第42話〜王女の悲しみと願い〜
…リシュリューは重い口を開けて、プランタン国での惨劇を話してくれた。
「私たちの国、プランタン国はアトラス王国と長い間友好関係を築いていました。私たちの浄化の力を使って、アトラス王国の人たちを癒していたこともあったのです…なので、人間と私たちトライアドは親友とも呼べる存在だったのです…それなのに…ある一部の人間が、ある時を境に私たちの仲間を拉致し始めたのです」
「拉致し始めた?」
「えぇ…人間が、私たちの仲間の家を襲って、トライアドを攫っていったと…」
リシュリューは顔を俯かせて、泣きそうになりながら話してくれた。
「それで、さらった人達は…」
「奴隷商人によって売られてしまう」
俺の疑問に答えてくれたのは、とても暗い顔になっているガラットだ。
「俺らは時々奴隷商人の摘発に身を乗り出していたから、その辺の事情に関してはわかってるんだ。奴隷にされた人達は色んな形で売られていくこともやっていくうちに知っていってな…」
「なるほど…そして、今回は国まで滅ぼすほどの人がやってきたということか…」
「でもでも、国を滅ぼすのはそうそう簡単じゃないよね?護衛もいるし」
ミミが言ったこともごもっともだ。
国を滅ぼすぐらいの人員なんてそうそう集まることなんて出来ない。
先程の小屋には魔物がいたため、その魔物を放てばそれなりにダメージを喰らうとは思うが、小屋にいた魔物だけでも国一つ滅ぼすほどの脅威はない。
「となると…考えつくのは…奴隷商人が結託してかなりの人員と魔物を用意し、国を滅ぼした…ということでいいのかな?」
と、俺が自分の考えを言うと、リシュリューは首を横に振った。
「私にはわかりません。でも、ひとつ言えるのは…あの時襲った人達は、私たちを絶望に追いやったのです…だから…今こうやって救われただけでも、嬉しいのです」
リシュリューはそう言うと、座っていた場所からスッと立ち上がり、俺らの横を通った。
そして振り返った。
「皆さん、私たちの仲間を…この醜い姿から解放させてください。女王として…改めて、どうか、お力添えをお願いします!」
リシュリューはそう言うと、頭を深々と下げた。
「んなもん、とっくのとうにやるに決まってるからな!」
ガラットは気前良くリシュリューの力になることを宣言した。
「リシュリューちゃんのためにも頑張っちゃうよ!」
と、レティスもガラットに続いて元気よく言う。
俺とミミはその2人の後に続くように…
「どこまで力になれるかわからんが、俺が出来ること全てを持ってそのお願いを聞くよ」
「うんうん!ダイスも私も、結構強いからね!」
と、力強く言った。
「皆さん、ありがとうございます!」
リシュリューは思いっきり顔を上げると、目を思いっきりへの字になった。
「さてと…これからどうするか…」
随分とプランタン王国の話に夢中になったため、滞在時間が少なくなってきている…
「どこか心臓となる部分がわかればいいんだけど…現在わかってるのは赤く光るあの『目』だけなんだよな…」
「少なくともそれを壊したら方向感覚は無くなるんじゃないか?」
「壊すって…どうやって…」
と、みんなで考えていると…ふと、俺らの足元が、微かだが赤く光っているのが見えた。
「…これか?もしかしてだけど…」
「みたいだな…」
今俺らが立っている年輪の下が、この大木の心臓となる魂であると踏んだ俺らは、早速リシュリューに解析をしてもらった。
「間違いありません!これです!」
「それならこの下を壊せば行けなくはないが…どうやって壊す?」
「試しに俺のタウロスでやってみるか」
ガラットはそう言って大剣タウロスを高々と上げ、そのまま地面に振り下ろした。
タウロスは年輪に深く刺さったが、地面を壊すほどの傷にはならなかった。
「それなら私もやってみるにゃ!」
ミミはそう言って、ガラット同様巨大爪で年輪を突き刺すも変わらず…
「それなら私がやってみるね!」
レティスは手を高々と挙げると、高々とジャンプした。
そして…体をドリルのように高速で捻りながら年輪を削り始めた。
「…レティスって、こういう感じなのか?」
「んまぁ…あいつの武器は自分の体だからな…」
「そうなのか?」
「あいつは鋼人族という特別な種族とのハーフでさ。鋼人族は、見た目は普通の人間だが身体が鋼のように硬いのが特徴なんだ。それに加えて身体能力と高く、飛べばバネのように高く飛び上がり、走れば獲物に一瞬で追いつくほどだとか…」
「超人的なドラフって…そんな奴に好かれてたら…色々大変だろ?」
「まぁな…苦労は絶えないよ…」
と、俺とガラットで話していると…
「あー!またガラット私の悪口言ったー!」
ドリルのように体を回転させて木を削っているレティスが文句を言い始めた。
「言ってねぇって!お前が少しまともになってくれってことだよ!」
「それが悪口じゃん!」
…お互いに牽制し合ってる感じが、夫婦漫才みたいでほのぼのしい…
レティスのドリルは見事に地面を削り取り、気が付いたら穴が開くほどまで削った。
これ以上削るとレティスが落ちてしまうため、ギリギリ指一本が入る程度まで穴を開けてもらい、ガラットのタウロス、ミミの巨大爪で削って人1人分入れるくらいまで広げた。
ちょうど落ちても大丈夫な高さのところに足場があるため、そこへ向かって飛び降りることにした。
「さてと…ここからが正念場だな…」
「いつまでここにいられるかわからんが、さっさとパージを倒そうか」
「そうだね!ダイス!」
俺らは穴の中に入ろうと準備した時だった。
「待って!」
リシュリューが寸前で俺らを止めた。
急に叫んだものだから、俺らはびっくりしてずっこけそうになる。
「ど、どうしたんだ?リシュリュー」
俺は素っ頓狂な声を出してリシュリューに尋ねた。
「え、ええっと…ごめんなさい。あの…ダイスさん!」
「ん?」
「これ!私も一緒にやらせてください!」
リシュリューはそう言うと、右手の拳を突き出したのだ。
「これって…別にやるものというかそういうものでは…」
「でも…これをやった時の皆さんの顔は、輝いていました…気合が入ってて、かっこよくて…私も、気合を入れたいんです。みんなを助けるために。お願いします!」
リシュリューの目は本気だ…
そうなったらやるしかないか…
「あのさ…リシュリュー王女、それは一体…」
現場にいなかったガラットとレティスは思わず頭を傾げた。
「…んまぁ…気合を入れる円陣みたいなものだ」
俺はそう言うと、リシュリューと同じように拳を突き出した。
それと同時にミミも拳を突き出す。
ガラットとレティスは戸惑いながらも、俺らと同じように拳を突き出してくれた。
全員がやることを確認した俺は、静かに口上を述べた。
「…ターゲットはすぐそこだ。ターゲットを倒し、みんなでここを脱出する。一番大事なのは…全員が無事でいること。それ以外の成果は要らない。みんなで笑顔で戻ることを祈る
…それじゃ…行くぞ!」
『おーっ!』
俺らの明るく気合の入った声が、暗い森の中を響き渡ったのだった…
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「…ふぅ…一体どのくらい人員回せばいいんだ、これ…」
「あそこの人が少ないな…余ってる人員はそっちへ向かってくれ!」
…地上班の俺らは、ダイスから頼まれたことを、ギルド隊全員の力を借りてもらって遂行していた。
「…ったく…レジスタンスの時の知識がこんなとこで役立つなんてな…」
「何をボソボソ言ってんの?ダーヌ」
ダーヌが頭をかきながらコソコソと何かをやりながらボソボソと言うと、ウンゼンがトコトコとやってきた。
「いや、ほら、前にお前らに話してなかったっけ?俺は元々アトラス王国を倒すための組織にいたこと」
「そういえばそんな話してたっけなー。私はわからないや」
「その知識が今ここで役立っているってわけ」
「ふーん…例えば?」
「これを使った作戦提案したの俺だろ!?」
ダーヌはそう言ってあるものをウンゼンの前に見せた。
それは赤々と光る鉱石みたいなもので、大きさは人差し指程度だ。
「あー…それ確か『火の起源石』だっけ?」
「そうだよ…こいつが砕けることで発生する火を使ってやるって言っただろ…」
「それがダーヌの知識に結びつくわけ?」
「レジスタンスの時にこういう作戦もやってたんだよ。こいつを使って火事を起こしてたりとかさ…」
「うわ…マジ?」
「本当だよ。今となっちゃ、ほんと、笑えねぇ話だけどさ…」
ダーヌは悲しそうに言うと、仕掛け作りの為に再び作業に戻った。
ウンゼンはそんなダーヌを見て少し気になったものの、自分の気分のままに、どこかへと去ってしまった…
いかがでしたでしょうか?
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では次回、お会いしましょう。




