第38話〜捕まっていたのは…〜
定期サボりました
すみません
…後から来た冒険者の方が、捕まった人たちの解放をしていた一方で、俺は最初に見つけた女の子2人をじっと見ていた。
いや、説得しようと機を伺っていた。
精木族の女の子はおそらくマカノンと同じくらいやや年上といった感じで、精花族の女の子は俺と同じくらいの子だ。
俺は2人に持ってきていた食料を渡そうと置いたのだが…
「…」
「…」
…依然、精木族の女の子が睨みをきかせている。
とりあえずミミ達には他の人がいないか捜索にあたらせ、俺は1人、檻の入り口前で座って待っていた。
というのも、檻を解放しても出なかったのだ。
もっとも、俺らが無視していれば動いてくれるのだろうけど、俺は放っておくことが出来なかった。
なので、今はこうやって説得に耳を傾けてくれることに注力している。
「…なぁ、質問していいか?」
と、俺が言っても…
「…」
反応は無し。
精木族の女の子がより一層目の鋭さを増しさせただけだ。
一方の精花族の女の子は俺を見てずっと怯えていた。
何をされるのだろうかと思っているのだろう…
まぁ、仕方あるまい…国を滅ぼされ、その元凶が人間ならば全てがそうであると思ってるに違いないしな…
ただ、この2人を置いて出たところでどうなるか正直不安だしな…
と、そこへ…
「ダイス!」
マカノンがせっせと走ってきた。
「マカノン。どうしたんだ?」
「いや、ずっとその部屋から出ないというからな…何があったのかと…」
「…この子達ですよ」
俺は目で檻の中の子達を指した。
そして、俺はおもむろに立ち上がり、マカノンに耳打ちした。
「…2人は人間嫌いになってます…おそらく、マカノンも人間の味方と思って近づかないでしょう…」
「そうか…それなら、私はまだこの中を探索するから、君は2人のことを頼む」
「わかった」
俺はマカノンと相談し、引き続き座って2人の説得を試みた。
すると、マカノンが来ていた鎧を見て、少しは安心したのか、精木族の女の子が俺に質問してきた。
「…あんた…誰?」
見た目同様のボーイッシュな声が檻の中をこだました。
「お、ようやく口開いてくれたな…」
「質問に答えろ。あんた誰なの?」
「俺はダイス。ただのしがない傭兵業をやってる者だ」
「…そう…」
女の子は拍子抜けしたのか、口をつぐんでしまった。
そのかわり、今度は精花族の女の子が話してきてくれた。
「え、ええっと!私は…リシュリューと…申します…」
リシュリューと言った女の子は、精一杯の声でお礼を言った。
「姫様!彼は見ず知らずの…」
精木族の女の子がリシュリューの行動に驚き、慌てて止めようとした。
「大丈夫よ、ペトラちゃん。彼は悪い人じゃない…だって、ここまで私たちに手を加えなかったじゃない。それに、食料まで出してくれるなんて…」
「し、しかし…この食料に毒が仕込まれてる可能性も…」
ペトラと言われた女の子は、未だ俺のことを信じていない様子だった。
「入ってねぇよ、毒なんて。それなら今ここで一欠片食ってやろうか?」
俺はそう言うと、持ってきた食料を手にとり、ちぎってそのかけらを口の中に放り込んだ。
毒なんて入ってないため、特に体に支障はない。
「…本当みたいだな…」
2人は恐る恐る食料に手を出し、ようやく口に運んだ。
「…2人はどこから?」
「…『プランテン国』という国です。もう、ありませんが…」
「…滅ぼされたからか…」
「えぇ…奴隷商人が使役している魔物に襲われて…」
そういえば、この小屋に入ってくる時魔物がいたっけな…犬型の魔物やリザードまで、かなり大量の魔物が小屋で飼っていた。
「…許せねぇな…パージってやつ…」
「知っているのですか?」
「俺は資料を読んだくらいだが…ようやく捕まえられることになったらしい…認知していたものの、決定的な証拠を見つけ出せなかったという…本当、申し訳ない…」
俺は申し訳なさに頭を下げた。
そもそも俺が認知したのはたった2週間前ではあるが、それよりも前に認知されていたうえ、証拠を見つけることが出来ずに野放ししてしまったということに、同じ人間として恥ずかしい気持ちになった。
俺が深々と頭を下げた姿を見た2人は、驚きの表情を見せた。
「ど、どうしてダイスさんが!?」
「そうです!あなたがやったわけでは…」
「いや、同じ人間として不快な気持ちを味わせてしまったことについて、本当に申し訳ないと思ってる。本当に、ごめん」
俺はさらに頭を下げて、お詫びした。
2人はその様子を見て狼狽えたが、やがて小さな笑いに変わった。
「…ダイスさん、変な人」
「あ…悪りぃ…」
俺はすぐに顔を上げると、2人はくすくすと笑っていた。
さっき睨んでいた子と怯えていた子とは大違いだ。
「でも…なんか、ダイスさんを見ると、全ての人がそうじゃないかもって思います」
「そうだな…先程は申し訳ないことをしてしまったな、ダイス殿」
「いえ…2人とも、笑顔になってよかったです」
俺も思わず笑顔になった。
「とりあえず、お二人はこの後地上へお送りします。食料食べ終わってから行きましょうか」
「はい!」
この時、リシュリューが俺のことをうっとりとして目で見ていたことに、俺は全く気づかなかったのだった…
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…一方、ミミ達は他に囚われている人たちを探していた。
「…しかしこのメンバーで一緒にいるのって珍しいというか…」
「いつもはダイスがいるからねー」
俺がいないパーティで進んでいることに、みんな違和感を感じながらも歩いていた。
「でもさ…ウンゼンちゃんはダイスの事嫌いなはずなのに指示受けてよかったのか?」
ダーヌはウンゼンの方を振り向きながら言った。
「どういうことよ」
「いや、少なくとも俺らはダイスのことを好意的に見てついていってるけどさ…ウンゼンちゃんはそうじゃないだろ?」
「何よ。ついてきちゃダメなの?」
「そういうわけじゃないけどさ…」
堂々巡りになりそうになったダーヌは、諦めて前を向くことにした。
「…別に…あんなやつ知らないわよ…」
と、ウンゼンは誰にも聞こえない声でボソリと言った。
みんなはしばらく歩くと、ある一室にたどり着いた。
「…ここはどこにゃ?」
そこは、天井がかなり高いところにある部屋で、部屋の壁にはさまざまな研究に必要な機械やポッドがあり、それらから中央にある謎の大きな木にプラグが繋がっていた。
「なんだ?この木…」
「なんか、嫌な感じがする…ミミさん!みんな!あの木に触らないで探してみよっ!」
ウンゼンの言葉で、探索をしようとしたその時だ。
「…おやおや…もうお客さんはここまで来ていたのか…」
木の反対側から声が聞こえ、その影から初老の男が現れた。
まるで研究者みたいに白衣を着ており、頭頂部は禿げている。
腰が曲がっておらず、威風堂々とした佇まいをしている。
この男こそ、奴隷商人のパージだ。
「あんたね!奴隷商人のパージって奴は!」
「おやおや。いつのまにかそんな肩書きを?わしはただの研究者じゃよ?その過程で人の売り買いをしていたのは事実じゃがな」
「研究?」
「そうじゃ。わしの研究は人類を救うための研究なのじゃ」
「人類を…救う?」
パージの言っていることに、ミミ達は首を傾げた。
「ここ最近の自然破壊が問題視されていることについては、君たちはどれだけ知っておるか?」
「…さぁね…」
「うむ…ここ最近、アトラス王国では人口が増加傾向にあってだな、首都アトランティスの周りの森林は、増加する人口に先立って伐採されておるのじゃ。しかし、森林が無くなると元いた動物達はいなくなり、生態系が崩れる。そして、街に魔物が現れる…さて、君たちはこれをどう解決する?」
パージの質問に真っ先に答えたのはメノールだ。
「自然と共存できる環境を作れば良いのでは?」
しかし、メノールの言葉にパージはすぐに否定した。
「ナンセンスじゃな。人口は未だに増加しておる。そのために森林を減らしたら魔物の被害が出る。ここでわしが考えたのは、魔物自体を全滅させるということじゃ」
パージから飛び出した言葉に、ミミ達は怪訝な表情を見せた。
言っていることに関しては辻褄が合う。
実際、冒険者ギルドに要請される依頼の多くは魔物退治だ。
しかし、ミミ達はパージの言葉に違和感を感じていた。
「それはそうと…この木なんじゃが…なんだかわかるか?」
「さぁ?」
パージの問いに、ブロッサムが問うように言うと、パージは嬉しそうな表情を浮かべた。
「そうかそうか…それなら教えてあげよう…この木は、トライアド共の魂の結晶の塊なのじゃよ」
「え…」
ミミ達はパージの言葉に絶句した。
「どうすれば魔物を消し去ることができるのか…そこでたどり着いたのは、トライアドの持つ万物を癒す力。トライアドの魔力は人間の何倍も持っており、その力を癒す力にしているそうだ。その癒す力を反転させれば、魔物共は消え去ること間違いないとな?ならば、トライアドの魂をいただき、その魂を反転させて具現化させれば魔物を絶滅させる兵器が生まれるというわけじゃ」
パージの説明に、ミミ達は驚き、一瞬で怒りを覚えた。
「…それじゃ…あんたが実験にしたトライアドの皆さんって…」
「実験に犠牲は付き物じゃ」
「ふざけないで!」
ミミはそう言って、勢いよくパージに飛び出した。
が、すぐにミミは退避した。
木から花粉が噴出されたのだ。
「っ!?この花粉は!?」
「ほうほう…勘がよいじゃの。この花粉は毒性が極めて高い花粉でな?普通の人じゃとものの30分で死ぬぞよ」
「んなっ!?卑怯な!」
ミミ達はガスが蔓延してきているので、それに合わせてジリジリと下がっていった。
「おい!あんたはなぜ生きてる!」
ダーヌがそう言ったのは、パージが花粉が飛んでいる中でも生きていたからだ。
「ふふふ…わしはすでに魂を売っておるからな…」
と、パージがそう言うと、パージの体が途切れ途切れになっていた。
今ミミ達が見ているパージは、ホログラムによって出現しているのだ。
「っ!?そんな!?」
「フフフ…わしの悲願は達成されるぞ!」
パージのホログラムがそこで終わると、それと同時に部屋がグラグラと揺れ始めたのだった…
いかがでしたでしょうか?
もしよろしければ評価や感想など、よろしくお願いします。
では次回、お会いしましょう。




