第33話〜ちょっとした日常と不穏な影〜
皆さんお久しぶりです。
ようやく目処が立ったので少しずつ定期的に出そうと思います。
またストックが無くなったら更新停止しますので、その時はよろしくお願いします。
…カラノームでの事件から数日…
その間、しばらく休んでいた俺らはこの日、街に来ていた。
実は、俺らの今のログハウスのそばを耕し、畑にしようと考えているのだ。
事の発端はブロッサムの発言だ。
「ねぇ、ダイスくん。野菜とかは自分で作ってみない?」
意外と広い土地があるログハウスの周りを活用しないかと考えていたらしく、その結果畑を作ってみることにしたのだ。
そこで、まずはどの野菜を育てるか決めるべく街に出て種を見ようと考えていた。
と言っても、行くのは毎度お馴染みのアルフの商店。
あそこは品揃えいいからな…
「やぁ、ダイス」
「どうも、アルフ。今日も買い物だ」
「今日はどんなものをお探しで?」
「今日は…と言いたいけど…」
俺は野菜の種があるか尋ねたかったが…
「すごい!こんな商品売ってるの!?」
「これは…私達の故郷の…!」
「この小道具可愛い!しかも実用的じゃない?」
初めてアルフの店に来た3人が大はしゃぎしてる…
「彼女達は?」
「新しい仲間だ。桜色の髪の毛の人はブロッサム・アリア。元カラノーム副隊長さん。そこにいる犬耳の子達は狛犬族のアカギとウンゼンだ」
「軍の副隊長に狛犬族!?ダイス…前の世界で何かいい事したのか?」
「んなわけねぇ!」
少なくとも俺は普通に生きているだけの人間だ…
良いかどうかなんてわかるわけないし…
「まぁ、この商店の中を見て回るくらいだったら彼女達だけでも十分だしね。それで、今日のお目当ては?」
「あ、そうだった…今日は野菜の種を探しに来たんだけど…まぁ、最初だからトマトとかナスとかあるかな?あとはジャガイモも」
「あるよ。こっちに来て」
俺はアルフに誘われて商店の奥に入った。
誘われた一室には、さまざまな植物の種があり、俺が欲しかったトマトだけでも何十種類もの品種があった。
流石に植物が好きな俺でも、どの品種がいいのかがわからない…
「これはすごいな…どれが良いんだろ…」
「なら、ここのマイスターに教えてもらうと良いよ。どんなものが必要かは聞けばわかるし」
「いるのか?そんな人…」
「何せ色々なものを取り扱っている商店だからね。その道に詳しい人がいないと成り立たないし」
「納得した…」
俺は早速、アルフの紹介で野菜マイスターの人に、おすすめの野菜や果物を選んでもらった。
「…この品種は害虫とかに強いから、初心者にはおすすめだよ。しかも味は美味しいからなおおすすめ」
「そうなのか…よし買った!」
マイスターのおすすめを選んでもらい、俺は用が済んだのでみんなの元へ戻ると…
「すごーい!この宝石本物!?きれーい!」
「なるほど…こういう構造に…」
「この道具なら…こう使えるかな…」
まだ3人が商店の中を吟味していた。
たった30分とはいえ、ここまで興奮するのか?と思うほどだが…気にしないでおこう…
「ねぇねぇ、ダイス〜」
ふと、ミミが近寄ってきて俺に話しかけてきた。
「ん?どうしたんだ?ミミ」
「ちょっとこっち」
ミミは俺を連れてあるものを見せてくれた。
それは、クロスタルの商品棚にある物…
「…これは?」
かなり小さい、赤いクロスタルだが、核となるクリスタルに何やら奇妙な形のものが付いていた。
まるで耳に装着するような…
ということは…
「これ、耳につけるタイプの?」
「そうそう。ほら、この前のカラノームでの事件あったでしょ?」
「あ、あぁ…」
ミミが言いたい事がよくわかった。
つまり、突然の出来事が起きた際の連絡ツールが欲しいということだ。
前のカラノームの事件で、俺がブロッサムを助けるために行動しなければならなかったところを、感情に任せてしまってみんなのことを無視して出てしまった…
流石にその二の舞だけはしたくない…
俺は早速、そのクロスタルの値段を見ると…やはり破格…
小型化するにつれて割高な値段になっている…
「…やっぱそんな値段するよな…」
「ねぇねぇ、こんなのはどうだかにゃ?」
と、ミミが指さしたのはヘッドセット型のクロスタルだ。
他のに比べると割とマシなお値段だ。
「これなら人数分は買えるな…それじゃこれで…」
と、俺がヘッドセット型を買おうと離れたその時だった。
「ちょっと待って、ダイス君」
俺はブロッサムに呼び止められた。
「ん?どうした?もう買い物終わらせた?」
「まだだけど…クロスタル買うのよね?」
「あぁ、そうだが…」
「それだったら、トランシーバー型のも買っておいて。必ず必要になるから」
ブロッサムはトランシーバー型のクロスタルも買うように言った。
というのも、ブロッサム曰く軍の人たちも実は耳に装着するクロスタルを持っているのだが、それを使うにはそのクロスタルを使用するのに半径1キロに入る必要があり、それより遠くなると前のメノールの事件の時に使ったような、あのトランシーバー型を使用するという…
「そうなんだ…」
「だから、トランシーバー型も買っておいてね」
かなり痛いが仕方ない…
買っておかないと今後に影響出そうだしね…
ということで、俺らが使用するためにはまずはトランシーバー型を使って現状報告、そして現地で互いの意思疎通のためにヘッドセット型を使用するということにした。
これは家に帰ったら言わないとな…
「…それにしてもなかなかの出費だな…やばいな…」
カラノームでの事件の報酬が、今回の買い物でほとんど消えそうだ…
その半分は俺らの今後に必要なものであり、そこからさらに4分の1は新しく来た3人の部屋の新調のため。
そして、残り4分の1はというと…
「ミミ!それいるの!?」
「いるのー!」
…ミミの趣味だ…
ミミは日向ぼっこの安眠の為に、柔らかいソファを買おうとしているらしく、俺らの世界でいう『人をダメにするソファ』を堂々と持ってきていたのだ。
結局、ミミに押される形で購入したものの、出費が痛い…
「いやぁ、いい買い物したにゃ!」
家へ戻る馬車の中で、ミミは早速購入したソファに乗ってゴロゴロしていた。
「いいなぁ…ミミ、私もいい?」
「いいよ、ウンゼンちゃん!ほら、一緒に!」
「わーい!」
ミミとウンゼンはもうすっかり姉妹みたいだ。
その様子を見たアカギは…
「…私…ミミさんより年上なの…年下なの…」
と、哲学モードに入ってしまったが…
一方、ブロッサムはメノールと女子トークを展開していた。
「え!?メノールさんって、あの貴族の!?」
「はい。そこで様々なことを勉強させてもらいました」
「そうなんだ…でも、あそこは…」
「そうですね…私はあの人に…」
と、結構重い話をしている気がしなくもないのでこれより先は突っ込まないでおくとしよう…
「しかし、賑やかになったもんだな。このチーム」
「こんな風になるとは思ってもみなかったがな。はてさて…帰ったら早速畑弄りをしますか」
俺はめいいっぱい背伸びをして、思わず空を見上げた。
夕暮れの赤い空を眺めながら、俺は後ろのガヤを気持ちよく聞き流したのだった…
ちなみにこの後…
「そこ!ちゃんと腰入れて!」
「なんでにゃあ〜!ひいっ!?」
「腰に力入れてって言ってるでしょ!?ダイス君も!」
「おれ…やったことないんだってば…」
ブロッサムが畑仕事をやると、なかなかスパルタになることがわかった…
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…一方…
「くそっ!ここから出させろ!」
…とある場所の地下にて、ある男が喚いていた。
その男の名は…ザルツ…
カラノーム軍第一班長を務めていた男だ。
軍の組織構成は隊長、副隊長の下にいくつの班に分かれている。
この班は全国共通で、数字が若い順に実績を残している人たちが所属しているのだ。
だから、第一班長はかなりの実力者であるのだが…
今はかなり堕ちている…
「くそっ!くそっ!くそっ!なんで俺が…結局金なんだよ…この世は金なんだよぉ!金こそ正義なんだ!」
と喚くも、誰も聞いてくれない。
「…誰か〜。誰かいませんか〜」
どうせいないだろうと、ザルツが呑気な声で呼ぶと…どこからか靴音が聞こえた。
「…ん?」
その靴音はザルツの方へ近づいていき、そして…ザルツの前で止まった。
ザルツの前に男が現れた。
地下室に似合わぬ煌びやかな宝飾を付けた青いマント…一切の曇りも見せない銀色の鎧…ライオンのたてがみと思わせるほどの隆々とした金色の髪の毛…宝石よりも美しいと称される青色の目…
その男を見た男は、救われたという表情を見せた。
「出してください!お願いします!出してください!」
ザルツはすぐに懇願した。
もし、これが普通の憲兵だったらここまで懇願はしない…
ザルツは、今目の前に立っている男が誰かを知っているのだ。
だから強く懇願したのだ…
しかし…男はそんなザルツを、哀れな目で見始めたのだ。
しかもその目は、ひどく濁っていた。
そして…
「…え?…」
ザルツの目の前の意識が一瞬にしてなくなった。
男が剣を持っている。
その剣には血が付いている。
しかし、男が切った様子は見えなかった。
いや、恐ろしいほどの速さで切ったのだ。
男の目の前には、バラバラにされた頭と、頭のない身体部分が置いてあった。
いや、今出来た物だ。
「…汚らわしい…俺の計画の失敗をしやがって…」
男はそう言うと、ナプキンで剣に付いた血を拭いた。
そこへ…
「…グリアス様…」
若い女の人が入ってきた。
明るい赤のドレスにティアラを付けている。
首飾りは付けていないものの、その美しさは世の男性を虜にしてしまうと言う。
「…メイス…」
グリアスと呼ばれた男は、女の人をメイスと呼び、じっと見つめた。
そして…
「…こいつが死んだ理由をネズミのせいにしろ」
グリアスはそう言うと、その場を立ち去った。
「はい、仰せのままに、グリアス様」
女の人は、まるで少女のような笑みで一礼した。
まるで、グリアスという男を慕っているような笑みだ。
このグリアスという男が、将来国の存亡に関わる大事件を起こし、ダイスと対峙することになるとは、この時は誰も予想していなかった…
いかがでしたでしょうか?
もしよろしければ評価や感想など、よろしくお願いします。
では次回、お会いしましょう。




