第39話〜出会ったトライアドの正体〜
「こっちだ」
…俺はリシュリューとペトラを地上の救援部隊に引き渡すべく、先導していた。
というか、リシュリューの手を繋いでいるという時点でおかしい気がするが…
というのも…
「あの!手…つないでもいいですか?」
「へ?」
「あ、いや!その…少し、試したいというか…」
…ペトラの痛い視線あったし、俺も最初は断ったものの…断った時の悲しい顔を見て心を打たれてしまい、結局繋ぐことになった。
「…やっぱり…あったかい…」
リシュリューが何か言っていたが、俺は聞いて聞かぬふりをして地上への道を進んだ。
と、しばらく歩いていたその時だった。
突然地下全体が揺れ始めたのだ。
「…地震?」
俺は地震かと思っていたが、地震とは違う揺れを感じていた。
その揺れが始まったと同時に…なんと、リシュリューが俺の手から離れて、頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
「リシュリュー?」
俺も屈んでその顔を見ると…ひどく怯えた顔をしていた。
「…嫌…みんな…嫌だよ…」
「姫様!」
ペトラもリシュリューの怯えように驚き、肩を掴んだ。
が、その掴んだことすら知らないかのように、リシュリューは怯える一方だ。
「…なんなんだ…この揺れは…」
俺は思わず天井を見上げて言うと…
「ダイス〜!」
ミミが反対方向からやってきた。
「ミミ!?」
「まだ戻ってないって聞いたから慌てて来たんだけど…その子たちは?」
「話は後だ。俺はこの子を抱いて行くから、早くこの地下から出よう!」
俺の言葉に、ミミとペトラが頷き、俺はリシュリューをお姫様抱っこして地下から脱出したのだった…
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…地上へ戻り、救護班と合流した俺らはダーヌ達とも合流し、ふと小屋の方を見ると…周りの木とは全く違う、禍々しい雰囲気を醸し出している大木が、地下から姿を現したのだ。その大木は根を足にしてゆっくりとどこかへ向かったのだ。
「…なんだこれは…」
「…トライアドの皆さんの魂の結晶だって…」
「んなっ!?どういうことだ!?」
ミミの言葉に驚いた俺は、ミミと一緒にいたみんなに事情を聞いた。
その内容を聞いた俺は、怒りを通り越して呆れていた。
「…あいつ…人の命をなんだと思ってるんだ…」
「だから、早く止めないと…!」
「あいつの目的は魔物と言っているが、花粉は飛散するし、あれが人の村に飛ぶと被害の規模は計り知れない…なんとかしないと!」
「でも、あいつを止める方法なんて…」
俺らは突如現れた、『死の大木』を止める手立てを考えていると…
「…私に任せてください」
怪我の手当をしてもらったリシュリューが俺らのところに来て、力強く言ってくれた。
「リシュリュー!?大丈夫か!?」
「はい。先程はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
リシュリューは深々と頭を下げた。
それを、すぐ後を追いかけてきたペトラが見て驚いていたが…
「それで、任せてというのは?」
「はい。あの大木…おそらくですけど、中にある不純物を取り除けば、倒せると思うのです」
「不純物?」
「はい。私達の仲間の魂とは違った、かなり黒い魂が一つ、それを中心にして成り立っているのです」
「それ、おそらくパージだにゃ!」
もしリシュリューの話が本当ならば、今までの話から考えてその黒い魂はパージの魂で、その魂を消滅させれば大木は倒せるということだろう。
「そういや、あんたの名前聞いてなかったな…」
そういや、ダーヌ達とリシュリューはまだお互い知らないんだっけ…
「申し遅れました。私はプランタン国第3王女、リシュリュー・ローズと言います」
「…ん?」
リシュリューがそう挨拶したと同時に、その場は一気に固まった。おそらく俺らだけでなく、救護班の陣地にいた人達全員が耳を疑っただろう…
「…すまない…もう一回…」
「何度も言わせるな!彼女はプランタン国の王女、リシュリュー・ローズだ!」
もう一回聞こうとして、代わりにペトラに怒られたが…それのお詫びも含めて…
「「申し訳ありませんでしたぁぁぁ!」」
俺とダーヌは一気に土下座した。
「まさか、他国の皇族の方とはつゆ知らず…今までの無礼、お詫びしても仕切れないほど…」
「ダイスさん、謝らなくてもいいですよ。あなたもそうです」
リシュリューがあわあわと俺らを宥めてくれた。
しかし、さっきまで普通の態度を取ってしまったことにすごい罪悪感を感じる…
「でも…」
「でもではありません。むしろ私が謝りたいくらいです。助けてくれたあなたを疑ってしまった私も罪に等しいです。おあいこですよ」
リシュリューは可憐な笑顔で俺に笑ってくれた。
俺はその笑顔になんか救われた気がした…
「それなら良かったです…それで、リシュリュー王女」
「リシュリューで構いませんよ。今の私は普通の女の子ですから」
「そ、それじゃ改めて…リシュリュー」
俺は先程の言葉の真意について質問した。
「あの黒い魂を除けば大木は倒れると言ったが…確証はあるか?」
「断言はできませんが…黒い魂が私たちの仲間の魂を無理やり押さえつけてるように見えるのです」
「なるほど…パージの魂がストッパーの代わりをしてるから、そいつを外せばみんな解放されるんだな…」
「はい。私がその黒い魂を感じ取ったのは、木の上でした」
「木の上?」
「はい。木の上からその黒い魂を感じ取りました」
「そうか…となると…」
俺はうーんと考えた後、ある作戦で行くことにした。
「…なぁ、ダーヌ。あの大木が向かう先に、あの大木より高い場所はあるか?」
「今向かった方向だと…一つある」
「それじゃ、俺はそっち向かう。みんなは下で少しでも足止めをしてほしい」
俺のその一言に、みんなは驚きを隠せなかった。
「…もしかしてダイス、上から攻めるの!?」
「あぁ。果たしてうまく行くかわからんがな…」
「それだったら私も行く!」
「ミミもか?」
「そりゃ、ダイスだけ行かせたくないもん!」
ミミはやる気たっぷりの表情を見せた。
「…それじゃ、ミミは俺の援護を頼む」
「わかったにゃ!」
「そして、地上部隊はダーヌの指揮で動いてもらいたい」
俺の言葉に、みんなは驚きを隠せなかった。
特にダーヌはかなり驚いていた。
「なんで俺なんだ!?」
「勘だ。でも、お前ならみんなを指揮できると思ってる」
「勘って…」
「それでもやってくれ、ダーヌ」
俺はダーヌに頭を下げた。
それを見たダーヌははぁとため息を吐いて…
「…わかった…なんとかやってみる」
「ありがとう」
俺がダーヌにお礼を言った後…
「それじゃ…」
と、大木討伐に動こうとしたその時…
「いつものアレ、やるにゃ!」
早速取り掛かろうとした時、ミミが急に、俺らがやった円陣をやろうと叫び出した。
「いや、いつものじゃないだろ!ミミ!」
「だって、それをやらなきゃ始まらにゃいだもん!」
「そうだな、アレは俺も気に入ったし、やらないと気合入らないしな」
「ダーヌまで!?」
「おそらく皆さん同じことを考えてますよ、ご主人様」
「メノールやみんなまでもか…はぁ…しゃあない…」
俺は観念して、右手の拳を突き出した。
ミミ達も同様に右手の拳を突き出す。
その光景を見たリシュリューとペトラは不思議そうな顔を見せた。
「…今回の目標は『死の大木』の討伐。毒の花粉に長く浴びないこと。みんな生きて帰るためによろしく頼む。いいな」
俺の言葉に、みんなうんと頷いた。
「それじゃ…行くぞ!ミッション開始!」
「「「「「「おぉー!」」」」」」
そんな俺らの円陣に、救護班全員が拍手した。
リシュリューとペトラも感心して拍手してくれている。
「かっこよかったです、ダイスさん!」
みんながそれぞれ自分の持ち場は向かう準備をしていた時、リシュリューが俺のところに来て話してきた。
「そんなでもないけどな…あ、そういや…」
「ん?どうしましたか?」
「さっき、リシュリューは頭抱えていたけど…どうしたんだ?」
俺は地下での出来事について話すと、リシュリューは少し暗い顔になった。
「あ、あれはその…仲間達の叫び声というか…助けてって声が聞こえて…」
「…そうなんだ…」
「…それが怖くなって…何もできなくて…」
リシュリューが段々と震え声になっていったので、俺はおもむろにポンとリシュリューの頭に手を置いた。
「…ダイスさん?」
「大丈夫だ。俺が代わりに救ってくる。リシュリューの分まで気持ち届けてきてやるからよ」
「ダイスさん…ありがとうございます」
リシュリューは俯いたまま、涙を流しながらお礼を言った。
不甲斐ない自分に悩んでいたのだろう…
「…大丈夫だ…」
俺はもう一回、今度は小さくつぶやくように、リシュリューに言ったのだった…
いかがでしたでしょうか?
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では次回、お会いしましょう。




