第44話〜王の嘆き〜
「…なんなんだ、これは…」
あまりの巨大さに言葉を失っていたが、ふと、周りを見ると、うごめく影がそこら中に湧いており、まるでコアを守るように動いていた。
「…うっ…」
少しうめき声が聞こえたので、俺は咄嗟にリシュリューの方を見た。
案の定、顔を白くして、頭を抱えている。
「…やっぱ、あのコアの正体はトライアドの魂か…大丈夫か?」
「はい…先程よりは大丈夫です」
そう言っているリシュリューの顔は無理をしているようだった。
先程落ち着いていたとはいえ、ずっと仲間の悲しい声が聞こえていたのだから無理はない…
「…無理はするなよ?少なくともここに留まっても…」
「いえ。私は…私の家族を救いたいんです。これは王女としての責務だと思ってますから」
そう言ったリシュリューの目は燃えていたが、やはり無理をしているようにしか見えない…
「…わかった。とりあえず緊急事態以外は俺の後ろについてくれ」
俺は少しため息を吐きながらリシュリューに言い聞かせるように言った。
「ありがとうございます」
リシュリューは丁寧にお礼を言った。
「それでダイス、この後どうするの?」
「俺はリシュリューの護衛に回るから後ろで援護する。ミミとガラット、レティスであの影を倒しながら中心部へ行ってくれ」
俺はそう言うと、アサルトライフルをガチャリと持ち直した。
「わかったにゃ!ただし、フレンドリーファイアはしないように!」
「ミミ、その言葉どこで覚えた…」
「前の世界でダイス達がよく言ってたでしょ?それで新人の子によく教えてたのを聞いてたにゃ」
「変なところでそういうの思い出すミミはおかしいだろ…」
そんな俺とミミの会話を、ガラット、レティス、リシュリューは不思議な目で見ながら聞いていた。
「あ、フレンドリーファイアってのは…簡単に言えば味方撃ちだな。俺が間違ってみんなを撃ってしまうことをフレンドリーファイアって言うんだ」
「え…そんなことあるのか?それ…」
「細心の注意は払うが、間違って当たったら死ぬかもだから、その時は土下座して謝るわ」
「そんなことやったら許さないよ!?」
誤って撃ってしまった後の話をした俺に、レティスはぷんぷんと怒った。
「さて…そんな話は置いておいて…まずはコアの破壊をしなきゃな…みんな、頼んだよ」
「ラジャだにゃ!」
ミミは可愛く敬礼すると、勢いよく飛び出した…と思ったら、すぐに戻ってきた。
「ダイス!これ…」
案の定、ミミは拳を突きつけてきた。
それを見てガラットとレティスもすかさず拳を突き出してくる。
「いや…今はやらない方がいいだろ…リシュリューの体調も考え…」
と、俺はふと振り向くと…リシュリューがいないことに気がついた。
「リシュリュー!?」
「んにゃ!?どこに行ったのにゃ!?」
俺らは慌てて影にバレないよう探してみたものの、見つけ出すことができなかった。
「どこに行った…」
「どこにもいないにゃ…」
「こうなったら今はコアを破壊することに集中した方がいいな…」
「そうだな…みんな、お願いする」
結局あの号令は有耶無耶でやらなかったけれど、それよりもリシュリューの行方が気になるところ…
急にいなくなることはないから…おそらく…
「…まさかな」
ミミ達が出撃してる中、俺は一つポツリと不安を呟いたのだった…
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「…あれ?私…」
先程まで、ダイスさん達と一緒にいた私…リシュリューですが、謎の力で飲み込まれて、気がついたら暗い場所に…
「ダイスさん?皆さん?どこへいますか?」
私は精一杯の声で皆さんを呼びかけましたが、返事がありません…
そのかわり、懐かしい声が私の耳に聞こえてきました。
「…リシュリューよ」
「お父様!?」
バーグマン国王…私の父の声です…
でも、姿は見えません。
「お父様!今どこにいるのですか!?」
「ここだよ」
ふと、はっきりと聞こえた方を見ると…見るからに痩せてしまっているお父様の姿が見えました。
そのお父様の周りには、茨が絡み付いていて、お父様を拘束しているようでした。
しかも、その茨は、私たちプランタン王国の王家が使える魔法の一つです。
「お父様!今助け…」
私はお父様を助けようと近づこうとしたのですが…
「来るな!」
お父様が大声を張り上げて、私を寄せ付けませんでした。
「でも…」
「今は触れるでない…この茨は、お前が…私を殺してもらうためのものだ…」
「え…」
私には、お父様のおっしゃっていることがよく理解できませんでした。
「…リシュリューよ…お前に、一つ話を聞いてほしい…」
お父様は立て続けにそう言いました。
わけのわからないまま、私は黙るしかなく、お父様の話を聞くことにしました。
「…リシュリューよ…私は大罪を犯したのだ…国を売ったのだよ…」
お父様は深いため息をしながら申し訳ない声で自戒しました。
「…どういうことでしょうか?」
「…プランタン王国は、自然の国…来る者を癒す恵まれた環境にあるのは知っておるだろう?」
「えぇ…」
「その癒す力を持っている、我々トライアドの民は、長年人間と共に歩んできた…しかし…その力を求めすぎた一部の人間が、我々に危害をもたらしてきた…我々トライアドを攫い、そして奴隷にする…」
「…そうでしたわね…」
「私は、そんな奴らが許せなかった…色んな手を尽くした…」
「知っています。毎回会うたびに、頭を抱えながら仕事をされておりましたから」
私はお父様を繕うように優しく言葉をかけました。
「それでも、トライアドの民は攫われる一方…そんな時に現れたのが…パージなのだよ…」
お父様は、悔しそうに顔を歪め始めました。
「あやつは…人の対処は人でやると言って、我々に傭兵を雇うように言ってきた…その時の私は、もう頭が回らない状態で…少しでも助けられれば…そう思って雇った…そしたら…」
「…その先は…言わなくても大丈夫です…どうして、城が…国が滅んだのか分かりましたから」
今でも鮮明に残っている、嫌な記憶…
私達を襲った人間の狡猾な笑顔…焼けてゆく城…家族の死…国民の冷たい目線…全てが一気に降り注いできました。
「だから…私は…国を売ったのだよ…」
詳しい話をしてくれたお父様は、続けて私にお願いをしてきました…
「リシュリューよ…ここからが本題だ…お願い事がある…」
「なんでしょう、お父様」
お父様は私の顔を覗くように顔を上げました。
目や表情から、憎しみに溢れた感情が出ており、その口からは、腹の底から言葉を出してきました。
「この茨で私を殺し、人間どもを殺してくれ」
いかがでしたでしょうか?
今回の話は自分で色々試行錯誤して、眠気にも勝とうと頑張った結果、少々回収しきれてない部分があるかと思います。
本格的に頑張ったつもりではございますが、至らない部分もあると思うのでそこは優しくお声かけいただけると幸いです。
その上で、もしよろしければ評価や感想などあれば、よろしくお願いします。
では次回、お会いしましょう。




