…ミミとリシュリューでバーグマンのダメージを削ってくれ。特にリシュリュー、君のその力でバーグマンの力を削いでくれ。俺は申し訳ないけど…最後のトドメだけやらしてもらう」
「いいですよ。ダイスさん、任せました」
「わかったにゃ!」
そして俺らは、バーグマン国王の方を見て対峙した。
「貴様ら…覚悟は出来てるだろうなぁ!」
「えぇ、出来てますよ」
バーグマンの言葉に、リシュリューが強く言った。
まるで…いや、本当に女王様のお言葉である。
「バーグマン前国王!あなたを…倒させていただきます!」
かがでしたでしょうか?
感想・評価等お待ちしております。
では次回、お会いしましょう。




